ユリア
僕は必死に隠れていた。
1人の女が僕の隠れているところの近くまでやってくる。
見つかったらきっと大変なことになるのだろうな。
僕の額を嫌な汗が伝った。
女はしばらくウロウロとしていたが、諦めたようで向こうへ行ってしまった。
僕はこの数日この女に見つからないように過ごしていた。
全ては数日前、夜中にコンビニに行ったことから始まった。
そこで会ったこの女から、僕は訳あって今隠れているのだ。
女の名はユリアと言った。
ユリアは決まって夜に現れるため、僕は昼間にシャワーを浴びたり、食事をとったりして過ごす。
必ずアラームをつけてベッドに入る。隠れるところはなんだか埃っぽかったり、カビ臭かったりするためいい匂いのベッドに癒されてしまう。
寝過ぎないように何回もアラームをかけておく。
起きるとトイレを済ませ、女の現れるのを待つのだ。
ユリアは髪が黒々としていて長く、身体は細い。
隠れているところからは顔はよく見えないのが残念だ。
部屋の中をウロウロと探して回っている。
ユリアは最近特に音や気配に敏感になったようだった。
僕は声を押し殺してユリアを見る。
今日こそは見つかるかもしれない。見つかったらどうしよう、ただじゃ済まないだろう。
ここはアパートの2階だ。なんとか逃げられるか。
しかし今日はいつもと違った。
着物を着た老婆も一緒だったのだ。
老婆は部屋の中を隅々まで見て周り、時折手を壁にかざしてぶつぶつと呟いていた。
僕の隠れている所までやってきたが、なんとかやり過ごせた。
ユリアは部屋の真ん中から動かなかった。
老婆は一通り部屋を見終わった後、ユリアの元に戻りこう言った。
「ユリアさん、大丈夫です。ここに幽霊はいませんよ」
老婆が消えた後、ユリアはテレビをつけてぼうっと見ている。
パッと急に僕の隠れているところを見るが、すぐにまたテレビへと視線を戻した。
そんなユリアを僕は天井の上から見守るのだった。
ユリア、今日も大好きだよ。