33:12469人
新年明けましておめでとうございます。2021年、今年もよろしくお願い致します。
場所・不明。
ただただ真っ白で殺風景な空間の中央に、どこにでもあるようなソファーに座り込んでは目の前に展開されたモニターを眺めていた人物がいた。
その者は少年とも少女とも呼べる中性的で美しい顔立ちを持ち、フード付きの黒いパーカーに黒いジーンズ、片手には真っ赤なリンゴを片手にキャッチ&リリースを繰り返しては足を組んで退屈そうにしている。
彼が見つめるモニターのそこでは…
『くそ…ッ!!や、やめろ!!来るなああぁぁぁ!!』
『俺は転生者だぞ…!!なんでこんな奴に…!!』
『助けて…ッ!!死にたくない…!!ママ_』
何人かの男女が魔物に襲われ、死んでいくという大虐殺が繰り広げられていた。
共通して全員が神の力を貰っている異世界…地球生まれの転生者で、ある者は手に負えない程の集団でリンチにされ、ある者は食い殺され、ある者は海に引きずり込まれて死んでしまった。
「…あーぁ、死んでる死んでる。命が勿体ない」
そんなショッキングな光景の前に、中性的な者は欠伸をしながら指でなぞる様な動作をするとモニターの隣に似顔絵が張られた多くのリストが展開され、今死んだ人数分バツ印を書き残した。
いや、今回だけではない。今の三人を入れて約数千、数万の転生者たちが命を落としている。だというのに中性的な者はジト目のまま見つめると背を伸ばしては首を回し、ゴキゴキと鳴らしてソファーに座り込む。
…その背後には、金と銀のオッドアイを持つカラスが地面なのか天井なのか錯覚してしまうようなこの空間の中央に足を下ろしては一瞬にして人の形に形成された。
姿は女性。腰まで届きそうなほど長く整った黒髪に妖艶な雰囲気を放つ鋭い金銀の瞳、全身を覆う黒いコートの肩や腰からはカラスの羽毛を纏った格好をしている。
その女性はツカツカと足音を立てては中性的な者のすぐ背後に佇んだ。
「今日で12,469人死んだね。最近の神は何を考えてるんだか…」
指を鳴らしては展開していたモニターとバツ印が付いたリストを閉じ、だらしない格好のままぐだーっと首を垂れてはそのまま背後へと視線を向ける。
ふと大きな果実が視界に入る中性的な者に対し、やってきた女性は半分呆れながらその様子を眺めていた。
「で、今回は?」
「赤竜が東へ移動。ムラクモ渓谷に向かっているそうです」
「へぇ…そっちに行くのか」
リンゴを片手でクルクルと回しながら、中性的な者は興味無さげに言う。
二人のやり取りからして、従者と主のような関係らしいが、どちらかが前者でどちらかが後者なのか言うまでもなく、口調から見てしまえば分かってしまうだろう。
「リアクション薄いですね。前までは赤竜に興味があるとか仰っていたのに…」
「まぁ彼とは一度話してるし、今更どこへ何をしようが勝手だよ。赤竜もまた僕の監察物のひとつに過ぎないからね」
「でしょうね」
目の前で別のモニターが展開されると、ムラクモ渓谷と呼ばれる水と自然溢れる谷の中に、丸くなって寝てる赤竜の姿が見えた。
どうやらこの地は和をイメージした文化があるようで、その近くには広大に広がる竹林が生い茂っているのが見える。
そんな光景を見てリンゴ片手に眺める中性的な者に対し、女性はため息を着く。主人の態度があまり気に入らないらしい。
「でも、赤竜は前世罪を負っている。んで、その罪が償えるまで見守るのが君の役目だからそれだけは忘れないでよ?」
「分かってます。それともうひとつ報告が」
ふと思い出したように懐からひとつの報告書のようなものを取り出すと、女性はそれを眺めながら中性的な者の前に立ち、見せびらかした。
ソファーに座ったまま中性的な者は泳ぐように目を動かし、内容を読み終えると「はぁ…」とため息をついては背もたれに寄りかかった。
「反対派の活動ねぇ…」
なんの反対派なのかわからないが、そう聞いた中性的な者…赤竜と一度対話した神は呆れた様子でもう一度ため息をついてはリンゴを持ってクルクル回して遊びだす。
この様子から見て、神である彼(または彼女)でさえ頭を悩ませるほどの問題らしい。
「どう致しましょう?」
「どうって聞かれてもさ、君は僕の使いでしょ?下級とはいえ神相手に勝てなくない?」
「いえ、確か中級神までなら対等に戦える…という設定で生まれましたので…」
「…そういえばそんな設定だったね」
ポーカーフェイスを崩さないカラスの女性に苦笑いする神。
設定、などというイマイチピンと来ないワードだが会話が成り立っている以上、彼らにとって特に特別な会話ではないようだ。
「なんにせよ、他の連中には手を出さないで。ミスとかいうしょうもない事で人の命を奪ってるけど一応神だからさ、殺したら殺したで後々面倒だから」
「わかりました。ただ…」
「面倒事かい?どうせ異常発生についてだろ?」
「…はい」
二度あることは三度ある、と言ったところだろうか。女性の返答を聞いた神は頭を抱えては大きくため息を着き、呆れたような態度で次の言葉を待つ。
同じ心境なのか、女性も半ば呆れたまま報告書を取り出しては捲り、異常発生と呼ばれる事態についての報告を口にした。
「百鬼夜行が訪れるようです。発端は_」
「話さなくていい。どうせ転生させたバカ神でしょ?」
「………」
百鬼夜行。
かつて大昔の日本で起きた妖怪たちによる大行列であり、大厄災の出来事。
一体いつ、どこで、どういった理由で発生したのか理解出来ないその大厄災が、この世界にもあるのだと言う。
だが、確実に分かっているのは…そういった設定をこの世界に取り入れたのは紛れもない神である。
故に、神は怒る。
叫ばず、激震せず、ただじっと静かに拳を作っては眉間を寄せ、小さくも確かな殺意を乗せて…。
その証拠というかなんというべきか。リンゴが独りでに浮かぶとガタガタと揺れ、爆発を起こすと欠片が飛び散った。
そんな中、神はソファーから立ち上がると指をポキポキ鳴らして女性の肩を掴み…
「引き続き、彼の監視を頼むよ。こっちの問題は僕が片付けるから」
「分かりました…でも_」
「殺しはしない。向こうは腐っても神…死んだら生命のバランスが崩れちゃうからね。でもそんなミスはしない、僕は絶対だから」
ニッコリと優しく笑みを見せる神。
それを最後に音もなく姿を消し、見つめていた女性は一人残されると膝を落としては呼吸を荒くしてガタガタと震え出した。
我慢していたのだろう。敵意はこちらに向けられてないものの、神が一瞬だけ発した殺気に。
「…本当に、困ったお方だ…」
呼吸を整え、次第に震えが止まった女性はどこからともなく出現した白い扉の前に立つと黒い一羽のカラスの姿になっては羽根を伸ばして天へと舞う。
開かれた扉の先には光が差し込み、そこには赤竜が住まう世界が広がっていた…。
・・・
・・
・
その頃、赤竜は…
『………』
…竹林の開けた場所を拠点にして長距離の旅によって溜まった疲労を癒そうと昼寝をしていた。




