昔話 前編
5話です。私の中ではかなりきつい話です。
夜刀神が語ってます。
私とシスイが生まれたのは、小さな集落だった。
父さんは、この集落の長でね。他人には優しいけど、私たち家族には
とんでもなく厳しかった。──今もだけどね。
シスイは白竜として生を受けた。ヤドリ達は知ってるよね。
今は、人間に近い恰好をしてるから普通に見えるけど、本当は髪も白い。
ヤマタノオロチって漢字で書くと、オロチの部分が大蛇って書かれるけど、
シスイは蛇って言われるの嫌いだから気をつけて。
私の屋敷に来た一部の友人たちが、それ言って殺されかけてるから。
私?私は普通の竜だよ。双子とはいっても二卵性だからかな?
話を戻すね。私たちが生まれた集落では、双子は呪われた子だと言われていた。
父さんは生まれも育ちもこの集落だったから、その考えを否定するなんて
考えもしなかったよ。でも、別の集落からお見合いで嫁いできた母さんは、
私たちを平等に愛してくれた。育ててくれようとした。
父さんの考えが少しでも違えば幸せに暮らせていたと思う。
シスイは、ひとたび暴れると人間だろうが同じ集落の仲間だろうが
なりふり構わず襲い掛かる。ただでさえ双子なのにその片割れがこうも凶暴だと
他人の目を気にする父さんにとっては、最悪だったと思う。
だからこそ毎日、シスイにはきつく当たった。それを庇った、私や母さんも
同様にね。
自分の思い通りにいかない家族を徹底的に敵とみなす父。その行動を否定し、
どんなに自分が傷ついても子供を守る母。そんな二人だった。
・・・なんで結婚したんだろう。
シスイは生まれつき喋る事ができなかった。だから、母さんがテレパシーの方法を
教えたんだ。父さんは、余計なことをするなって怒ってたけど、母さんはそれを
無視して教え続けた。そのおかげで今、君たちの様な仲間に会えてる。
──感謝しかないよ。私はただ、父さんから庇う事しかできなかった。
それも、たった一発殴られただけでうずくまるような、頼りない兄だった。
そのせいで・・・。
~~~
ああ、話してなかったね。ごめん。人間でいう10歳くらいの頃、シスイが
ある能力に目覚めたんだ。能力が分かった時、私と母さんに一番に報告に来てね。
「みてみて!母さん、兄さん!」
そう言って、屋敷の柱に向かって走り出したんだ。
ぶつかる!と母さんが止めようとしたけど、もうその時には
シスイの体は柱の影に吸い込まれた。二人で目を丸くして固まっちゃったよ。
「シスイ?!」
「シスイ!どこ?!」
「えへへ、ここだよぉ二人共♪」
母さんと二人できょろきょろ周りを見ると、母さんの影の中から
無邪気な笑みを浮かべて本人が出てきた。
そう。シスイが目覚めたのは影と同化し、操る能力だったんだ。
通称〈操影術〉と呼ばれるこの能力は、影に入り込んで移動したり、
手を影に入れ、別の場所から出したり、影の形を変えて攻撃できるように
なったりする能力みたいだね。
でも、その能力をよく思わなかったのが、父さんだった。
なんでも、父さんの一族の中で、その能力は忌み嫌われていて、
能力を持った者は即座に排除しろ、とまで言われるものだったらしい。
父さんにとって、一族の教えは絶対。バレたらどうなるか、目に見えてる。
もちろん能力を発現した本人も、父さんには見せない様にはしてたよ。
だから父さんは、その能力には気付かなかった。──あの日まではね・・・。
丁度、梅雨の時期だったかな。母さんが風邪をひいて、寝込んじゃったんだ。
「ごめんね、迷惑かけて・・・。」
「大丈夫だよ!早く元気になって、一緒に遊ぼ!」
「シスイ、母さんの上に乗らない!苦しくなっちゃうでしょ?」
「むー・・・。あっ!」
シスイが良からぬことを考えてるのはすぐにわかったよ。
止めようとしたけど遅かった。既に影の中に潜って、
母さんの布団の中に入ってたんだ。
「こら!風邪うつっちゃうよ!」
「やーだもーん!母さんといっしょにいるぅ。」
「ふふっ、あらあら。」
「待って!逃げるな!」
「ひひっ、ほーら捕まえてみなよ!」
ここまではよかった。ただ母さんの部屋で、兄弟が追いかけっこしてる
だけだった。影からやっと出てきたシスイを捕まえたその時、
部屋のふすまが開いた。私たちはすべてを悟った。
私とシスイは顔だけそのまま、ゆっくり、ゆっくりふすまの方に振り返る。
そこには私たち三人を見下ろす、父さんがいた。
あの、怒りと憎悪しかない恐ろしい顔は、今でも忘れない。
「あ、あな、た・・・?」
「シスイ、今のは何だ。」
「ひっ・・・。」
「今のは何だと聞いている!!!!!」
部屋へ入ってきた父さんの手が、私とシスイの肩を掴み、そのまま床に
叩き付ける。
「いっ・・・。」
「痛いよぉ・・・。」
「言え!今の能力は何だ!」
「あなたやめて!!」
「黙れ!・・・やはりお前たちは生まれてはならない子だった・・・!」
父さんのその声は、憎悪に満ち溢れていた。そして肩を抑えていない方の手には
──しっかりと短刀が握られていた。
「父さん・・・?」
「やだ・・・やだ・・・。」
「この世から消えろ、化け物め!!!!」
短刀が勢いよく振り降ろされる。でも、それが貫いたのは私たちではなく
母さんの心臓だった。
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