家族
少し短めですが、第四話です。
「はぁあ?!」
「大きな声を出すな・・・。」
「いや、でも!頭に兄弟がいるなんて話、聞いたことねぇぞっ?!」
「まぁまぁ、落ち着いて。深呼吸しよう?」
驚きのあまりギャンギャン騒ぐシキ丸と、彼をなだめる男性二人。
そんな中アヤメの腕の中ですやすや眠るのは、子供の姿になったシスイだ。
夜刀神曰く、妖力の使い過ぎによるものらしい。アヤメを襲った時
夜刀神が首に刺した麻酔針の効果で、今はすうすうと寝ている。
アヤメより少し高い背からかなり縮み、かなり可愛らしくなったその背中を
トントンと軽くたたきつつ、アヤメは二人を援護する。
「シスイも、言うの忘れてたのかも。私も今朝会って知ったから・・・。」
「え、初対面の人連れてきたんですか?!」
その問いに答えたのは、夜刀神だった。
「通り掛かった、が近いかな。シスイが暴れている時にだす妖力の波があってね。
それを辿ったら、ここに着いたんだ。でもまぁ、妖術を使って勝手に屋敷に
入ったのは悪かったけど・・・。」
「そういやそうだ!アヤメ様の許可なしに勝手に入りやがって!
何様じゃゴルァ!」
「落ち着けシキ丸!結果的に全員無事だったんだ、良しとしよう。」
キレて暴れ始めたシキ丸を、ヤドリはすぐさま羽交い絞めにして抑えた。
それを見た、夜刀神がアヤメへ一言。
「あれ?もう一人いたよね?」
「吊るされてます。」
「あ、そういう事か。」
~~~
シキ丸を何とか落ち着かせ、四人は廊下を歩いていた。シスイをこのまま
アヤメに抱っこさせているのはいけないと、居間に移動中なのだ。
「先生、アヤメ様にどこで会ったんですか?」
「表通りの八百屋の前で見かけてね。母親の方と見間違えたんだ。」
「質問攻めしてすみませんでした・・・。」
「つか、何でヤドリはコイツを先生って呼ぶんだ?」
「コイツって言うな・・・。」
「私は医者なんだ。診療所は、ここからかなり離れた場所にあるけどね。」
「お~なるほど・・・。」
「母親と見間違えたという事は、先生はアヤメ様の
お母様に会った事があるんですか?」
ヤドリの問いに、夜刀神はフフッと笑い。
「ユキハさんだよ、ウスイ山の女王様。顔立ちがそっくりでしょ?」
「え・・・マジっすか?!」
シキ丸が目をまん丸にして、アヤメに聞く。アヤメはこくんと首を縦に振った。
夜刀神は続ける。
「写真見せて確認したから間違いないよ。それに、アヤメちゃんが家族と
離れちゃった時期が、ユキハさんがウスイ山に戻ってきた時期と合うんだ。
あと、ユキハさんにはもう一人子供がいて、それがアヤメちゃんのお兄さんの
年齢と名前と一緒。そして何よりユキハさんには行方不明になっている
娘がいる。その子の人間としての名前がアヤメ。」
他にも証拠は山ほどある、そうにっこり笑って言う夜刀神に
シキ丸は驚きで何も言えなくなった。
「ユキハさんとは長い付き合いでね、よく屋敷に来るんだ。
きっと会ったらすごく喜ぶと思うよ。もちろんお兄さんもね。」
「兄さん・・・。」
そうこうしているうちに、居間には着いたがシスイがアヤメにしがみ付いて
離れない。──まるで何かと勘違いしているかのように。
ヤドリやシキ丸が何とか離そうとしても、ぐずってじたばたするばかりだが
それを泣き止ませようとアヤメが声をかけるとぴたっと泣き止み、
柔らかな笑みを浮かべるのだ。
「なんで私にだけ・・・。」
「・・・シスイ、違うよ。この人はあの人じゃない。」
「やぁや・・・しいのぉ・・・グスッ。」
「はい、抱っこおしまい。こっちで寝ようね。」
夜刀神は慣れた手つきで、アヤメからシスイを引き離した。
案の定シスイはギャン泣きするが、夜刀神はいたって冷静である。
用意していた布団にシスイを寝かせ、優しく顔を撫で始めた。
するとほんの数秒でシスイの泣き声は小さくなり、
いつの間にかすやすやと眠っていた。
「ふぅ、多分これでしばらくは大丈夫だね。」
シスイを見て微笑む夜刀神に、アヤメは一つ質問をした。
「あの、なんでシスイは、仲良くなった人を殺すようになったのか、
もしその理由を知っているのなら、教えてほしいんです。
何か・・・心当たり、ありますか?」
「・・・どうして知りたいのか、聞いていいかな?」
「シスイの事、少しでも理解したくて。周りに自分の事を
理解されないのは辛いだろうと思うんです。」
その言葉に、ヤドリとシキ丸も頷く。同じ思いのようだ。
夜刀神は微笑んで、ぽつりぽつりと語り始めるのだった。
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