……はああん。 マナ・リアクター式・実験用巨大人型機械、起動。 ツェツイリー博士、失敬。
「気密室、気密確認」
「気密率、99,7パーセント」
「閉鎖確認」
吹き抜けの巨大な部屋。
白い壁に四角い窓ガラス。
ガラスの中に白衣を着た人たちがいた。
壁の一方には、巨大なバイオハザードマーク。
収納式のスロープには、気密服を着た女性が立っている。
その前に、七メートルくらいの人型機械。
天井から延びたアームが背中につき、部屋の中に吊るされている。
「……惑星マナの装甲巨兵……」
気密服の女性がつぶやいた。
『ツェツイリー博士、気密確保できました』
「分かったわ」
人型兵器の胸部装甲が前に倒れている。
胸部装甲には女性型を表す丸い膨らみ。
目を閉じた乙女の仮面。
それ以外、フレーム(骨格)や複雑な内部機構は、むき出しである。
ツェツイリーは、胸部装甲に足をかけ操縦室に乗り込んだ。
「思考同期型か、シンプル、ね……」
操縦席には飾り気のない椅子。
座る。
「良いわよ」
『わかりました』
『気密室に、マナを入れます』
『良いですか?』
ツェツイリーが気密服を確認。
「やってちょうだい」
『不思議物質、マナ、注入』
ビイイ、ビイイ
けたたましい警告音とくるくると回る赤い警告灯。
気密室が赤く染まった。
シュウウウ
天井と床のスリットが開き空気が入れ替えられていく。
『マナ、充填率、10パーセント』
『30パーセント』
『50パーセント』
『70パーセント』
カシュー、カシュ―
人型機械の背中に埋め込まれた蛇腹状のものがゆっくりと動き出した。
アコーディオンのようだ。
『マナ・リアクター起動しましたっ』
ガクン
人型機械が一瞬ふるえる。
『博士っ』
「胸部装甲閉鎖」
音も無く胸部装甲が上に締まる。
「これより、第二百三十一回、”完全思考同期型装甲巨兵”の起動実験を開始する」
「思考同期っ」
ああっ
”私”の視界が”巨兵”のものにっ
”巨兵”の手足が”私”のものにっ
巨兵の首がガラス窓の方を向いた。
「同期確認っ」
『同期確認しました』
『博士の、脳波および、バイタル正常』
『スロープ収納』
「動かすわっ」
『了解』
巨兵が腕を前に伸ばして、手を開け握りながら元に戻した。
「歩くわっっ」
空中に吊るされたまま、その場でゆっくりと歩き出した。
「走るわっっっ」
その場で走り出した。
『博士っ、脳内麻薬が過剰に分泌されてますっ』
「うふ、ジャ~~ンプッ」
飛んだ。
『博士えええ~~~~』
「うふふふふふふふ~~~~」
ツェツイリー博士はメカ、特に巨大ロボットが、 ”大好き” だった。
自分が巨大ロボットになりたいと思うほどに。
「ひょえっへへへへえ~~~~」
『博士ええ、そろそろ、降りて下さあああい』
第二百三十一回、”完全思考同期型装甲巨兵”の起動実験は、博士のハイテンションの中、無事終了した。
◆
ツェツイリーの自室。
金髪、碧色の瞳。
飾り気のないチューブブラとショーツを着ている。
”不思議物質、マナ”かあ
惑星マナ固有の物質。
マナリアクターにより無限のエネルギーを放出。
巨大ロボットと思考同期コントロールを仲介。
人体に作用すると、病気にならず、加齢が四十代で止まり、百二十歳まで寿命が延びる。
”夢のような物質”……ね
でも、
部屋の窓を透明化する。
窓の外には青い惑星、”マナ”。
緑の大地に丸く茶色い跡がある。
独立戦争の跡地だ。
”不思議物質、マナ”には、強烈な依存性があった。
マナに一度でも触れ、マナが無い状態になると、呼吸困難を起こし、五分で禁断症状、十五分で廃人化。
陸地にあげられた魚のようになる。
地上に降りると二度と宇宙に上がって来れない。
「くっ」
惑星マナをにらみつけた。
今も、地上で無数の装甲巨兵が動いているはずだ。
「はああ~~」
動いている巨兵の想像に、下半身が強烈に疼く。
ツェツイリーは、疼きをおさめるため下半身に手を伸ばした。
「ふっ、くっ……、……はああん」
彼女は、頬を上気させ熱い息を吐いた。
◆
”惑星マナ”が、”惑星開発公社”から独立して約五百年。
”要監視・特級危険惑星”として現在も監視され続けている。
今、ツェツイリーは軌道上にある監視衛星にいる。
……彼女が地上に降りるのは時間の問題かもしれない……。
装甲お嬢様シリーズ、第十二段。
”不思議物質、マナ”は、ダークマターが変質したものの一種。