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お題シリーズ3

傷跡をひらく事がつらい

作者: リィズ・ブランディシュカ



 高校に入学して同じクラスで見かけた。


 最初に君を見た時、綺麗な人だなと思った。


 繊細そうで、すぐ壊れそうで。儚く見えて、だから綺麗。


 思えばその時、一目ぼれしてしまったのかもしれない。


 だから、ずっと君を見ていた。


 君が気になっていた。


 その動作一つ一つを、目で追わずにはいられなかった。


 だからこそ、その予兆に気が付いたのかもしれない。


 君が小さく「さようなら」とこぼし、涙を見せた一瞬を。


 何があったのか、正確には分からない。


 校舎裏から走り去る君を見て、動揺した。


 でも、ずっと見ていたから予測は立てられる。


 僕は、彼女を追いかけていった。








 彼女と向き合う事は、とてもつらかった。


 ふさがりかけた傷口をひらいていくような行為だったから。


 でも、それでも向き合うべきだと思った。


「俺も君と同じように――られていたんだ」


 追い詰められた少女の前に立ちふさがって、どこへも行かせないようにしながら。


 手の届かない場所に行きそうな、少女を止めるために。


「だから?」

「気持ちが少しだけわかるんだ。どうか立ち止まってほしい」


 同じ境遇なんだ、と語りかける。


 この想いが伝わるか分からない。


 ちっぽけな人間にできる事は限られていて、僕が幸いにもあの凄惨だった――から立ち直ったと言っても、彼女の全部を救えるほどになったとはいえない。


 けれど、見過ごして何もしない事だけはしたくない。


 だから「お節介だよ」と言われようと「余計な事しないで」なんて言われようと。


 君の前から退いたりは出来ないんだ。

 

 ――から逃げ出して少しずつ癒えたこの傷後が、ふたたびかさぶたが剥がれて血を流している。


 それでも、傷跡をさらすのをやめたりはしない。


「これから言う話を少しでもいいから聞いてほしいんだ。この世界に力になってくれる人はいるって事を。だって君の前に立ちはだかれる僕がその証拠なんだから!」


 痛い。


 苦しい。


 辛い。


 あの――を思い出すだけで、こんなにも心が悲鳴をあげている。

 

 でも、どんなに辛くても。


 それが君の命を助けるためだから。


 この傷口を開くよ。






 君は君の物語を終わらせたくないはずだ。


 だって、この傷跡をひらくきっかけの場所で、君は泣いていたんだから。






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