②
アラネウスと名乗る老人に、イオリは聖女について聞こうとする。
「アラネウスさん。俺は、えっと、田舎の出で聖女についてあんまり詳しくないんだけど教えてくれなませんか?」
イオリがそう質問すると、アラネウスは眉間にしわを寄せ、どこから説明するか悩むような素振りをしてから答えだす。
「…そうさな。お前さんも魔王と勇者の御伽噺くらいは聞いたことあるじゃろう?その勇者の仲間の聖女のことよ。『勇者』『聖女』『賢者』の役割は受け継がれる。そんな特別な存在をお前さんは殺してしまった…と。」
「冤罪です!俺はやってない!…すみません取り乱しました。」
「きっひっひ!怒るのも当然よ。仕方あるめぇ。」
全く気にする素振りのないアラネウスにイオリは安心する。これが大人の余裕か、と尊敬のようなものを感じ始めたが、こんなところにいるやつがまともな大人なわけないかと思いなおした。
「にしてもお前さんは本当に運がないのぅ!…本当に、運が無い。」
「まぁなんじゃ。来世に期待するんじゃな。儂は寝る。お前さんも疲れとるじゃろ?もう寝とけ。」
老人は好き放題イオリの現状を笑った後、自分の牢の隅っこに転がる。そして数秒もせずにいびきをかきだした。
それを見てイオリは一つ大きなため息をつく。
(今何時だ?眠くはないけどもう夜なのか?)
まだ知らなければならないことは沢山あるが、他の牢屋にわざわざ話しかけるほどの気力がイオリにはもうなかった。
イオリの記憶では、今日は平日だったから普通に学校に行って、適当に授業を受けて、何もすることがないから家に帰って、いつも通り家族と夕食を食べて、特に何もせずにベッドに入ったはずだ。
それが目覚めた場所は裁判所のような場所。ただ流されるままに牢屋の中。まだ夢だと疑いたいと思っている。
イオリは倒れるように牢屋の隅にある布団のようなものに倒れこむ。固く冷たい感触と腹を暴れまわる空腹感が、イオリにここは現実だと突きつけた。
「…帰りたい。」
日常に帰りたかった。異世界ってなんだよ。聖女?そんなもん知らねぇ。関係ないだろ。クソ野郎が背中蹴りやがって。こんな怖い奴らといたくねぇよ。
悲しみと苦しみと色々なものが溢れ出して消える。最後に残ったそれはきっと怒りだ。
(絶対に帰る。こんなとこさっさと抜け出してやる。どうせ何もしなきゃ死刑なんだ。とことんやってやるよ。)
強く手に力を籠める。決意が固まり道は定まった。
ーーシライ・イオリの脱獄劇が幕を上げる。




