第7話『世界はモノであふれている』
オレの名は神崎悟。どこにでもいる社会人だ。
毎月末午前零時に異世界に出掛ける旅行者でもある。
幾度となく物への転移に疑問を持ったオレは旅行会社に確認をした。
転移カテゴリーの「なんでもいい」を選んだら、なぜ物にしかならないのかを。
回答は次のようだった。
『人間や生物よりも無機物である「物」の方が遥かに多いため、転移先を指定しない限り、自動的に「物」に設定されます。』
言われてみれば確かに生物よりも遥かに「物」の方が多い。
海に魚はいるけれど、魚で埋め尽くされているわけではない。
ファンタジーの冒険者は剣だけでなく、盾や靴、服、鞄などを装備しているし、数種類の装備を入れ替える。そうだ、ファンタジーであっても世界は物であふれているんだ。
物質世界に転移するのだから、人間に転移や転生するには超低確率になるはず。だから、希少な能力を付与されるのだ。
ここで疑問が湧いた。
別の世界からの転移であれば、元いた世界との繋がりが無いから条件がリセットされてしまうのは理解できる。だが、異世界ではなく元の世界と同じであれば人間から人間になりやすいのではないか。
「転生したら盾でした」という作品では盾そのものにチートなスキルはあったにせよ、その能力を引き出して活用していたのは転生者だった。転生する前は騎士であったと言う。
本来は人間として転生するはずが馴染みのある盾になってしまった。運が関わってくるのだろうか?
いや、違うな。
そもそも、運とは何だ?
世界で決められた理、即ち設定を運という表現にすれば、あの者もなるべくしてなったと考えるのが自然ではないか。
つまり、あの者は盾として生まれ変わることが予め設定されていたのだ。
いや、待て。
そうなるとオレの場合はどうなる?
異世界に転移しているとはいえ、限りなく現実世界に近いところが多い。
なろう出版の作品はどれも非現実ではあっても、明らかに異質と呼べるものはない。
オレの転移先はそういう設定のもとに成り立っているのだろうか。
オレの名は神崎悟。手軽に異世界を楽しもうとして難しいことを考える旅行者だ。