表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第4話『生き様』

オレの名は神崎悟。どこにでもいる社会人だ。

毎月末、午前零時に異世界に出掛ける旅行者でもある。


前回は現実味を帯びていてつまらなかった。

今回の旅は期待したい。

いつものように寝る。


 起きた。

 ここはどこだ?

 どうやら部屋の中にいるようだ。

 ふむ。今回は人間だな。いや、待て。人間だと思ったら物でした、なんてことも有り得る。

 確かそんなようなタイトルの作品があったはずだ。そうだ、「転生したら盾でした」だ。

 あれと同じかも知れぬ。油断は出来ない。


「うう~ん」

 んん?どこからか声が聞こえる。オレの声じゃないぞ?何だこの妙に甘い声は?

 だが、動けぬ。また、物か…。仕方が無い。


 ん?なんだ?揺れてる?地震か!?

 うおっ!?落ちるぅ~!

 はあ、下が布団で助かった。

「おはよう、ペンちゃん」

 ペンちゃん?オレのことか?

「もう、駄目じゃない落ちてきて、いけない子」

 は?

 うっは。ちょっと待て。ドストライクなんだが!

 うわ!こ、こここここれが寝起きの女の子ってやつか!?旅行会社の人達ありがとお!

「あらあら、なーに?赤くなっちゃって、かわいい子」

 ぐはっ!女から可愛いなんて言われたこと無いぞ!

 オレ今どうなってる!?まさか、火だるまになってないよな?

 いやいや、火だるまは無いだろ?火事になるからな。

 う、うわ、これが女の子の手か!撫でられると気持ち良いんだな。

「あら、何ここちょっと汚れているわね」

 え?ちょっとそれ止めて?それシンナーだからっ!溶けるからっ!

 除光液はシンナーなんだよぅ。拭くならアルコールにして!

「あらら、艶が無くなっちゃった」

 ほら、言わんこっちゃない。

 え?筆持ってきて何するんだ?

「大丈夫!私はこう見えてネイルアーティストなんだから!こんなもの、余裕、余裕」

 ベタベタベタベタ

 あの、筆跡が残っているのだが、いいのか?

「う~ん、なんかちょっと違う」

 まあ、筆跡残っていればそうなるな。

「これは、あれね!素材が悪いせいよ!」

 おい!お前の技術が無いせいだよっ。

「気に入ってたんだけどな、ポイね、ポイッ」

 いや、お前もうちょっと大事に扱え…、うわっ。


 ハッ、ここはゴミ箱の中か?

「あ~あ、また彼氏にねだって買ってもらおうっと」

 う~ん。女は怖い。見かけで判断するものではないな。

 しかし、オレは何だ?

 ぬいぐるみというのは予想できるのだが…。ペンちゃん…か。ペンギンのぬいぐるみなんだろうな。


「おう、どうした?」

 なんだ?声が聞こえる。女ではなく男の野太い声だ。

「お前、捨てられたのか?」

 誰だ?

「おれおれ、ゴミ箱だぜ」

 は?ゴミ箱?ってことは、オレが今いるここがそうか?

「お前、ずいぶん気に入られていたみたいだが、あの女は下手くそだからな、お前みたいなやつたくさん見てきたぜ」

 そうなのか?

「ああ。お前、さっき棚から落ちたろ?」

 そうなのか?

「ああ。見てたから分かるぜ」

「あれな、あの女に蹴られたんだぜ」

 え?地震じゃないのか?

「はは。違う違う」

「あの女、結構、寝相が悪くてあちこちの家具が傷だらけだぜ」

「ここ賃貸なんだが、大丈夫かって話だぜ」

「まあ、そこからは見えないんだがな」

 そうなのか?

「この間なんて、目覚まし時計がかかと落とし食らって粉砕していたぜ」

「即死だったな」

「あーまたやっちゃったあ、とか言って俺の中に放り込むのはホント止めて欲しいぜ」

「おれは可燃物用なんだぜ?時計は燃えないゴミだぜ!」

 気にするの、そこ…。

「これって大事なことだぜ?」

「可燃物の日に燃えないゴミなんて出してみろ、周囲から白い目で見られて引っ越す羽目になるぜ」

 実際あったのか?

「ああ。いつだったか忘れたが、ゴミ出しに行った後、袋持って帰ってきたぜ」

「可燃物に燃えないゴミが入ってたって、こっぴどく叱られたって言ってたぜ」

「そしたらな?私のじゃないもんっと言ったんだぜ?」

「お前じゃなきゃ誰がやるんだぜ?」

「粉々になった時計なんて、普通無いぜ」


 このゴミ箱は色々なことを話してくれた。

 寝相が悪くて彼氏を蹴飛ばして振られたとか、米を洗剤で洗って炊飯器が泡だらけになったとか。

 圧巻だったのは、爪に色塗った後タバコに火を点けたら爪が燃えたとか。

 とにかく、事細かくだ。

 もしかしたら、転生者だったのかも知れぬ。


オレの名は神崎悟。手軽に異世界を巡る旅行者だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ