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【シリーズ】ちょと待ってよ、汐入

【6】ゴーストバスターズ? (2024年夏)

【シリーズ】「ちょっと待ってよ、汐入」として投稿しています。宜しければ他のエピソードもご覧頂けますと嬉しいです。


【シリーズ】ちょっと待ってよ、汐入

【1】猫と指輪 (2023年秋)

【2】事件は密室では起こらない (2023年冬)

【3】エピソードゼロ (2011年春)

【4】アオハル (2011年初夏)

【5】アオハル2 (2011年秋)

【6】ゴーストバスターズ? (2024年夏)

            (続編 継続中)

ゴーストバスターズ?

僕、能見鷹士は、探偵業を営む汐入悠希の無茶振りにいつも巻き込まれてしまう。この間は猫探しに付き合わされ、散々な目に遭った(【1】猫と指輪)。まあ、汐入の無茶振りをしっかりと断らない僕も悪いのだけれど。

汐入とは高校生の時分からの付き合いで(【3】エピソードゼロ)、今は共に個人事業主ということもあり、たまに困り事を相談し合っている。今日は夏の暑い最中、唐突に「なあ、怪談を聞きたくないか?」と話しかけてくる。汐入よ、今度は何に巻き込もうとしているんだ?

   ゴーストバスターズ? 第一章


 暑い。とにかく暑い。もはやこれが平年並みの夏なのかも知れない、と思うくらい毎年酷暑の夏が続いている。もう既に陽は落ちているが、そんな中を歩いても、熱の籠った風船に閉じ込められた様に全く涼しくない。ホント、命に関わるな、これは。ようやく視界に大森珈琲をとらえた。やっと店の中で涼むことができる、と僕はホッと一安心しドアを開いた。


「いらっしゃい、能見くん!」

と大森さん。

「よう、能見、来たか」

と汐入。

「外は命に関わる暑さだ。汐入、アイスコーヒーを頼む!」

とオーダーする。


 僕、能見鷹士は個人事業主としてコンサルタントを生業としている。元は大手シンクタンクで働いていたが、ブラックな企業風土に嫌気がさし、三十路が見え始めた28歳で退職。一念発起し、中小企業に特化した地域密着のビジネスコンサルタントとして起業した。B級グルメ、クラフトビール、映えスポットやパワースポットの開拓、アニメとのコラボや聖地巡礼のツアー、プロモ動画、SNSの活用など、商店街復興、地域活性化の為にあらゆる企画を地域の人と一緒に伴走するのがモットーだ。


 そして会話の相手は汐入悠希。亡き父親の残した探偵事務所を継いでいる。たまにちゃんと探偵の仕事が舞い込んできているようだ。実を言うと汐入とは中学時代の同級生なのだが、当時はあまり親しくはなかった。女子剣道部にいたかな、ぐらいのうっすらした記憶しかない。高校は別だったが通学の電車が同じだったので話すようになり、それから親しくなった。


「アイスコーヒーとは。やはり日本人だなぁ、貴様は」

ん?何が?よく分からないけど汗がひどくてそれどころじゃない。額をハンカチで拭きながら

「ああ、頼むよ」

と適当に相槌を打つ。出されたアイスコーヒーで涼をとりホッと一息ついた。

「夏は暑いだろ?」

と汐入が当たり前のことを聞いてくる。

「見ての通りだ」

「そうだな。日本人は涼をとるためにアイスコーヒーを編み出したが、日本には昔から他にも涼をとる手段があるよな?」

「?」

なんだ?なんか嫌な予感。風鈴や水羊羹などと云う風流な言葉が出てくるとは思えない。


「なあ、怪談を聞きたくないか?」

聞きたくない。どうせまた何かに巻き込まれるんだ。もの凄く冷めた目で汐入を見つめる。

それを微塵も意に介することなく汐入は続ける。

「これはな、あるクライアントに聞いた話なんだが・・・」

「いや、待て、汐入!聞きたいとは一言も言っていないぞ!」

「まあ、そう言うな。聞け」

と言って、嫌がる僕に構わず汐入は話し始めた。


 駅の向こう側の少し外れに、スクナ理学研究所ってのがあるだろう。あそこは大手製薬会社など、企業からの委託を受けて薬の研究をしたり薬効を確認したりしているらしいんだが。その為の動物実験もしているらしいんだ。例えば、抗がん剤の薬効の確認とかな。マウスに癌を発生させて、薬を投与したマウスと投与しないマウスを比較する訳だな。ま、癌が治っても治らなくても、解剖して病巣を調べるからマウス達の命は助からない。我々人類は、医学の発展のために尊い命を頂いていると言うことだな。なので、研究所には尊い犠牲を祀る祠がある。


 研究所では動物を飼っている為、設備は24時間稼働している。それに化学的な分析をする装置も無人で稼働している。だから、地震や火事などの災害に備え社員が当番制で当直をして、夜、研究所に泊まっている。半年ぐらい前から、当直をした社員から不可解な現象が報告されるようになった。どうやら、出る、らしい。夜、研究棟から、ウォウォウォウォウォゥと動物の唸り声のようなものを聞いた、振動を感じた、白い影が動いているのを見た、バンバンバンと何かが壁を叩く音を聞いた、などだ。何れも研究用のマウスの仕業では説明できない。


あまりに怖いから一人では当直をしたくない、と言う訴えが多く出てきた。そこで社長は、当直を二人にして当番が早くなるのと、このまま一人での当直を継続するのと、どっちが良いか社員にアンケートを取った。その結果、9割の社員が二人での当直を望んだ。そこでまずは、当直を二人制にした。だが、これはあくまで対処療法だ。心理的な恐怖感は緩和されるが、状況は変わらない。

そこでだ、この現象の原因を突き止めて社員が怖がらないようにして欲しい、とワタシのところに依頼があったって訳だ。


 ん?依頼?なんか途中から怪談話ではなくなってたぞ?

「今は当直手当が2倍かかる。社長としては早々に一人体制に戻して当直手当を元に戻したい。だから、なる早で対応してほしいそうだ。即着手してくれれば、探偵の日当を倍出す、と言っている。なので、貴様にはワタシと一緒に夜のスクナ理学研究所に来て、原因を突き止めて欲しい」

やっぱり、そう云う話か!汐入は続ける。

「男気溢れる貴様の事だ。か弱い乙女に一人で行けなんて言うわけはないよな?」

「男気とか、か弱い乙女とか、偏見に満ちた昭和的価値観が散見されるが、そんな話を聞いたら、一人で行けとは言えないのは事実だ」

「そうか!そう言うと思っていたぞ。では明後日、金曜の夜、張り込みするぞ。詳細は今夜連絡する。よろしくな!」

僕は完全に逃げ遅れた。


   ゴーストバスターズ? 第二章


 そして金曜の夜。汐入とスクナ理学研究所に着いた。研究所の敷地には事務棟と研究棟が建つ。「出る」のは研究棟の方だ。

 まずは事務棟の当直室に行き、当番の社員に入館手続きをしてもらいカードキーを受け取る。研究棟の会議室に飲み物やお弁当などを置いてあるから朝まで自由に使って良いとのこと、設備や機器には手を触れないで欲しいこと、実験室は監視カメラがありその様子は当直室でモニターしていること、内線用のPHSを渡すから、何かあったらそれで当直室にかけること、を申し受けた。


「ヨシ、能見、いくぞ!」

「お、おう。いくぞ」

 入り口はカードキーをタッチして解錠するシステムになっている。解錠して研究棟に入る。まずは控え室である二階の会議室を目指す。照明が落ち暗いエントランスでエレベーターの扉が開く。エレベーターに乗り込み、二階に着くと再び扉が開く。中の灯りに照らされ暗い廊下がぼうっと明るくなる。これだけで既に怖い。

 会議室に着いた。お茶、缶コーヒー、お弁当、おにぎり、サンドイッチなど用意してくれている。LEDライトも2つ置いてある。ありがたい。ふぅ〜と息を吐き緊張をほぐす。お茶を飲みながら作戦会議とする。


 まずは用意してもらった図面で間取りを確認する。研究棟は四階建て。建物を上から見ると南北に長い長方形で、南にエントランス、直ぐ西の角にエレベーター、隣に階段がある。各フロアはほぼ同じ間取りで、長方形の南北つまり長軸方向に廊下が走っている。廊下の突き当たり、北の面には避難口があり、その外は非常用の外階段となっている。南北に走る廊下は中央ではなく西側に寄っている。狭い西側が備品庫、広い東側が実験室となっており、両面にそれぞれ3部屋ある。各階の機能を大きく分けると、一階は大型の化学分析機器、二階は小型の分析機器と会議室、三階はマウスを使う実験、四階はその解析(解剖)と病理検査、と言った感じだ。


「汐入、どうする?」

「まずは現象に遭遇しないことには何も始まらないな。1時間毎ぐらいに研究棟内を巡回しよう。一息ついたら早速、1巡目にいくとしよう」

「わかった。そうしよう」

 時刻は20時。早速、僕と汐入は二人で研究棟の巡回を開始する。まずはエレベーターで四階に上がり、そこから下へと階段で移動しながら巡回することにした。各階、左右の扉を開け、LEDライトで照らしながら室内を見た。一階まで見て、エレベーターで二階に戻る。1巡目は特に異常はないようだ。一巡するのに約15分かかった。


「ふぅ〜。なんか緊張するな。暗いだけで恐怖感があるよ。汐入は怖くないの?」

「怖くないと言えば嘘になるが、平常心を保つ様、努力はしている」

「そっか。よかった。さすがに汐入も怖いんだね。なんか安心したよ」

「貴様はワタシをなんだと思っているんだ。ターミネーターじゃないんだぞ」

「そうだね。ゴメン・・・」

そんな雑談をしながら、ふと気がつくと45分が経過。2巡目の時間だ。2巡目も異常なしで終えた。そして、3巡目、4巡目も異常なしで終えた。


 間もなく深夜零時。5巡目を開始する。エレベーターで四階に上がる。エレベーターの扉が開いて廊下に出ると、

ボボボボと低い唸り声のようなものが聞こえた。

「し、汐入。ボボボって音がしてるよぅ」

「ああ、遂に来たな」

「怖くないの?」

「怖くない訳ないだろ。同じ事を二度言わすな。音源を探すぞ」


一つずつ部屋の扉を開けて中の様子を見る。その間もボボボボという音は続いている。エレベーター側から3つ目の部屋に差し掛かった。カタカタカタと振動音が聞こえる。ボボボボと唸っていた音もウォンウォンとうねりが加わってきているように聞こえる。と、その時、ガンガンガンガン!と激しい衝撃音が廊下中に響く!

「うわぁぁ!出たぁ!!」と僕は叫び汐入の腕を掴み無我夢中で階段を駆け下り会議室に戻ってきてしまった。


「こ、怖かった・・・」

「あまりワタシを怖がらせるな。ワタシの恐怖の半分以上は貴様のせいだぞ」

「ご、ごめん」

「まあ、いい。まずは現象に遭遇できた。唸るような低音は四階の奥の方から聞こえるようだな。まだ続いているかもしれない。もう一度、行くぞ」

 再び四階。ボボボボと言う低音は続いている。恐る恐る廊下の奥の方へ歩みを進める。ふと、視界の隅で何かが動いた。そちらに視線をやると、白いモノが廊下の天井を斜めに横切り、スッと消えた。

「うわぁぁ!出たぁ!!」と僕は叫び汐入の腕を掴み無我夢中で階段を駆け下り、またしても会議室に戻ってきてしまった。

「こ、怖かった・・・」

「もはやワタシの恐怖の8割は貴様のせいだ。逃げてもいいが、せめて四階のエレベーター前で一回落ち着こう。いちいち二階に戻るのは体力的にキツイ」

「そうだね。ごめん」


「なあ、能見、世の中には数多の怖い話が伝わっているな。仮にそれらの怖い出来事が事実だとして、その怖い話は、一体、誰が最初に人に伝えたと思う?」

「そりゃ当事者にしかわからないんだから、最初はその怖い目にあった人が他の人に話してるって事だよね」

「そう言う事だ。皆、生きて帰って来た。もう一度、行くぞ!」

三度、四階の廊下。音は止んでいる。恐る恐る廊下を進む。その時、また、スッと白い影が廊下の天井を横切る。

「うわぁぁ!出たぁ!!」

と汐入の腕を掴み、走り出すと、逆に腕を掴み返され

「待て、落ち着け!」

と引き戻された。

「見ただろ?いただろ?出ただろ?」

「見た。だが、いなかったし、出てもいない。外の道路を通る車のヘッドライトの光だ。車は何台も通過するが、たまにハイビームにしている車のライトの光が突き当たりの非常扉に付いている窓から入ってきて天井に白く映るんだろう。窓を見てみよう」

と言い汐入は廊下を奥へと進む。

「耐火性のある網入りの霞タイプだ。このせいで外からの光がぼんやりと壁や天井に映るのだろうな。先ずは一つ、解決だ。次は音源を探るぞ」

と言って汐入は廊下を奥に進む。


 車のヘッドライト?いや、何か小さなモノが多数蠢いている塊の様に見えたけど。恐怖心に満ちている僕の心がそう見せているのか?怖いから汐入から離れない様に付いていく。

「外から何か聞こえるな。何かが流れる音だ。排水管かな。屋上に行ってみるか」

と言って避難口から外階段に出て上へあがる。屋上へ行けるようだ。屋上につくと、グワングワン、ブーン、ブォーンなど数種類のファンの風切り音が聞こえる。周囲を探すと、汐入の予想通り排水管がある。エアコンの排水や雨水などがその配管に集まり、下に流れるようだ。

「よし。おおよそ目星は付いた。明日、社長に報告して、昼間詳しく配管を見てみよう。きっとどこかに亀裂が入っているはずだ」

「今日は終わり?」

「そうだね」

「もう帰るってこと?」

「そうだね」

「よかったぁ〜。じゃ、早く帰ろう」

 その日、家に着いたのは深夜2時過ぎ。僕は毛布にくるまり灯りをつけたまま、寝た。


 翌日、夕方、汐入からクライアントへの報告結果について連絡があった。報告は済んだ。納得してくれたから今回の調査はこれで終了、とのことだ。水曜夜か日曜に、大森珈琲き来てくれ、貴様にも説明しておこう、と。

 次の日、日曜日だ、僕は大森珈琲に行った。

「ブレンドコーヒーだ」

と言ってコーヒーを出してくれる。

「無駄にワタシの恐怖心を煽っただけだが、それでも一人よりはマシだ。一応、礼は尽くす」

と汐入からお礼(?)を伝えられる。


「白い影はあの時に貴様に話した通りだ。低い唸りのような音は配管の共鳴だと思う。ヒトに聞こえる音の周波数は20Hzから20kHzと言われている。波長に換算すれば17mmから17mだな。ちょうど様々な構造体とサイズ感が近い」

「へー。そーなんだ。そうなると、どうなるの?」

「ああ。ここからがポイントだ。水が流れ、中の空気が振動して、その周波数が管と共鳴すると、ボボボボって言う音を発する。つまり、長さが17mmから17mの管があれば音は共鳴し得る。理屈ではその波長の半分の長さの、整数倍の長さが共鳴の条件を満たすことになるから実に色々な長さの管で共鳴は起こる。端面があり且つどこかが解放していないといけないから、きっとどこかに詰まりによる閉鎖部と亀裂による解放部があるはずだ。建物の保全の観点からも点検することを勧めておいた」

「ふーん。じゃあ、揺れは?」

「振動について言えば、配管の振動もしくは他の振動が建物の固有振動数と一致していたら、建物の共振という現象が起こる。振動は多くの要因が複雑に影響しあっているから明確な原因は特定できない。だが、念のため、屋上においてある排気ファンなどの固定部に緩みがないか点検することをお勧めした。屋上で何かが揺れを増幅している可能性がある。ビスなどの増し締めをすれば、おさまるかも知れない。激しい騒音については、こちらも明確な原因は掴めなかったが仮説としては、建物の共振による家鳴り、或いは、昼と夜の温度変化による膨張による家鳴りだろうと思う。ワタシが可能な報告としては以上だ。あとは会社の設備管理部門や建築士に見てもらうと良いとコメントしておいた」

「なるほどね。そんなもんかなぁ。でも、あの白い影は僕には別のものに見えたんだけどなぁ」

「なんに見えたんだ?」

「なんか無数の小動物が塊になって蠢いている様な・・・」

「無数の小動物かぁ・・・」

ん?汐入の様子が変だ。

「どうした、汐入?顔色が悪いぞ?」

「うむ。ワタシは猫アレルギーがあるから他の動物にもアレルギーがあっても不思議ではない。だから多分、研究棟にいた動物のアレルギーのせいだと思うが。あの日、貴様が何度もワタシの腕を掴んだから、腕にアザが残っている。それはいいんだ。だが・・・ビビるなよ。落ち着けよ。今から袖をめくって腕を見せるぞ・・・」

と言って、汐入が袖をまくる。すると!汐入の右腕にびっしりと小さな動物、まるでネズミの足跡のような無数のアザが!

「うゎあああ!なんだこりゃ!!!」


 (ゴーストバスターズ? 終わり)

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