05:まだまだ続くドラゴン機能訓練!!張り切り過ぎて喉が…
飛行訓練から翌日。筋肉痛が少し回復したあたりだが父ちゃんドラゴンはそんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに、次のトレーニングを提案する。
連れてこられたのは大きい湖の場所。昨日の断崖絶壁と比べて穏やかな場所だったんで、またやべぇところにでも連れていかれるんじゃないかとヒヤヒヤしたがそうでもなかった。
しっかし、すげぇ綺麗な湖だな。日本にもいくつか湖っつーもんはあったんだが、ダントツこの湖が透き通ってやがる。
だって底が見えるんだぜ?鮭も泳いでるし、魚飯食いたい時はここに来ればいいのかもしれないな。
あ、余談になるが…最近の俺のブームは鮭だ。刺身にするのもよし、卵をくり抜いて食うのもよし、脂身が乗っていて焼いて食うのもいいと、キングオブフィッシュと言えば鮭ですよ、鮭。
俺の好きな食い方は踊り食い。人間のときゃ到底不可能だが、俺はドラゴンだ。魚の丸呑みぐらい簡単だろ?
と、話が脱線したな。この湖にやってきたのは当然遊びにやってきたという訳では無い。父ちゃんが言うにはここで「泳ぎの訓練をしてもらう」とのこと。
いやまぁ、言われてないけどそう言ってるように感じた。不思議と何を伝えたいのかわかるんだよ、長い間一緒に過ごしてるからな。
なんて思っていると弟妹たちが次々と湖の中へと入っていった。先陣を切ったのは我が一番弟の次男だ。
あいつは口数?が少ないんでね。何も言わずにスーッと静かに入っては身体と尻尾を器用に使ってスイスイ泳ぎ始めた。
見ろよ、律儀に翼を畳んでるぜ?あいついつの間にかあんな技術を?三女といい、どうやら俺の家族は優秀ドラゴンのようだ。
俺も見様見真似でやってみたんだが、これが難しいのなんのその。体を唸らせながら尻尾を回転させて推進力を発生させないと行けないもんだから頭ん中がごっちゃごちゃになる。
決して泳げないって訳じゃないけど次男と比べてみるとぎこちない泳ぎ方となってしまった。これもちょっと自主練が必要かな…。
ちなみに次に上手かったのが次女で、その次は長女。三女は魚を見つけてはしゃいでるし、四男に至っては水が怖いのか入ろうとしない。
大変だったのは三男だったな。あいつ面倒臭がり屋だけどやるときゃやるってタイプなんだけどよ、言うのは失礼だが…あいつはカナヅチだった。
じたばたと暴れてるところ、父ちゃんと次男に救われて何とかなったが…三男にはちょっとキツイものだったのかもしれないな。
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その次の日。今度は父ちゃんから「一方的な攻撃を防ぐ・受身を取る訓練」と称し、手合わせすることになる。
当然父ちゃんは手を抜いてもらい、俺たちは一匹ずつ向かっていったがまるで歯が立たない。
三女は小突かれて吹っ飛んだり、次男は尻尾に吹き飛ばされたり、俺なんか長男っていう理由なのかどうか知らんけどブレスぶち込まれたぞ!
熱っ!!とはなったけど、ドラゴンに生まれ変わったおかげなのか熱の耐性があったので致命傷にはならなかったが、火傷したので慌ただしく走り回って自分なりに消化してやった…にしてもやりすぎだぞこれは…。
だがこの訓練で輝いたのは意外にも三男である。
三男は攻撃を防ぎきれず、吹っ飛んだと思えば…なんと転がって受け身を取ったのだ。その光景はさながら斜面に転がるアルマジロのような光景だったな…まぁ実物は見たことないが。
当然俺は自分で言うのもなんだが負けず嫌いだ。次男同様に見様見真似でやってみたがこれが案外効果的でな。
物理攻撃限定ではあるが、自身に受けたダメージが軽減した…ように思えた。プラシーボ効果的な何かだろう、受け身は暫くこの方法で取ることにしようと思う。
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次の日、今度はドラゴンの代名詞といっても過言ではないブレスの訓練である。これが出来ないとドラゴンだなんて名乗れない程重要な要素だ。
場所は岩山の頂上で行うこととなる。ここだと人間がやってくることなんてそうそう無いし、なんだってんなら俺たちの天敵になる大型の魔物なんてやってこない。
試しにと、父ちゃんが軽くブレスを放った。火球型のブレスで、遠くまで飛んでいくと大岩に直撃して木端微塵にしてくれた。
昨日の訓練で直撃した俺だったが、本当に軽い攻撃だったんだろうな。今のもん食らったら完全に死んでるよあれ。
んで、それぞれ別々での特訓が始まった。だがどうも苦戦している様子で、殆どの弟妹は目の前にある岩を破壊できないでいる。
そんな中、俺はというとターゲットである岩を目の前にしてちょっとしたイメージトレーニングをしていた。
さっきのを見てイメージしてみたんだが、一瞬で…尚且つ大きく吸い込んでから一気に放出する、といった具合なんだろう。
当然ブレスなんて初めての試みだ…。だがなんだろうか、空を上手く飛べなかったり、泳げなかったり、果ては受け身も見て習ったようなものだったが…これだけはうまくいくような、そんな不思議な感覚だった。
…いや、まさかな。ただの勘違いだ。自信を過信しすぎると痛い目を見る…この世の理なんてそんなもんだろうよ。
じゃぁとりあえず、さっきイメージした通りにやってみようか。まずは大きく、尚且つ一瞬で空気を吸い込んで…
_スウゥッ…
体内に入り込んだ空気に熱を加えて…もっと、さらにもっと熱をぶち込んで発火させる…!!
よし…いいぞ。熱くなってきた…!でもまだだ、まだ足りない…目の前にある岩を敵だと思い込んで…撃退ではなく、燃やすという意識を持って…溜め込んで…!!
_フツフツ…
体内から、口の中から熱い熱を感じる…!!もう、流石にこれが限界か…熱くて熱くて仕方がねぇ!!
もういい!!我慢の限界だ!!撃ってしまえ!!
いざ、放出!!!
…あ、まただ。
また意識を失ったようで、目が覚めると岩を背にして寄りかかったまま正面に佇む父ちゃんと目が合ってしまった。
その周囲には俺の可愛い弟妹たちが心配そうにこちらを見つめていたが…俺はあるものを見て言葉を失った。
俺が先程まで手にかけていた岩が父ちゃんと同じく木端微塵になっていたのだ。残ったのはいびつな形をした小石と砂塵だけがそこにあっただけで岩など見る影もなかった。
………え、嘘…。これ、俺がやったの?
つかだめだ…喉が痛ぇ…あの熱のせいで少し焼けてしまったようだ。ちょ、ちょっと休憩したい…。
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あの後俺は一度もブレスを吐けなかった。
自分で言うのもなんだが幼体でありながら自身が気絶する程の威力を持つブレスを放ったのだ、一発が限界だろうな。
しかし…あんな威力のブレスを、しかもちょっとした準備運動程度でポンポン放つ父ちゃんって一体…。もしかしたら人類からして最恐だなんて謳われたりするんじゃないか?
…なんかそう考えると父ちゃんの下で生まれて正解だったと、心底そう思っちまうよ。確かに人間もいいが、ドラゴンも悪くないな…。
あと、今日の晩御飯は喉が通らなかった。ちょっとした火傷で済んだが、物を食えないのが残念で仕方ない。
とりあえず今日は張り切りすぎた。それが反省点だな…明日になったら治っていることを祈りながら寝よう。おやすみ…。