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第11話『責任』

前回は出張と重なったので契約担当者に代筆をお願いしてしまった。

今回はちゃんと旅行に出掛けたので書きたいと思う。


オレの名は神崎悟。どこにでもいる社会人だ。

毎月末午前零時に異世界の「モノ」に転移する旅行者でもある。

いつものように準備し、寝る。


 起きた。

 ここはどこだ?オレは何だ?

 いつものように自分が何であるかを確認しようと意識を集中……。

 ん?声が聞こえる?ちょっと集中できない。

 仕方が無い、聞いてみた。


「ん?ああ。大丈夫ですよ、奥さん。このエアコンはね、最新式なので掃除が簡単なんです。旧型と違って制御部が外れるんですよ。ほらね、こんな感じで。それに、ラジエータ部がね、左右に分割するんです。だから、他の自動掃除機能付きエアコンよりクリーニング代が安く済むんですよ。」

「え?他のって高いんですか?」

「ええ、高いですよ。2~3倍くらい掛かります。」

「え!3倍も!?」

「そうです。他のはね、この制御部が外れないんです。だから、この部分を防水しないと故障しちゃうんですよ。故障したら困るので、この制御部分の部品代を予め頂くんです。」

「え?それって詐欺じゃない?」

「別途請求すれば詐欺になりますけど、予め代金に含んでおけば詐欺にならないんですよ。」

「え?バラしちゃっていいの?」

「うちはメリットもデメリットも両方話して納得して頂いてからお金を頂いているので別に構いません。」

「そうなのね、良心的ね。」

「うちみたいな小規模はお客様視点で出来ますから、そこが強みですね。えっと、故障の原因は多分これですね。」

「分かりました?」

「恐らくです。奥さん、市販のエアコンクリーニング剤を使いましたか?」

「ええ。どれにでも使えるという通販で話題になっているものを使いました。」

「ああ、そうなんですね。実は市販されているエアコンクリーニング剤は欠陥商品なので使わない方が良いんですよ。」

「え?そうなんですか?」

「ええ。圧力が弱いのと液剤が少ないのでラジエータ内で固まってしまうんです。」

「直せそうですか?」

「直りますが、部品交換しないと無理そうです。」

「それって、高いんですか?」

「新品買うよりは安いですよ。」

「あの、身体で支払いはできますか?」

「ごめんなさい。うちではそういうサービスはやっていないんですよ。」

「え?ネットで話題の所はやっていると伺ったのですが?」

「安得クリーニングさんですね。あの会社はやっていますよ。素人と手軽に出来るということで社員が部品代を建て替えますから。」

「え?そうなんですか?」

「知人が昔そこにいまして教えてくれました。そこでの顧客と結婚したので辞めたそうですよ。」

「あの…、そこにお願いしてもいいですか?」

「お客様の要望ですから、うちは構いません。ですが、出張費と故障診断費は支払ってください。」

「え?無料じゃないんですか?」

「有料ですよ?ほら、ここに書いてあるでしょう?出張費と故障診断費は有料ですって。」

「あの…、身体で…。」

「奥さんが得するだけですよ。やっているところを写真か何かで撮って脅迫するんでしょう?あのね、あれ何のために設置したか分かりますか?あれはね、作業者の身を守るために設置してあるんですよ。」

「え?」

「今までの会話を全て映像で撮ってあるので、何かあればあれが証拠になるんですよ。なので、お願いしますね。」

「でも、こんな大金お支払いできない…。」

「そうですか。では、機材を片付けて帰ります。玄関の扉が閉まる前までに声を掛けてくださいね。」

キィィバタン

「あ、安得クリーニングさんですか?案件ひとつ出ました。はい。住所はいつものように送っておきます。振込の方よろしくお願いします。では、失礼します。」

「また1軒、不幸になる家庭が生まれるんだな。正規料金さえ支払えば事足りるのに、なんでこう不幸になりたいのか分からないな。あのエアコン、最新式だから3人送られるんだろうな。まあ、こっちは料金踏み倒されているのと同じだから知ったことではないのだがな。」

「ふう。しかし、市販されているエアコンクリーニング剤を安得クリーニングが作っていると知ったら、どんな顔をするんだろうな。ま、僕としてはどっちに転んでも金が入ってくるから別に気にしないがな。」


 すごい話を聞いてしまった。

 外に出た人の声も聞けたから恐らくオレは換気扇か何かだろう。

 そうか、サクラを使って良さをアピールすれば欠陥商品であっても売れるからな。正常なものを壊して修理するって詐欺じゃないか!

 まあ、エアコンの中は黒カビが繁殖しやすいのは分かる。だからこそ、冷房後は暖房や送風でエアコン内部を乾燥させてカビの繁殖を抑えようとするのだ。フィルターの掃除も定期的に行わないと目詰りしてファンが吸い込めなくてモーター焼き付くし、汚れたままのフィルターはカビの温床になりやすい。

エアコンのある部屋で喫煙なんて(もっ)ての(ほか)だ!煙に含まれるヤニがラジエータのフィンにくっついてホコリが溜まりカビの繁殖地になるし、フィン同士の隙間が無くなって熱の交換が上手く出来なくなる。


んん?外から声が聞こえるぞ?

「ここですか?」

「ああ、ここだ。会社から指示された部屋だ。お前ら静かにしていろよ?」

コンコン

「はぁーい、どなたぁ?」

「どうも、安得クリーニングです。今、キャンペーンを行っていまして、一軒一軒回っているところなんですよ。貴女のところで何かお困りなことはございませんか?」

「え?安得クリーニング?あの、エアコン修理で有名な?」

「はい、そうです。」

「あの、実はエアコン修理をしてもらったんですか途中で作業者が帰ってしまって困っていたんです。」

「え!?それはお気の毒に。入ってもいいでしょうか?」

「ええ、どうぞどうぞ。」

「お前らはここで待っていろよ?」

「では、失礼しまーす。」

「これなんです」

「ああ!これはひどい!分解したままではありませんか!」

「そうなんです。もう困ってしまって。」

「あの…、拝見してもよろしいですか?」

「ええ、お願いできますか?」

「では、診させていただきます。ふむふむ、ああ、ラジエータフィンの目詰まりですね。これはちょっと洗浄でどうにかなるものではありませんね。これだと、部品交換が必要ですね。」

「やはり、そうなんですね。」

「やはりと言いますと?」

「さっき来られた業者の人も交換が必要ですって言ってたんです。」

「ほうほう、なるほどなるほど。でも、その業者は帰ってしまったのですね?」

「ええ、身体で支払いが出来ないと言ったら帰ってしまいました。」

「なんと!私どもはお客様のためを思って身体でのお支払いでも可能としています。修理されますか?」

「お願いしてもいいですか?」

「はい。では見積もりを取らせていただきます。ああ、最新式なんですね、そうなると3人必要になりますが良いですか?」

「え、3人ですか?はい…分かりました。……お願いします。」

「ちょっと車に戻って部品があるかどうか確認して来ますね。」

「はい。」

キィィバタン

「会社から指示された部品と工具一式、持ってきてくれ。」


 ワルだなあ。用意周到なワルだ。あの良心的な作業者を裏切ってしまったから売られてしまったんだな。なんでも自分の思い通りになんてならないのに、この家庭は崩壊してしまうかもしれないな。

 ここで子供さんが帰ってきたらその子も餌食になってしまうのだろうか。この家庭に子供がいないことを願うばかりだな。


キィィバタン

「奥さん、部品ありましたよ。では、作業を始めましょう。奥さんは代金として彼らの相手をしてやってください。」

「え?」

「お願いします。」


 此処から先の出来事は書きたくない。もう、ひどい有様だった。心配していた通り子供が帰ってきてその子も餌食になっていた。しかも、表沙汰にならないようにしっかり脅迫までして行った。もう、この家庭は終わりだ。

 後味は悪いものだったが、ここの主が望んでなったことだ。責任は主にある。


オレの名は神崎悟。手軽に異世界を楽しむ旅行者だ。

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