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始まり
或る山の奥深くに小さな泉が在った。その山は、幽玄な自然を抱えた、連なりの一劃であった。泉の流れは、山に染み渡り、永い年月の間、その懐に留めていた雨水が我慢ならず溢れ出ると云った、純白の輝きを巌の表面に映している。又その流れは地面までの小さな瀧を作り、山肌を伝い、小川となり、様々な流れと混ざり合い、やがて一本の大河となって、海に注いだ。周囲に乱れる、あるがままの岩々は、壮大で、苔むした表面の僅かに欠けた部分が黒光り、畏怖の念すら抱かせる、太古からの偉大さを以てそこに存在していた。辺りに聳える樹々も同様に、太く、幹にはその威厳を纏うかの如く、深まった色を湛える、大きく角張った、鎧のような樹皮が敷き詰められていた。
泉は巌が成す連なりの頂き近く、臍のような、小さな窪みから溢れ出ていたのである。
然し、ここは小魚の一匹もいない所であった。代わりに、その周囲には苔に満ちた大地と樹々が自然に乱れ、存在していた。その広がりは泉を中心として、内包されて解き放たれぬ、プリミティブな美しさを密かに含んでいた⋯⋯