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秘密の華  作者: 永井晴
3/12

予感


ーー朝日が下から光を押し上げる。その光は萼の覆いを切り裂く勢いで、蕾を鋭く差す。そして、深い山脈の表面を一斉に照らす様子は、いつまで経っても壮観なものであった。この世で最も烈しく燃え盛る円の周囲は、図らずも白色に染まっていたが、時間が経つと共にそれは消えてしまった。そして今度は酷く赤らんだオーラを纏い、燃えたぎる姿を静かに沈ませていった。上下左右に揺れる幾千万の光子の粒が、沈み際、やるせなく解き放たれてはそのまま宇宙の果てまで進んで行くのだった。

雨が降る。大粒の滴を垂直に叩きつける激しい雨から朝霧のようなささやかな雨まで様々に。雨が大地に降り、雲や靄はすぐに消えたが、地面に染みた消えることのない恵みは、樹々を育て、川に注ぎ、海の奥まで行くと、また山々に降り注いだ。子葉は、そんな雨粒が落ちて来ようとも、しなやかに弾いてしまった。

又、風が吹けば、鮮やかに撓るだけで、直ぐに元の姿勢を取り戻した。子葉は、自分を押し潰そうとする力に屈することなく、周りの樹々や巌のように、勇ましく平静を保った。

月が昇る。夜空には遠い昔から来る、細やかな光が、覆いを被せたように、幾つも幾つも犇めいていた。それらの光は、地上を照らすでもなく、ささやかな輝きを放った。地上に届かない光は、不確かな薄い幕のように思われた。それは翻るかと思えば、姿を消したり、煌めいたりした。静けさはそんな様子に息を潜めていた。そして、森が月夜に眠ろうと、子葉はその不動を貫いた。

然し、その間に流れた雨水は皆、蕾の下で勢いを失い、消えていたのだ。弛みなく流れる小瀧の水だけが、その内に秘めた、後に解き放たれる力を、反射する光と共に映しているように思われた。又、その様子には、白鳥が湖から飛び立たんとする刹那の、翼の膨らみに似たものがあった。ーー真っ白な白鳥ーーその様子は、いつか、その身に付着した水滴をも篩い落す勢いで、大空へ飛び立ち、日の目を直に浴びると云った、大変に潔く、輝かしい瞬間を予感させていたのだ。周囲の空気を重々しく押しのける、そんな羽音が、何処からか聞こえてくるようであったーー

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