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第1話 孤高の天才

久しぶりの異世界ファンタジーで拙いかもしれませんが、ぜひ読んでみてください!

 



「勝ぁぁぁ——ったぁぁぁっ!!」


 LEDのディスプレイのみが照らす薄暗い部屋の中。


 とっくの昔に太陽は沈んで、草木が眠る丑三つ時にもかかわらず、こみ上げるちょっとした達成感から俺は思わず大声で勝鬨をあげていた。


  ‥‥‥近所迷惑だよね、ごめんなさい。でも、それくらい嬉しいことがあったのだ!


 何を隠そう、スマホで簡単にできるアプリゲームが流行って若干すたれて来たものの、今がアツいブラウザゲーム”オルタナティブ”にてプレイヤーの中で一世を風靡するイベントが行われたのだ。


 というのも、”オルタナティブ”がどんなゲームかざっくりと説明すると、王になって、仲間を集めて国を作り、戦争をして領土を広げるっていう、よくあるMMO戦略シミュレーションRPGなのだけど、その”オルタナティブ”をまたにかける二つの国、『セツナ神国』と『クレプスクルム帝国』がついに激突したのだ。


 この二つの国は、”オルタナティブ”内では少し大きいくらいの国では最早太刀打ちできず、お互いが唯一の敵国とみなして長年”オルタナティブ”で覇権を争ってきたのだけど、今まで被害が甚大になることを恐れ水面下のみの戦いだった。


 それがいつからか噂されるようになった『本気で戦えばどっちが勝てるんだ?』という話題が沸騰し、それに触発されたのかセツナ神国の女王が『そろそろ白黒つけましょうか! ま、どうせ私が勝つけど』という一言が開戦の一手となり、正面激突。


 両国とも”オルタナティブ”のリリース当初から長らく台頭していた国で、それなりに名が売れていたため、開戦の情報は瞬く間に広がり、三日三晩続いた戦いはゲーム内でイベントの一種のように盛り上がりを見せた。


 さて、長々と事情を語ったけれど、俺の目の前のパソコンの画面には『WIN』の文字。


 このことから察せられる通り、俺こと夜久(やく)りおんは”オルタナティブ”で頂点になった国、『クレプスクルム帝国』の皇帝、すなわちプレイヤーである。


 飲まず食わず寝もせずに、ひたすらゲーミングキーボードを打ち続けた身体を伸ばして、なんと無しに再び画面を見ながらそっとため息をついた。


「あ~あ、楽しかったなぁ‥‥‥」


 さっきまで感じていた、達成感や勝利の余韻が急速に引いていくの感じる。


 そう、楽しかったのだ。


 開戦直後から自分で育て上げたキャラクターたちで全力を持って戦って、局面局面でピンチになったり、逆に追い詰めたり、三日三晩続いた攻防は俺にとって長らく感じてなかった『楽しい』って感情を思い出させてくれた。


 けれど、それもきっともう終わり。


 今、自分の胸に広がっていくのはこれまで幾度となく感じてきた寂しさとか、虚しさとか、虚無感。


『セツナ神国』の女王のプレイヤーはたぶんもう”オルタナティブ”には帰って来ない。


 お互いに手加減できるような相手ではなくて、文字通り死力を尽くして戦ったから、『セツナ神国』のような大国をここから再び持ち上げるには相当な時間と労力がかかる。


 俺のクレプスクルム帝国だって甚大な被害を受けているけど、今まで育て上げた仲間たちは残っているし、直ぐにまた元通りにするのは難しいことじゃない。


 だけどそこに、俺と全力で張り合えるようなプレイヤーはもういないかもしれない。


「もしかしたらもう、潮時なのかもしれないなぁ‥‥‥」


 いつものことだ。


 こうやって、ゲームでもなんでも始めれば、俺はたちまち気が付いたら一番頂点にいて‥‥‥そして、周りには誰もいない、独りぼっちだ。


 ゲームだけじゃない、現実だってそう。


 学業なんかは、気が付いたら小学校を卒業して、中学校を卒業して、高校を卒業して‥‥‥飛び級を何度もしたせいで、十歳で大学を卒業してしまった。


 だからか、俺は級友という存在はいないし、むしろよく言えば特別扱い、悪く言えば避けられてるような扱いを受け、いつしか『孤高』なんて呼ばれるようになってしまった。


 俺はそんな扱いされたくなかったし、むしろ世間一般的な学生の青春って言うやつを送ってみたかった。


 でもまぁ、しょうがないことだったのだろう。


 幼いころから様々な偉業を残してきた日本一の天才の母と、同じく世界をまたにかける日本一の秀才の父の間に生まれた俺の血の宿命みたいなものだったんだと思う。


 それならせめて、家庭ではみんなと同じようにいたかったのだけど。


 しかし、そこに愛は無く、両親の複雑な柵と義務で作られた子供である俺には温かいアットホームな家庭も無かった。


 家では会話は無かったし、世界各国を飛び回ってる両親は帰ってくること自体が稀だったし、そのたまに帰ってきてくれることも俺が義務教育を卒業した七歳からは、まるでもう親の義務は果たしたとばかりに学費だけ知らないうちに振り込まれていて、二人は帰ってくることは無くなった。


 こうして俺は、外でも家の中でもどこにいても孤高‥‥‥独りぼっちになってしまったわけだ。


 そんな虚しい現実から逃げるように始めたのがゲームで、数年が経って”オルタナティブ”に出会った。


 ”オルタナティブ”の世界観と設定はゲームということを忘れさせてくれるくらい現実的でのめりこめたし、特に一度たりとも同じテキストを話さなかったり、妙に面白く、たまにどうしてこうなったと思えるような成長を見せてくれるキャラクターの仲間たちは、まるで本当に生きているようで、すごく人間味を感じて直ぐに愛着が湧いた。


 それ以外に、国との貿易などで他のプレイヤーと話すことは、現実で会話が無い俺には新鮮だったし、同盟を組んだ時は友達と遊んでるような感覚を覚えた。


 それに何より、『セツナ神国』のプレイヤーのようなライバルと呼べる人たちとの戦いは、自分でも驚くほど興奮して楽しかった。


 だけれどもう、それを感じられないのならつまらないし、このまま面白く感じないものを惰性で続けたとしても意味なんてない。


 なんとなしにパソコンのディスプレイを改めて見て、目を細める。


 そこに映るのは、今回の戦いでも特に活躍した最強の仲間たち。


 一人ひとり丹精込めて育てて、成長を見守ってきたキャラクターたちがまるで『お前もこっちに来い! 一緒に勝利の祝杯をあげようぜ!』って言っているように手を振ってくる。


 分かってる。


 きっとそれは俺の妄想で、まやかしで‥‥‥そんなことは、この無味な現実を抜け出して画面の向こうに行くことなどできはしないのだと、『孤高の天才』と呼ばれる頭脳じゃなくたって理解できる。


 だけどやっぱり。


「俺もそっちに行きたいな‥‥‥」


 ポツリとつぶやいて、右手でそっと画面を撫でた時だった。


『なら、連れて行ってあげる』


 どこからともなくそんな声が聞こえてきて、パソコンのディスプレイの中から細く白い腕が伸びてきた。



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