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赤竜転生録  作者: 42神 零
アンデルミナ平原編
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08:ある女性冒険者の体験談

 む…困ったな…。


 今回の依頼は隣国アグザリオ王国のお姫様の護衛として移動用の馬車に乗り込んだのはいいが…まさか獅子と鶏の混合種であるコカトリスに遭遇するとは…。


 こいつの特筆すべき点は生き物を石化させる呪いのような息を吐いてくるという事。


 石化した場合は専用の薬があれば解くことが可能だが…そんな薬など持っていない。そんな状態で石化してしまえば命が危ういぞ。


 それに翼を広げて戦闘態勢とは…。どうも気が立っているようで私達を逃がすつもりなんてないようだ。


 つまりこの状況から逃れるには戦う他ない。幸いなのはこれが馬を主食としているグリフォンではないということぐらいだろう。



「コカトリスです!!姫様、ここは我々にお任せを!!」



 人数は私を入れて護衛三人、姫様が一人に運転士が一人…か。コカトリス相手にしては心細いな…。


 だが、退くわけにはいかない。ここで逃げてしまえば二人の命が危ういし、そもそも逃げるつもりもない。


 かといってこうといった策略もない。私が出来る事といえば目の前にいる魔物をただ倒すだけ。



「スピードブースト…!パワーブースト…!エンチャント・アグラ!!」



 生存率を上げるために、魔力消費は激しいものの護衛兵二人にそれぞれのバフ魔法を付与させる。


 感謝の言葉を受け取りながら、私は熱を帯びた剣を構え…自分が出せる殺気を身に乗せて身構える。


 相手のコカトリスは本能で感じ取ったのであろう、身を震わせては姿勢を低くして臨戦態勢に入った。


 …正直、このやるかやられるかの一瞬が恐ろしくてたまらない。でもこの地に来たからにはこれが生きる道の他ないのだ。


 もう、あんな経験しないように…もう二度と無実の人間を死なせないために、私は戦い続ける…!!例えこの身が滅びようとも!!



「うおおおぉあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」





 _ドスンッ!!





 …え?


 な、なんだ?何が起きた…?


 私は確か覚悟を決めて戦おうと立ち向かった筈なのに…何故宙に舞っている…!?



「がはっ…!?」



 地面に…叩きつけられた…。い、一体何が…?



『グルアアァァァァァァァァッ!!!』



 聞いたことのない咆哮…まさかこんなタイミングで新手か…?


 だが何故だ…新たにやってきた魔物から殺気とういものを感じない…何がどうなっている?



「お、おい!!起きろ!!」



 隣にいた護衛兵に起こされた私はよろけながらも体勢を立て直して何が起きたのか、周囲の確認をする。


 運転士と姫様が口を開いて絶句しているようだったが…何か嫌な予感がする…。



「っ…!?」



 そんな予感を過りながらそっと振り向いた私は…二人のように絶句したまま硬直してしまった。


 私の視線の先には、どこからともなく飛んできたであろうワイバーンドラゴンがコカトリスと争っているという展開が広がっていた…!!


 先制攻撃を仕掛けた赤いドラゴンがコカトリスの真上から奇襲すると、その二本の太い脚から生えている三本の爪で鷲掴みをして襲い掛かっている!!


 当然コカトリスも反撃!仰向けになりながらもその鋭い嘴で突くが、ドラゴンは目をやられないようにと首を大きく回して回避しては首根本目掛けて牙を剥きだしに噛みつこうと仕掛けてきた!


 だが、ここでコカトリスの攻撃!ついばみが通用しないと悟ったのか、嘴を開いたと思えは灰色の吐息を放った!


 あれは石化ブレス!しかもあの量となるとドラゴンでさえ石化してしまうぞ!!



『グオォッ!?』



 ブレスは喉元に直撃し、ドラゴンは一度身の危険を感じたのかコカトリスから離れて一旦距離を取った。


 地鳴りと共に着地したドラゴンは身を低くすると低い唸り声を上げては翼を大きく広げて威嚇のポーズを取る。


 対してコカトリスも負けずと翼を広げると甲高い咆哮を上げて同じように威嚇の態勢に入った。



「離れろ!!巻き込まれるぞ!!」



 人間が入ってはいけない領域を目の当たりにした私は暫く動けないでいたが一人の護衛兵の言葉に我へと返り、両者の距離から離れることにした。


 あんな戦いなど、入ってしまうだけで命がいくらあっても足りやしない…。ただ不幸中の幸いというべきか、ドラゴンは私たちの存在に気付いていないという事だろう。


 しかし安心はできない。どちらかが勝ったとしても魔物に変わりないので襲われる可能性など大いにあり得る…。


 それに…ドラゴンの出現に馬が驚いているようで逃げるどころの話ではない。運転士が縄で落ち着かせようと必死になっているのがわかる…。


 それまでに私たちが時間を稼がなければ…。例えそれがドラゴンが相手だとしても…。



 _ジュウゥゥゥ…



 だが、私はさらに驚きを隠せないこととなる…。喉元に直撃した石化ブレスを熱で溶かしたのだ!


 いやいや、荒業過ぎる!!そんなのありかと突っ込みを入れたくなったが、コカトリスも同じ心情のようで目を見開いて凝視していた。


 結果的に全身の石化を回避したドラゴンはそのまま口に溜まった炎を纏ながら大きく咆哮すると同時にコカトリスに向けて大きな火球を放った!


 真っすぐと熱を纏ったブレスはコカトリスに直撃する前に、再び石化ブレスを放って相殺させると爆発を起こしては周辺を吹き飛ばした!


 なんという威力だ…!衝撃波だけだというのに鎧などなければ簡単に吹っ飛んでしまうぞ…!


 そんな中だが、舞った土煙を目暗ましとして利用したドラゴンはそれに乗じて奇襲を仕掛けた!!


 コカトリスは対応出来ず、遅れてドラゴンを切り裂こうと爪を立てるが…時既に遅しとはこのことか。


 ドラゴンはそのままコカトリスの首根本に噛みつき、そのままブンブンと振り回しては地面に何度も何度も叩きつけた!


 一度、二度、三度と回数を重ねる度に何かが潰れる音が大きくなっていき、逆にコカトリスは弱々しく悲鳴に似た鳴き声で鳴く…。


 既に弱くなり始めているコカトリスに対し、ドラゴンは容赦なく…最後に首を捻ってはトドメを刺した。


 直後、コカトリスは一ミリも動かなくなり…その上に乗っていたドラゴンが勝利の雄たけびとでもいいたいのか、天へと向かって大きく咆哮を放った。


 言葉では表現出来ない大咆哮になす術もなく、両耳を塞いだまま身動きが取れない私は咆哮が鳴き止むと我に返ってドラゴンの方へと目をやった。


 その視線の先にはドラゴンの透き通った綺麗な赤い瞳と目が合ってしまい、思わず腰を抜かして尻が地面に着いてしまった。


 このままだと殺されるのでは…?私も周囲で身構えている護衛兵も、この場にいた全員がそう思っていた時の事だった。



『……………』



 奴は何を思ったのだろうか、私の顔をジロジロと見るなり喉を鳴らすと視線を逸らして小さく咆哮すると翼を広げてはコカトリスを掴んだまま飛び去って行った。


 た、助かった…のか?


 困惑する私だったが、安堵して全身の力が抜けるのを感じるところで馬も落ち着きを取り戻し、そのまま運転士は慌てたまま走らせた。


 思わぬ出来事があったが、あのドラゴンのおかげで命拾いした…。だが何故私を、私たちを襲わなかったのか?


 ドラゴンの目撃情報は少ない。この地に来てもう十年以上は経過しているがドラゴンなど初めて見たが…一説によれば残虐非道で目に映るもの全てを食い殺す、などと言われている。


 だがあのドラゴンからは到底そんな風には思えなかった…。私たちを殺さないということもそうだが、なにより目と目があった時に見せたあの優しそうな瞳からは…何故だか人に似た何かを感じてしまう。


 わからない。わからないが今だけは安堵しよう…危機は去ったのだから、考え事などアグザリオ王国に着いてからだ…。

今回登場した魔法の紹介





・アグラ

アグの上位に当たる灼熱属性系の中級魔法。今回はエンチャントとして登場したが、通常のアグとは異なり一回り大きくなったアグを対象に当てて爆発を起こす。

威力も他、爆発範囲も強化されているもののその分魔力消費量がアグより大きい。



・石化ブレス

鶏獅子コカトリスが繰り出したブレス系統の攻撃。属性付与がされているため魔法と分類される。

灰色の霧のように散布され、直撃するとその箇所からゆっくりと侵食するように石化が始まり、全身まで及ぶと石像になってしまう。この状態で攻撃を受けバラバラになった場合、もしくは石化して数日経過した場合は死に至るが石化を解く特殊な薬液を流せば解除可能。


また、石化ブレスそのものは最初泥のような物質で構成されているため、百度を上回る高熱を当ててしまえば溶けて無効化するとされている。

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ファンタジー 転生 ドラゴン 戦い 日誌 チート無し 弱肉強食
― 新着の感想 ―
[良い点] ハーレムもなし俺TUEEEEが行き過ぎてる感じでもなし、触った感触は良さげ、ただ戦闘シーンが色々目線がごっちゃになったり!を多用しすぎて微妙な感じがした [気になる点] 当然コカトリスも反…
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