輪廻
ーー川の勢いが衰え、水嵩も減っていくと、辺りには大小様々な礫が姿を見せた。遮るものもなく、眩しい夕日が皓々と小舟を差し、辺り一帯に広がった礫の縁を赤く染めた。枯れ草や枝葉も未だに旅を続けていた。
辺りはもう夜であった。街灯りが川沿いに漏れ、唯乱雑に辺りを照らしていた。月明かりは淋しく街を見下ろした。やがて礫は砂になった。いつからか、粉塵に塗れた花弁は表面の白さをも失っていた。目前に広がる海はそれを洗うであろうか。打ち付ける波は荒々しく、護岸を削り、壁に張り付いた藤壺なんかも巻き添えを食らった。その潮騒は街にも届いていた。眩い星々は消え、虚しいその幻影を映すかの如く、地上には途切れることのない、光の海が広がっていた。地平近くの夜空はその光のために淡く白みがかり、絶えぬ人声の影の下、花弁は波に漂っていた。半球の天井には一つだけ、瞬く星が浮かんでいた。
微細な生き物は速やかに花弁を分解してしまう。波の音は何度も繰り返した。最期にその白さは、太陽の光に還る。そうして、それは誰に知られるでもなく、消えていった。花弁に含まれた美しさが、本当に存在していたのか、誰が知るであろう。街にはいつまでも消費の音が響き、漣がそれを消していった。
川は凶暴さを内に隠し、穏やかなままに流れていた。そして、それは日光に煌めく流砂を運んで行き、再生の海へ続いた。
泉の方での、賎しい争いは静まっていた。幾度の雨は草々を打ちのめし、共に地面に融けていった。平静が戻ってきたのである。太陽はその地を快く照らした。泉から流れた水もその華やかさを堂々と咲かせた。水草の節々に産められた真珠のような、小さな球体は、白波の湧き出る激しい流れの下で幾度も煌めいた。小鳥の声が山に響く。 時はいつもと変わらず、止まることなく、流れ続けていた。
微風が木漏れ日を揺らす。鳥が種を落とし、雨が降る。泉の水は、あの窪みの奥からいつまでも流れ続けていた。巌に張り付いていた苔が、そのしぶきに少しだけ、影を落としていた。




