第二話 何かが変わり始める
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雨が止んだ翌日、優希はいつも通り重い足取りで学校へ向かった。
昨日の出来事は、まだ頭の中に鮮明に残っている。
あの子――一ノ瀬詩乃。
同じクラスの、どちらかというと目立たないけれど、静かに周囲と打ち解けている子。
彼女が自分に話しかけてくるなんて、想像もしていなかった。
教室に入ると、詩乃は窓際の席で小さなパンを手にしていた。
どこか控えめな動作だが、彼女の周囲には数人自然とが集まっている。
1.5軍――と言えばしっくりくる立ち位置。周りからも悪く思われず、いつも自然体な子だ。
優希は自分の席に向かいながら、何気なくその光景を眺めていた。
ふと、詩乃が気づいたように視線を上げる。
「おはよう、雨宮くん。」
柔らかな声が、教室のざわめきの中で届いた。
「あ……おはよう。」
優希は少しだけ驚きながら返事をした。
授業が始まり、昼休みが訪れると、詩乃はいつものように教室の片隅でお弁当を広げていた。
彼女が何かに夢中になる姿は、どこか穏やかで、見ているだけで安心感を与える。
そんな詩乃のそばに、クラスメートの数人が集まってきた。
「詩乃ちゃん、それ美味しそうだね!」
「うん、これ? コンビニで買ったんだけど、意外と美味しいんだよ。」
笑顔で話す彼女に、自然と周りの笑顔も広がる。
優希はその光景を遠くから見ていた。
彼女が放つ雰囲気には、特別なものがあるわけではない。
それでも、人を安心させる何かがある。
昨日、俺に傘を渡したときの表情が思い浮かぶ。
あの優しい笑顔があったら、どれだけ救われたのだろう。
その日の放課後、優希はいつものように寄り道をしていた。
雨は降っていないが、あの公園のベンチに腰を下ろした。
「ここにいると、少しだけ楽になる気がするな……。」
ぼんやりと空を見上げる彼の耳に、ふいに聞き覚えのある声が届いた。
「今日もここにいるんだね。」
振り返ると、そこには詩乃が立っていた。
制服のスカートが風に揺れ、髪が陽の光を受けてきらきらと輝いている。
「……なんで。」
「ん? 学校の帰り道だから、つい寄り道しちゃって。」
軽く微笑む彼女は、昨日と同じように自然体だった。
「……帰り道って、こんなところ通るのか?」
「うん。ちょっと遠回りだけどね。」
詩乃は優希の隣に座ると、小さな紙袋を取り出した。
「これ、パン屋さんで買ったんだけど、一人じゃ食べきれなくて。」
そう言いながら、袋の中からクッキーを取り出し、優希に差し出した。
「……いや、いらない。」
「またそんなこと言ってる。」
彼女はくすりと笑いながら、クッキーを優希の手に押し付けた。
「こういうのはね、素直にもらった方がいいんだよ。」
「……」
優希は黙ったまま、差し出されたクッキーを受け取る。
詩乃が隣で小さく笑うと、空にはほんの少しだけ夕焼けが広がり始めていた。
次回予告「雨音の向こう側」