未来からの帰還者【戦士の場合】
迂闊だった。
もはや、その一言でしか言い表せない。
自分は何と愚かなことをしてしまったのだろうか…
遡ること数週間前…
「フールッ!本日限りで貴様を追放する!!」
あの時、俺は仲間だった…いや、もはや仲間だったなんていう資格は俺にはねーが…
1番重要だったメンバーを追放した。
何故かって言えば、ナヨナヨした男だったからだ。
ジョブはサポートの道具士。
戦闘職ではないのだから、前線に出ないのは当たり前なのに…
あいつの言いたい事をはっきり言えない態度にイラついてしまった。
他のパーティーメンバーも賛同してくれた結果、あいつを追い出す事にしたのだ。
…あいつは悲しそうな表情をしながらも、最後まで言い返さなかった。
いつまでもナヨナヨするなとぶん殴ってしまいそうになるが、これで縁が切れるのだからと怒りを飲み込んだ。
これから、俺達は更なる高みを目指すために駆け上がる…
だからこんな事で問題を起こしてはいけないと飲み込み、去る姿を見送った。
だが、それが間違いだった。
全てが、おごりだった。
一言でまとめれば、あいつは道具士として…サポート役として優秀だった。
確かに男としてはナヨナヨしていたが、あいつのサポートがなくなって初めて、その重要性を理解した。
いや、理解させられたというべきだな…
事前の攻略対象に対する調査や準備、ダンジョン内での的確なサポート…
今考えれば、どれもこれも全く都合が良すぎたのだ。
巨大なトロールを倒した時も…
ツインアナコンダを倒した時も…
誇りとなったレッドドラゴン討伐時も…
全部、あいつという影のサポートがあったからだ。
…そんな存在を失ったのならばどうなるか…
誰にでもわかる結末だ。
事前の準備は任せっきりだったから…あいつがいなくなり、準備を満足に行える者はいない。
攻略時に必要なアイテムが足りなさすぎたり多すぎたり…
必要な時にアイテムがなかったり…
当時の“リーダー”だった俺が決めた事だから全部言い訳だ…
…もちろん、あいつが戻ってきてくれる保証もないから、新しいサポート役を探してみたが…
それでも、あいつのような働きはできなかった。
そもそも、事前準備は完璧、戦闘時ですらサポートできるなんてそういるはずがない…
…俺は世間を知らなすぎたんだ…
そして、その結果…
これだ。
“ぐぎゃぁぁぁぁぃぁぁぁぁあ!!”
雄叫びをあげる8つの蛇の頭…
ヤマタノオロチ…こんな化け物と出会したのが運の尽きだ…
元々は、いつも狩っているCランクのレッドウルフを狩りに来たはずなのに…
伝説クラスのSSSモンスター…厄災に出くわすなんて…もはや因果応報としか言いようがないだろ?
…さらに、仲間だったメンバーには裏切られた。
それも、俺がこうして地面に倒れているのが理由だ。
しかも、モンスターを誘き寄せる匂い袋付きでな…
後ろから魔法をぶちこまる、動けなくなった俺に対して匂い袋を投げつけてきた。
理由は簡単だ。
“俺を囮にして逃げるため”だ。
…もっとも、こんなモンスター相手に、俺1人の贄で逃げるとかできるとは思えないがな…
…ぁぁ…なんて馬鹿らしい最後だろう。
順調だったあの頃が走馬灯として頭を駆け巡る。
戦士となり、たくさんのモンスターを倒してきた。
他にいないとすら思える仲間達を見つけていった。
順調な…まるでおとぎ話みたいな冒険譚…
だが、あいつを追放してからは…
…これが贖罪だというのなら…素直に受け入れるしかないな…
ヤマタノオロチに匂い袋は合わなかったのかこちらに口を開き、灼熱の炎の塊を放つ。
どうやら…かなり臭いに対してお怒りらしい…
その塊はもはや太陽にすら思えた。
…あれを食らえば…俺なんて一瞬で焼かれ、跡すら残らず消滅するだろう…
自分の死が間近に迫っているのを感じながら…ゆっくりと目を瞑った。
…?
おかしい…
待てども、体を焼かれる事がない。
あれだけの塊だ。
今の俺ならば、よけるなんて無理だし…外す事すら無い…
何が…ッ!?
「グゥッ…ぅぅぅううッ!!?」
苦しそうな声を出しながら、必死に迫り来る巨大な火の塊を…魔道具で防ぐ“あいつ”の姿があった。
「ぉッ…ぉまっ…!?」
体が痺れて声が出せない。
「がぁぁぁッ!!」
「…ッ!?」
苦しそうな声に、俺は理解した。
彼は一時的にあの攻撃を止めているにすぎない。
「ッ…す…すみませんッ……こんなものしかッ…よういッ…がッ…!!」
こんなもの?
こんな物だと?
今お前が使っている魔道具は盾女神のスクロール。
あらゆる攻撃を防ぐと名高い魔道具だ。
さすがに、SSSランクモンスターの攻撃には耐えきれてないみたいだが…
そんな、盾女神のスクロールがどれほどの値段がするかわかってないとでもッ…!?
「……やっぱり無理かッ…!」
悟ったように彼はつぶやくと、片手で別のスクロールを開いた。
…あれは…確か帰還の文言…いやでも何か…
「…どこに飛ぶかは分かりませんがっ…少なくとも、“1人”は確実に飛ばせますッ…後のことは…申し訳ないですが、何とかしてもらうしかありませんがっ…」
とあいつはスクロールに魔力を流し、俺にスクロールを発動した。
…
……いや…
……いやいやっ…
おかしいだろ…
「とりあえずできるのはッ…街の中ッ…みたいな雑な設定ぐらいですがッ…!」
さっき1人って…ならお前はどうなるッ!?
「とにかく戻れたら傷を癒してくださいッ…!」
そのスクロールは1人用なんだろッ!?
学がない俺でも、スクロールの使用には魔力がいるのは知っているッ。
それも高位になればなるほど、その代償も大きいッ…
既に盾女神のスクロールを使用したお前に残っている魔力はッ!?
「…すみませんッ…こんなことッ…しかッ…できなくてッ」
それを使って逃げるのはお前だ!
俺じゃ無い!!やめろ!!!やめてくれ
ッ!!!!
「…ッ!」
だが、そう叫びたくとも叫べない。
それだけに先程のダメージ。
さらには、普段から無茶をしすぎたツケで体が動かないのだ。
「…生きてください」
…その最後の言葉を合図に魔法が展開される。
俺の視界が、スクロールの光で埋め尽くされると同時に、魔力がなくなって…
灼熱の塊の中に消えゆく彼の姿を見ながら…