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赤竜転生録  作者: 42神 零
ビラ砂漠編
33/37

31:ワジールとアリババ

 そこから先の展開は、まさに戦争といってもいいような大波乱だった。


 氷の魔物であるアクリスとアンビラス王国の戦士たちが激突するとあちらこちらに散らばっては互いの命を張った殺し合いが展開されていた。


 ある者はアクリスを粉々に砕いたり。


 ある者は角に胴体を貫かれたり。


 ある者は魔法によるものに巻き込まれ、互いに吹っ飛んだりと、三百六十度見渡すと土煙と血がそこら中に散らばっては断末魔と咆哮が響き渡った。


 そんな最中、執事のセバスチャン、転生者のサトーは大型のアクリス…それも複数を相手し、ワジールはただ一人アぺプと対峙していた。


 互いに睨み合う中、ワジールは宝剣グラディウスを構え、対するアぺプはよだれを垂らしながらワジールを見つめては翼を広げて威嚇の構えを取る。


 たったそれだけの行動で周囲に霜を展開させては氷点下の空気に触れ、凍り付くと壁となっては自然の闘技場が完成し、その内側にはワジールとアぺプが睨み合うように互いを見つめた。



「陛下!!」


「構わん」



 外野にはセバスチャンが心配そうに声を荒げるものの、対するワジールは冷静を保ったまま宝剣グラディウスを構え、次々に魔法を唱える。



「パワーブースト…ディフェンスブースト…ザブ・ガーディアン…アグブースト…グラブースト…!!」



 オレンジ、紺色、赤色、黄色のオーラを纏い、全身に水色の半透明な結界が張り巡らされるとワジールは準備が整ったのか「うむ」と頷くと地面を蹴ってはアぺプとの距離を一気に詰めた。


 それに合わせてアペプも行動を開始。翼を広げて羽ばたきを見せると霜が舞う風を放ってはあちらこちらに氷柱を発生させてワジールを凍らせようとする。


 脱皮した影響なのだろう。その風力と言い、霜の量と言い、先程までのアペプとは比べ物にならないほどの威力を誇っていた。


 対するワジールは怯む様子を見せないまま正面へ進み、手に持っていた宝剣グラディウスを振り抜いては襲いかかって来る氷柱を切り裂き、前へ前へと突き進む。


 振るう度に灼熱の炎が発生する宝剣グラディウスと国王でありながら一人の戦士としてそれを扱うワジール。稽古を受けていた、という話は本当らしい。


 そしてアペプとの間合いが目と鼻の先の距離になるとワジールは思いっきり振りかぶり、パワーブーストによって一時的だが強靭になった肉体を頼りに一刀両断を試みたが…



 _ズシャア!!


「!!」



 隙だらけの体にアペプの一撃が入った。


 冷気を宿る爪がワジールの胴体を両断するとボロボロと崩れ落ち、原型を留めないまま地面へと落下した。



「陛下!!」



 誰がどう見ても勝負は決したと思える展開に、セバスチャンは声を荒らげる。


 主であるワジール陛下がアペプの一撃で崩れ落ちた。誰でもわかるような光景にセバスチャンは受け止めるのに精一杯なのか一瞬だけ動きが鈍った。


 その隙にと交戦していたアクリスが攻撃を仕掛けようと頭を下げて突進をしてきた_



「っ!グラビオン!!」



 ところでセバスチャンの前方に岩の柱が発生し、襲ってきたアクリスを吹き飛ばした。


 何が起きたのか、声のした方向を見ると焦りを感じているサトーの姿が…。



「セバスさん!!ワジール陛下は無事です!!」


「なに!?」



 そんな会話が聞こえてくる中、対するアペプはある違和感を覚え、ふと自分の腕を見つめていた。





 本来こびりついているであろう真っ赤な血が付着していなかったのだ。





 代わりとして泥のような湿った砂だけが残り、アペプの手のひらから落ちると地面に溶けて消えていった…。


 何がどうなってるのか理解出来ないアペプはキョロキョロと左右を見渡しては警戒する。


 もはや人と会話することを捨て、本能だけで行動するアぺプでもワジールがこの近くにいると感じたのだろう、混乱してても周囲の警戒は怠らない。



 _必ずしも奴は奇襲を仕掛けてくる。



 そう予想して引き続き左右を見渡して周囲の警戒をするものの…



「どこを見ておる!」



 残念なことに…アぺプの予想とは大きく外れ、上から声がしたと思えばワジールがグラディウスを下に向けたまま突っ込んできた。


 その声に反応してアぺプも迎撃しようと構えるが、その頃には自分の脳天にグラディウスが突き刺さり、断末魔のような咆哮を上げてはジタバタと大暴れする。


 対するワジールは振り落とされないように剣の柄を強く握り絞めては自身にある僅かな灼熱の魔力を込め、グラディウスをさらに燃え上がらせては熱と斬撃によるダメージをアぺプに与え続けた。


 だがここで人間と竜の詰められない差が出てきたのだろうか…。そうやって耐え続けていたものの限界に達しては引き剥がされ、地面に叩きつかれては距離が開いてしまった。



「ぐぅ…やはり、一筋縄ではいかぬか…」



 態勢を立て直したワジールはふと自分の手を見てそう呟く。


 その視線の先には凍り付いたワジールの腕が見えたのだ。


 だがワジールは怯む様子を見せないまま次の行動へ。グラディウスを地面に突き立てたまま魔力を込め、ぶつぶつと何かを詠唱を始めた。


 最大の隙であるもののアぺプは攻撃より回復を選択し、血を撒き散らしながらも確実に傷口を塞ごうと再生能力を使っては少しずつ治癒していく。



「グラ・ドール」



 その間にワジールは詠唱を終え、自身の周囲には砂で作られた分身が五体出現し、グラディウスを模した剣を構えてはアぺプに突っ込んでいく。


 どうやらアぺプを騙した正体がこれらしい。通りで血など付着するはずもない、とアぺプは納得したようにうんうんと小さく頷いた。


 だがそれでも関係ない。


 アぺプは何人同時に突っ込んできたとしても皆殺し出来ると自信があるのか、どっしりと身構えながらもその太い尻尾を使っては薙ぎ払い、五体纏めて吹き飛ばした。


 血の代わりに砂を撒き散らし、見るも無残に形が崩れ落ちる人形の前にワジールはグラディウスを構えては人形たちと同じように正面から突っ込んできた。


 当然同じ手など通用するはずもなく、匂いで生身の人間だと理解したアぺプはもう一度同じように腕を振り上げ…



 _ズシィ!



 …ようとしたが叶わず、何か重りでも付けられたかのように下へ落下しては地面にめり込んだ。


 何があったのか困惑するアぺプだが、間髪入れずに今度は尻尾に重りが発生して吸い込まれるように地面にめり込むと身動きが取れなくなった。


 そこでようやく理解した。この重りの原因は先程軽く吹っ飛ばした人形たちによる砂の影響だということに。


 ワジールも最初からこうなることを想定して正面から突っ込んできたのだろう。そうでなければ二度同じ行動など取ってはいない。


 …だが甘かった。腕と尻尾が使えなくともアぺプには翼が残っている。


 それを知ったアぺプはすぐさま翼を広げては身も凍る風を放った。霜と強烈な風がワジールに襲い掛かるが、最初から貼ってあったザブ・ガーディアンのおかげで耐えられ、少しずつ一歩踏み出しては距離を詰めていく。


 しかし、限界があった。前に進む度にワジールを守るザブ・ガーディアンに亀裂が走り、今にも壊れそうな勢いである。


 それでもワジールは足を止めない。代々から永く伝わる因縁をここで決着をつけると必死なのか残った魔力を全てザブ・ガーディアンとグラディウスに込めてアぺプに近づいて行った。


 対するアぺプも必死だった。特にこうといった理由はないものの、野生に生きるものとして生き残ることに執念があるようで、目の前にいる脅威を排除しようとさらに力を込める。


 押すか押されるか…押し合いの中、天に微笑んだのはワジールの方だった。



「ぬおおおおぉぉぉぉぉ!!」



 ワジールはここで決死の覚悟で突っ込み、グラディウスを構えると右から左へ振り抜き、アぺプとは対照の熱風を放った。


 冷気の風と熱風が互いに衝突し合い、蒸気による爆発が発生。瞬く間にワジールとアぺプを包んでは周囲に展開されていた氷の壁が吹き飛び、ドームから解放された。



「陛下!!」



 ようやくアクリスを倒し、手の空いたセバスチャンが駆け付けようとするものの、蒸気によって行く手が阻まれ、思わず立ち止まってはエアロを発動させて吹き飛ばした。


 水蒸気の煙が晴れると…そこには体の半身が凍り付いたまま倒れているワジールの姿と熱風を防ぎきれず熱を帯びながら弱っているアぺプの姿が見えた…。



「っ…!」



 状況が読み込めたセバスチャンはすかさずザブ・ガーディアンを展開させながら間に割り込みワジールを守る形で両手を広げ、アぺプの前に立ち塞がる。


 内心怖くてたまらないセバスチャンだったが、そうも言ってられない状況だというぐらい自覚していた。


 だがここで何としてもワジールを失うわけにもいかない。例えこの身が朽ちようが国王を守り切る覚悟でアぺプに立ち向かう。


 残った魔力も僅か。ワジールもセバスチャンも、サトーも全員が枯渇してまともに動けないがアぺプも同じだった。


 この戦いが始まった時から常にアクリスを召喚し続けたこともあってか、残った魔力はほぼ底を尽きているものの、本能だけで行動しては倒れているワジールにトドメを刺そうと近寄ってくる。



『エリ…ネ……ット…』


「…?」



 その最中、近寄ってくるアぺプからそんな声が聞こえてきた。


 一体誰のことなのか理解できないセバスチャンは首を傾げるだけで動かず、ザブ・ガーディアンを展開したままワジールの盾として立ち続けた。



『返、せ…余の…愛しき娘…よ…。エリネ…ット…』


「…アリババ様…」



 必死になっているアぺプもといアリババを見たセバスチャンは何かを感じたのか警戒していた鋭い目つきから同情しているのかどこか悲しそうな表情を見せる。



 _もしかしたら、エリネットと呼ばれる娘を助けるために…。



 そう思考していたセバスチャンだったが、アぺプはヨロヨロと弱った様子で翼を広げ、再度冷気による風を起こそうと戦闘態勢に入り、対するセバスチャンもナイフを構えては迎撃態勢に入った。


 震えてナイフを掴む力程度でしか出ないが、それでもセバスチャンは決して相手に背を見せず、ワジールの護衛を全うする。



『殺、せ…。余は…もう、既に…』



 アリババから最後の願い。


 その発言は呪いによって操られていたものの自我が残り、制御できない自分を悔いては罪悪感に飲まれていたと連想させるのには容易だった。


 故に、セバスチャンは構える。ワジール直属の王族としてアぺプにトドメを…






















 だが、その直前に変化が起きた。


 何か大きな咆哮が聞こえてきたと思えば背後から砂漠の熱とは比較にならない程の熱源を感じたセバスチャンは背後に振り返る。



「赤竜…!!生きて…!!」





 そこには赤竜が佇んでいた。先程とは異なって胸部に小さな二本の腕を生やしながら…。

今回登場した魔法紹介





・ディフェンスブースト

身体の防御力を高めるバフ系魔法。物理耐性はあるものの魔法耐性は別なので使用には注意するべし。


・グラ・ドール

砂や地面、岩を自分の人形に見立てる地震魔法の応用。分裂体なので攻撃の他に身代わりの役割を担えるので使い道の幅が広いが、水に濡れると溶けてなくなるため注意が必要。

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