緩み
又雨が降った。地面に次々と水滴が吸い込まれていく。空は薄暗く、樹々の葉蔭は一層の濃さを増した。辺りの草々は情けなく潮垂れ、雨粒が当たる度にその薄い体をしならせていた。然し、あの花は力強く根を地面に刺し、芯の通った茎は頭を垂れることもなく、唯一その場に聳え、互いにのしかかり、無秩序な束となった、その滑稽な姿を見向きもしないような凛々しさを、辺りに醸していた。
いつの間にか訪れた夜が明け、太陽が昇ってからも暫くの間、雨は降り続いた。然し、雨が簡単に上がろうとして、最後に一滴の雨粒をそこへ落とした刹那、唐突にその時はやってきた。陽の光が、優しい色をした雲の狭間から垣間見え、降り注ごうという瞬間に、その広がりに高潮を見せた花弁は、幾つか雫をその上に乗せながらも、共に照らされ、雫に屈折した光を内に映し、その純白の上に、移りゆく様々な色彩を見せた。雫が地に落ちる度にその光も跳ね、共に消えていく。辺りは平らな緑の地があるだけで、彗星のようなその輝きだけが唯一の存在であった。
樹々の葉から零れ落ちた雫が、ゆっくり時間をかけて、ぽたぽたと落ちてくる。草々の上に落ち、そのまま地面へ滑り落ちていくもの、泉の流れに同化していくもの、樹々の幹を愚図々々と伝うもの。太陽も時間をかけて落ちていく。斜陽が山を照らし、斜めに分断された光と闇の世界が、それらの小さな球体の中にも確かに存在していた。