第1話『旅に出るか』
オレの名は神崎悟。どこにでもいる社会人だ。
仕事に明け暮れる毎日に疲れ、どこかに旅行をしたいと考えた。
そこで、今話題のなろう系体験旅行企画に応募することにした。
月一で異世界に気軽に旅行できるという企画だ。
何でも、なろう出版という出版会社とコラボしているらしい。
オレは数々の小説を読んでいる。その中になろう出版のものもある。
期待できそうだ。
まず、店に行く。
自宅で何でも出来る時代になったのに対面が必要なのだそうだ。
面倒くさい。
だが、行かねばならぬ。
店に行くと整理券が配布されていた。なになに、予約の方を優先します…だと!?
予約できるなんてどこにも書いてなかったじゃないか!
えーと、パンフの下に…、何だこれ?めっさ小さく書いてある……。
読まんだろ、普通……。
仕方がない、待つしかあるまい。
オレの番になった。窓口へ行く。
企画の説明。ふんふん、なるほどなるほど、どこの異世界に飛ばされるかはランダムな訳だな?
あー、希望は優先されるのね。まあ、当然だな。
そうだな、オレはこの「なんでもいい」にチェックをする。
何だ、店員?心配するな、大丈夫だ。
人じゃない場合がある?問題無い。なろう小説はよく読んでいる。
モンスターや犯罪者目線で体験するのも非現実で面白い。
体験なのだから異世界で傷付いてもこちらには影響無いのだろう?ならば、良い。
オレは注意事項をよく読みサインした。
注意事項を読まずにサインして会社に大損失出したバカが最近いたからな、注意する。
うん、書き漏れは無いな。よし、提出だ。
店員、これで頼む。
おい、店員、それは何だ?チョーカー?首輪じゃないのか?
時計やブレスレット、バンダナにしないのは何故だ?壊しやすいから駄目?
そうか、そうだな。外したり壊したりすればそこで終了だものな。
うん、了解した。チョーカーを着けよう、似合うか?
いや、何かリアクションを返してくれ…。
オレみたいな客が後を絶たないからリアクションを返さない方針になったのか。
それは済まなかった。申し訳ない。
オレも一介の社会人だ。
上司や後輩の指導や面倒を見るだけでも大変なのに、お客様相手に説明と契約をこなさなければならぬとは、大変な職業だな。
頭が下がる思いだ。
では、来週からよろしく頼む。
では、失礼します。
店を後にした。
来週末から旅が始まる。
自宅に戻り説明書を読み返す。
体験旅行は午前零時からスタートし、24時間で終了するのか。
その間はメシもトイレにも行けないのだな。
ふむふむ。睡眠時の夢の概念を利用するから時間の流れの制約が無いのか、面白いな。
普段の夢がごっそり体験旅行になる訳か。
ほう、衰弱防止のために専用栄養剤が届くのか、了解した。
寝る前には必ずトイレに行こう。
次の日起きたら寝小便たれていました、は悲しいからな。
ん?誰か来たようだ。
早いな、もう届いた。
超圧縮栄養ドリンク【ノムナキケン】
いや、ものすごいネーミングなのだが…、苦いのか?
説明書が添付されている?
おいおい、丸2日も保つってどんだけだよ…。確かにこれは危険だ。
オレの名は神崎悟。手軽に異世界を楽しもうとする旅行者だ。