誕生
ーー然し、雫も光も永遠では無い。もちろんそれにも限りがあるのだ。直ぐに日は沈み、月が昇る。湿気も消えて、また図々しい草々が乱れることになった。その勢いはいつにも増して凄まじく、大量の水を得たのをいいことに彼らは好き放題に暴れた。そして、遂にはその栄華の中心にまで根を張り始めた。地面は既に根が張り巡らされ、もう僅かな隙間すらないような状況であったのだ。次第に、突き出た葉先の多くが、その輝きに触れようとしていた。花は、野蛮で卑しい刃に囲まれたのである。
それと同時に泉の流れは勢いを増した。巌に張り付いていた幾つかの苔は剥がれ、下へ〻〻と流れ落ちていった。
遂に草々の根は、花の根とも絡み合い、余すところなく、この地を占領した。虚勢を張り、上へ〻〻、我先にと光を求めた。そのために白い花弁は徐々に、その色の透き通るようなヴェールを手放し、草々の影に沈んだ。美しさも内に消えていき、本当の白さをも失っていく。花の茎も萎れ、葉も皺を作り、先端を垂れ下げた。太陽の昇っている間も、草々の下には光はなかった。一方、その外側はいつになく甚だしく乱れていた。山奥のこの場所は、彼らを食らう者も居らず、いつまでも好き放題に荒れ果てるであろうと思われた。
夜も深まり、花は草々の発する水滴に濡れ、又一層弱々しくなった。月光も虚しく、夜空から地上を照らした。星々も息を潜めるように、淡く、薄い光で夜空に輝いていた。
そんな時、一つの星が、燃え盛るような眩さを纏った一本の光線を放ち、あの花の所を刺した。それは草々の盾など無意味に、その花の中心まで届いていた。核を突かれた花は、外側の花弁から一葉々々、ゆっくりと宙に浮かべるように、剥落させ、崩壊していく。地面に触れた薄片は、先端を翻し、そのまま硬くなった。最後の一葉を剥がしてしまうと、茎の真ん中が折れ曲がり、何にも逆らうこともなく、静かに倒れた。真に美しいものは、最期まで美しく崩れるのであった。それと同時に、星の光も弱まっていた。ウィンドチャイムの音が聞こえるような、煌めきの消え方であった。
雲も動き始めた。風のために、樹々の葉も騒ぎ始め、草々も激しくなびいた。泉の水は漲り、その雫は月光を揺らし、曖昧な光の散乱を生んだ。影も激しく揺れ動き、草々の作り出す波の上は、前触れもなく混沌に支配されていた。淀んだ灰色の大群が、月の前を素早く横切っていく。樹々や草々の波はそれと連動するかのように、絶えず現れた。
そして、一際大きな風が、険しい山の地を這いながらやって来た。辺りの空気は、それまでの混沌を全て押しのけられたように、騒がしく根底から揺らいだ。地面に転がっていた花弁の、ある一葉がその風に押し出され、泉の冷たい流れに乗った。その頃、下界の方では、幾万の産声が上がっていたのであった。