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第9話 私は父の子ではない?

ジョンという男は、高そうな服を着た体格のいい男だった。


堂々とした様子で、グロリアのもとに急いでやってきた。そして、にっこりとグロリアに微笑みかけた。


「やあ、グロリア嬢! あちらがあなたの婚約者様?」


「そうですわ」


グロリアが急に、はにかんで答えた。


「リンカン伯爵家のアーノルド様ですわ」


これは絶対に抗議して訂正してほしい。だけど、二人は離れている。離れていてもよく聞こえるのは、始末の悪い事に、二人とも大きくてよく響く声の持ち主だからだ。

本当に困る。


「ねえ。じゃあ、あそこにいるのは誰ですか?」


妹が私の方をちらと見た。


「姉よ」


グロリアはあっさり言った。


「へえ? リンカンの若様は、あなたの婚約者でしょう? 姉とはいえ、婚約者の真横にいるのは、ちょっとどうかと思いますがね?」


グロリアは、いかにも呆れていると言った様子を示した。


「そうなのよ。本当にしょうがない人なのよ。あんなふうに、男なら誰とでも距離が近いの。母が何回注意しても直らないの。外に出せないわ」


「ああ、それで……」


ジョンは何か納得したらしかった。


「パーティに出てこないのはそういうわけか」



アーノルド様が怒っているらしいことがわかって、私は嬉しかった。


だけど、多分、妹は至る所であの話をしているのだろう。


もう、私の評判はどうしようもないくらい悪くなっているに違いない。


「あの……アーノルド様」


私は小さな声で呼びかけた。


「私、父のところに参りますわ」


アーノルド様は、きっとグロリアのことは気に入っていないのだろう。


でも、だからと言って私と婚約する必要はない。もっといい方がいくらでもいるだろう。


こんな噂に泥を塗られている私と一緒のところを見られたら、良いことは起きないと思う。



だが、私はビクッとした。


「それでも伯爵令嬢の肩書きはあるんですよね? あなたのお姉さん」


ジョンという男が軽い口ぶりで言い出したからだ。


「尻が軽くても、閉じ込めときゃ良い。お飾り妻にはちょうどいい。うちがもらってやれば、ダラム伯爵も厄介払いができて、喜ぶと言ってましたよね? ダラム伯爵家に喜んでもらえるだなんて、素晴らしい事じゃないか」


あまりのことに私は震え出してしまった。バカにするにもほどがある……


「それに、ちょっと見ただけだけど、見た目は、なかなかいい女だ」


「もう。なんて事言うのよ」


グロリアが怒ったように言い出した。


「ブスって言われているんだからね。うちの女中から侍女から、執事もみんなみっともないお嬢様で恥ずかしい、私が来なかったら、華やかさのない伯爵家になってしまっていたところですって、いつも言っているのに」


「そりゃ、グロリア嬢の機嫌を取るためにそう言っているんでしょう」


ジョンは言い放った。


「侍女なんかそんなもんだ。だが、どれ、一つ声をかけてみよう。喜んでもらえるかな?」


「つけあがるから止めてよ。体裁も何もなく、大喜びするわ。本当に情けないくらい、全くモテないのよ。どこの男も、お姉さまから逃げ回っているわ。こんなところで姉が正体を(さら)したら、恥ずかしいわ」


ジョンは立派な服と良い体格で、見る人が見たらイケメンだと言うかもしれなかった。


だが、私は下卑た品のない顔だと思った。


それが近づいてくる。


「もし、そこのお嬢さん」


私は、もうびっくりしてその妙な男の顔をつくづく見てしまった。こんな話しかけ方ってあるのだろうか。


「俺が相手をしてあげるから、グロリア様の婚約者から離れて差し上げなさい。人の婚約者にじゃれるなんて真似、やめたほうがいいよ」


それから彼はペコリとアーノルド様に頭を下げた。


「リンカン家の若様。初めてお目にかかります。失礼します。そちらの娘さん、ご迷惑でございましょう? 私が引き取りましょうか」


「君は誰だ?」


アーノルド様は私の手を固く握りしめると、ジョンに向かって言った。


ジョンは物柔らかに愛想良くアーノルド様に向かって話しかけた。


「これは、若様。申し遅れまして失礼いたしました。私は、スタンレー商会の息子でジョンと申します。バーガンディ伯爵家に出入りさせていただいているご縁で、僭越ながら本日のパーティに参加させて頂きました。ダラム伯爵のお嬢様グロリア様とは、懇意にさせていただいております。もっとも、商品をお買い求めいただいているだけですんで、ご心配なく」


そう言うと、彼は歯を見せて愛想笑いした。


なんかこう、訳がわからなくなってきた。


これは貴族の付き合いじゃない。


「さ、ダラム家の養女さん、こっちへきて皆様のお邪魔をしないようにしよう。リンカン家の若様がご迷惑に思ってらっしゃるのでな」


「養女?」


私はあっけに取られて聞き返した。誰が養女なの? 私のこと?


「なんだ、知らないのか」


ジョンは、憐れむような眼差しを私に向けた。


「あんたは子どもの頃、前の奥様がどこかから拾ってきた娘なんだそうだ。それがこれまで伯爵家でぬくぬく育ってきたってわけさ。この度、本当の娘のグロリア様が戻って来られたので、もうお役御免だ。礼儀作法が身につかないのも無理はない。どこかの救貧院で貧しい女が産んだ、誰の子ともわからない(うじ)も素性も無い娘なんだから」

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