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第14話 好きなのはあなた

その翌日には、アーノルド様が訪問してきた。突進してきた。


手に花束を抱えて。



「今日、アーノルド様が来られると言う予定はなかったわよね?」


私は大混乱だった。


「いくらでも待つし、今日、ご都合が悪ければ、出直すそうですけど」


新しい侍女のエリザベスが小さな声で言った。


「そんな失礼なことできないわ。リンカン家にはすごくお世話になっている。リンカン伯爵夫人のおかげであなたとハンナが来てくれたのよ?」


「アーノルド様、そんな話をしたいんじゃないと思いますけど」


エリザベスは、手に衣装を抱えて走りながらそう言ったが、私は聞いていなかった。

大急ぎで支度した。



そして、アーノルド様から熱烈なプロポーズを受けた。


というか断る余地がなかった。


「まさか逃げるつもりじゃないよね?」


客間のソファから、身を乗り出して詰問してきた。


何だか怖い。


「ギブソン夫人から聞いたんだ。婚約者が決まっていないって言ったって?」


決まっていない。お話はいただいたけれど、確定ではないって、父が言っていたではありませんか。


「あなたのお父様のあれは、社交辞令。家のごたごたがあったから、リンカン家に遠慮しただけ」


あ。そうか。そうかも知れない。


「僕の気持ちは決まっています。ずっと決まっています」


それからは、アーノルド様は怒涛(どとう)のように喋りまくった。


「あなたと最初に会った時から、ずっと泣いているあなたが可哀想で愛しくて」


「その後、僕の家に来てくれて。一緒に遊んだ。ずっとこのまま僕の家にいてくれればと思った」


「あのグロリアの高飛車で厚かましい言い分を聞くたびに心配で心配で。友達にも頼んで、何とか、あなたの様子をグロリアから聞き出そうとした」


あれ……もしや、グロリアがモテまくっているとか言っていたのは?


「そんなわけないでしょ? あんな偽令嬢、僕らみたいな事情がある連中がいなかったら、誰も構わなかっただろうよ。下品だし。だけど、あなたの話が出るたびに、みんな心配していたよ」


「せっかく夜会に出てきてくれた時も、それまでの調子でグロリアがまとわりついてきたので、うまく近づけなかった。行こうとすると、グロリアが止めるんだ」


アーノルド様は、物静かな外見と違って、結構激情家なのだ。私、止められるかな?


「婚約、決まっていないだなんて、悲しいこと言わないでくれ。このままリンカン家に連れて行きたいくらいだ」


アーノルド様は、花束を突き出した。


「お願い。受け取って」


これ、受け取ったら婚約成立? 私はあなたと結婚するの?


「あの馬鹿親子のせいで、申し込みさえできなかった。手紙もなしのつぶて。返事をあのグロリアが書いてくる始末だ。ダンスもおしゃべりも、何もできなかった。引き裂かれるところだった。僕も恨んでいるんだ。あなたが好きだ。大好きなのに」


アーノルド様が接近してきた。


「それを伝えることさえできなかった」


ばらの花束の影で、アーノルド様がこっそりほおにキスした。


「君は? 嫌い? 僕のこと、嫌い?」


いえ……本当は好きです。


「聞こえない!」


「……す、好きです……」


そう。グロリアがどんな噂を撒こうと、ずっと心配してくれていたあなたのことが好き。小さい時も、心配して手を握ってくれたあなたが好き。


「愛しているよ。君だけが好きだ。大切な人だ……」


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