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赤竜転生録  作者: 42神 零
ビラ砂漠編
32/37

30:ビラ砂漠の決戦

【時は少し遡り…】






『終わりだ…赤竜!!』



 冷気と氷柱に覆われた自然のコロシアムの中で、一方的な激闘が行われていた。


 霜風竜アペプは動かなくなった赤竜の首を銜えては持ち上げ、背負い投げのように地面へ叩き付けると前足で押さえ付け、漂う全ての冷気を吸い込み始める。


 吸い込んで、吸い込んで…吸い込み続け、アペプの肺が冷気に満たされると全てをブレスとして変換し…口を開いては_



『グオオオォォオォォォォッ!!!!』



 それを、一気に放出。


 白い霜が下向きに発射され、倒れ込んだ赤竜を容赦なく包み込んだ。


 瞬く間に体のあちらこちらが凍り付き、赤い鱗が白色に変色するとパキパキと何かが割れるような音を鳴らしながら全身を覆い始めた。


 このままだと体温低下により凍死寸前の赤竜。しかし何を思っているのかピタリと動かなくなった。



『ぬぅ…!』



 体の半身が凍り付いたことを確認すると、アペプは押さえ付けていた前足を抜いては苦しそうな声を上げて引き抜き、ふと自分の手のひらを見た。


 そこには先程までなかった筈の黒く焦げた跡が…。



『何たる熱だ…。氷点下に晒されながらも尚、忌々しき炎を体内で保つなど…』



 だが…それももう時間の問題である。


 凍ったまま動かない赤竜が、体内に炎を溜め込んでいようがアペプにとってどうでもよかった。


 残りの作業は凍った赤竜を粉々に粉砕するのみ。


 アペプは出来ることならもっと苦しんでから殺したい。そう願うものの、実際は出来なかった。


 たまたま赤竜が氷点下や凍結に弱いという弱点があったからいいものの、アペプもまた反対に猛暑や身を焦がす炎を苦手としていた。


 これがまだ幼体だからまだいい。だが赤竜が成体となり、アペプの前に立ち塞がるとなると…勝ち目などはなからないのかもしれない。


 故に、アペプは長期戦を逃そうと短期決戦…つまり最初から全力で赤竜と対峙していた。


 が…結果は既に目視瞭然。天が微笑んだのはアペプの方だったらしい。


 氷漬けにされた赤竜の前にアペプが立つと、そのまま腕を振り上げては放出された周囲の冷気を集中させると半透明で巨大な鉤爪となって赤竜に向けて構えた。


 どうやらこのまま押しつぶすようだ。当然氷漬けにされた状態でそんなことされたら木端微塵になるだろう。



『死ねぃ!!我が一族の恥晒しが!!』



 そしてアペプは振り落とす。


 溜まりに溜まった氷の爪を向け、下に眠る氷漬けにされた赤竜目掛けて勢いよく…





 _ドォンッ!!


『ぬぉ!?』



 攻撃しようとした時だった。


 どこからか爆発音が聞こえたと思うと、アペプの背後に熱風と衝撃が走り、構えていた氷の爪が砕かれては態勢を崩してしまった。


 なんだなんだとアペプは首を忙しく左右に振って周囲の確認をするが…人間らしい姿は特に見られない。



『…上か!!』



 となると予測は出来る。


 アペプは咄嗟に首を上にあげると、そこには空飛ぶ絨毯に乗った人間が数百人の数でこちらに向かって来る光景が視界に入った。


 それぞれが別々の武器を持ち、中には爆薬が詰まっているのであろう樽に導火線を引き、引火しては地面に突き落としてる姿も見える。あれがアペプに直撃した熱の原因らしい。


 だがアペプは何よりも最初に視界に入った人間を見ては睨み付き、大きく翼を広げては威嚇の姿勢を見せた。その人間とは…



『あの風格…貴様、現アンビラス王であるな!?』



 別の色をした絨毯に乗っかっては宝剣グラディウスを構えた人物…国王ワジールだった。


 ワジールは宝剣グラディウスを構えては士気を上げるようにと雄叫びを上げ、百の数に群がった人間たちを引き連れてはアペプへと突っ込んでいく。



「突撃ぃ!!国王様を御守りしろぉ!!」



 次々と国王の背後から騎士団長を始めとした騎士兵、冒険者たちがワジールの前に飛び出すと絨毯の上でザブ・ガーディアンを展開させ、守りを固めたまま距離を詰め始めた。


 決死の覚悟なのだろう。恐怖心を噛み殺し、全員が笑顔を作っては雄叫びを上げて士気を上げながら前へと突き進む。



『人間が…そんな薄い結界如きで余の冷気を防げるとでも思うてか!!』



 死に行くようなものの行動にもアペプは同情せず、寧ろ翼を広げては霜を発生させて風に乗せ、身肌が凍てつく冷気の風を人間たちに向けて放った。


 ザブ・ガーディアンが発動しているとは言え、相手は自然界に生きる竜。到底人間が叶うような相手ではなく、人間など軽く吹き飛んでしまうであろう冷気の突風に何人かが防ぎ切れず、吹き飛ばされては凍り付き、砂の地面に接触するとばらばらになって死んでしまった。


 それでも。


 それでもなお人間は怯むことなく、死んだことによって空いた箇所に別の冒険者が割り込んではワジールの盾となって前衛に立つ。


 物量対一頭の竜。そんな力較べの引っ張り合いの展開だったが、ワジールの狙いはただ正面から突っ込むだけではない。



 _ズドォンッ!!


『ガァッ…!!』



 アペプの脇に爆発が発生した。


 音と衝撃、熱によってアペプはよろめき、攻撃が中断されると咄嗟にそっちへと視線を向ける。


 その先には導火線付きの火薬入り樽を持った冒険者たちが空飛ぶ絨毯に乗ってはアペプ目掛けて空爆を行っていたのだ。



「オラオラ!!」


「死ね!!死ねぇい!!」



 直撃はしていないものの、熱を苦手とするアペプからして効果的らしく、燃える砂上を前にして迂闊に近付けない様な反応を見せるアペプをいいことに、次々と爆弾を投下する。


 不発弾の場合は魔法使いらがアグ系の魔法を使用して無理矢理着火している様子も見られた。



『下等生物が…図に乗るなぁ!!』



 アペプは標的を一時変更し、爆弾を投げ付けてくる冒険者たちの方角へ向くと天に向けて息を吐き付けた。


 途端、アペプを中心に霜が上空に漂うと時間が経つにつれ固体化し、氷柱となっては絨毯に乗っかる冒険者たちに降り注ぐ。



「うわあああぁぁぁっ!!」



 氷柱のいくつかが冒険者たちに直撃。導火線に火を付けたままだったのだろう、氷柱と直撃した瞬間爆発を起こし、空中で爆風と熱が舞った。


 それを確認したアペプは距離を確実に詰めてくるワジールに向き直り、前足を大きく踏み込むと巨大な氷柱の壁が前方に展開され、簡易的だが氷の防壁が完成された。



「っ!!」


「ぐあぁっ!!」



 ワジールは間一髪で絨毯を止めて直撃は免れたものの、数名の冒険者及び騎士兵は勢いを殺せず、直撃しては凍りついて木端微塵となり死んでしまった。


 どうやらこの氷、呪われているらしく触れただけでも凍傷が発生しては生きとし生けるもの全てを凍結させてしまうようだ。


 そんな悲惨な光景を目の当たりにした兵士と冒険者たちは固唾を飲み、対するアペプは再びザブルオンを唱えて追撃を試みるが…



「フラルオン」


『ぬぅ!?』



 どこからか声が聞こえるとアペプの周囲から巨大な茨の蔦が伸び始め、四肢から縛り上げると全身を覆うような形で根を張り始めた。


 一度フラをくらったアペプだが、今回ばかりは最上級植物系魔法…それも異常とまでの規模で展開されているためか凍らせても身動きが取れないような状態だった。



『植物風情が…足止めのつもりであるか!?』


「こいつは足止めするためのものじゃない…アグ」



 抵抗するアペプに対し、後方から聞こえてくる声が灼熱属性系の魔法を放つと展開していたフラルオンに引火。


 瞬く間に炎が根に沿って燃え上がり、ついにはアペプを火だるまに焼き上げた。



『グオアアアアアァァァァッ!!!』



 熱や火を苦手とするアペプにとって、これは大ダメージ。


 初めてアペプが悲鳴のような咆哮を放つとすぐに消化しようと冷気を極限にまで発生させ、鎮火を試みる…



「私もいるということをお忘れず…」


『っ!!』



 …ところで、アペプの視界が百八十度回転するとゴロリと地面に落ちてしまった。


 どうやら何者かに首ごと切断されてしまったようだ。アペプが気付いた頃には頭と胴体が別れ、断面から赤い血がそこら中に撒き散らしている。


 そして視界に入ったのはナイフを持ったスーツ姿の初老…セバスチャンと転生者、サトーの姿があった。



「セバスチャン!そしてサトー!無事であったか…!」


「はい。赤竜の出現により一命を取り留めました」


「セバスチャン、御身の前に…(こ、怖かった…!!あのアグに巻き込まれるかと思った…!!)」



 空飛ぶ魔法の絨毯から地上に降りたワジールは宝剣グラディウスを片手に持ったまま、やってきた二人を見るなりうんうんと頷く。


 対するサトー、セバスチャンは共に身を屈んでは頭を下げて一礼する。…セバスチャンだけ冷や汗が尋常ではないが。



「して…こやつが…」


「はい。アペプ…いえ、アリババ王です。数千年前、かつてのアンビラス王国を率した…王の一人」



 ワジールは二人の安全を確認すると、後ろにあった死体を見るなり目を瞑っては何か考え事を始めた。


 その考え事がなんなのかわからないが、同じ国王として、血の繋がりのある一族として、なにか思い当たる節があるのだろう…二人を始め、周囲を飛んでは警戒を解かず身構えてる冒険者、騎士兵達も理解出来ないままじっと見つめるだけで声を掛けたりはしなかった。


 そしてしばらくして。


 何を思ったのか、ワジールは目を開くとグラディウスを構えて…身構えた。


 そう、身構えたのだ。トドメを刺しに行くのではなく、その場に留まってはグラディウスの剣先を転がっているアペプに向けて…ただじっと静かに。



「…まだ終わりではなさそうであるな」



 この言葉の意味を理解した全員が、アペプへと視線を向けた。


 その視線の先には…首が無くなりながらも四肢を使っては立ち上がっているアペプの姿が見えたのだ。


 未だに血を吹き出してはそこら中に撒き散らすものの、そんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに身震いするとペキペキと何かが割れたような音を鳴らしてはズルズルと後退する。



 _退いたのか?



 誰しもがそう思ったが…ここである異変が起きた。



 _ペキッ!!



 何かが割れる音がした。


 そんな音が聞こえたと思うと…アペプの体から文字通り亀裂が走り、鮮やかな青色の鱗が一瞬にして脱色に染まっては一回り膨らみ始めた。



「こ、これは…!!まさか…!!」



 突然目の前で発生したアペプの異変に、誰しもが固唾を飲んでは近付こうとしない。


 全く未知数の行動に警戒してるのだろう。ここで無理に突っ込んで行ってしまえば何をされるのかわかったもんでは無いのだから当然である。


 そんな中、アペプの異変は最終局面に到達しようとしていた。


 完全に殻となった皮膚や鱗は形をそのままにして残し、中に入っていた胴体が抜かれると負っていた傷跡が回復してはボコボコと断面から肉が膨れ、少しずつだが頭の形となっては再生を始めた。


 …そう、この行動とは攻撃でもなんでもないが、ある意味攻撃より厄介なものである。





 爬虫類特有の個性…脱皮、である。


 脱皮を終えたアペプは頭部を瞬く間に再生させると咆哮を上げ、天に向けては翼を広げて息を吐く。


 その色は先程とは異なって灰色。だが直接触れてなくても肌が凍結する程の氷点下にワジールを初めとした多くの冒険者と騎士兵団は自信にザブ・ガーディアンを展開させてその身を守った。


 吐き出された灰色の冷気は空を覆い、太陽を遮ると地上から光と熱を奪い去り、代わりに暗闇と冷気がアペプを中心に広がって支配した。



「何たる力…!!これがやつの…!!」



 空からこの砂漠の地に降るはずもない雪が降り注ぎ、周囲にいた魔物たち全てを生きたまま冷凍させると、アペプは再び吠えた。


 途端、地面から氷柱状の氷が発生すると、中から鹿に似た魔物・アクリスが飛び出してはブルブルと身を震わせ、地面を蹴っては威嚇のポーズを見せる。


 それが百の数で現れ、人間たちの前に現れてはアペプを庇うような形で展開し、手始めにとサトーを初めとした三人に襲いかかる。



「…ぬぅ、ここからが本番…か」



 押し寄せてくる大軍の前に、ワジールはチラリと後方を見つめた。


 そこには氷漬けにされた赤竜の姿が…辛うじて息はあるものの、死ぬのも時間の問題である。



「…サトー。お主、確か赤竜のお陰で一命を取り留めた、と言っておったな」


「はい。そうですが…」


「…守ってやれぬか?」


「え?」



 サトーはワジールが言ってることに一瞬戸惑いを見せ、言われたものを理解するのに少し時間がかかっては間の抜けた声を上げた。


 無理もない。人間相手が自然に生きる竜の手助けをして欲しいと言ってるようなものだから…。



「人ではなくとも、受けた恩は返さねばならぬ。例えそれが自然に生きるものだとしてもだ。この赤竜がいなければ今頃我がアンビラス王国は滅んでいただろう…出来るか?」



 だがワジールは本気だった。


 確証はないが、赤竜がここでアペプと戦っていたのは事実である。


 故にワジールはこの赤竜の命を救いたくて仕方ないのだろう。


 一人の人間として、一国を束ねる王として。自分の王国を救ってくれた英雄を死なせたくないと、そう何度も心の奥底から願ってる。



「…御意」



 そんなワジールの姿を見たサトーは首を縦に振り、赤竜の前に現れては手を当て、回復魔法であるキュラを中心に応急処置を始めた。


 赤竜の治療をするサトーの後方を見たワジールはうむと頷くと隣にいたセバスチャンと並んでは宝剣グラディウスの剣先を天に向け、周囲や後方に浮かぶ冒険者たちに向けて大きく息を吸い込み、一気に放出した。



「アンビラス王国に生きる戦士たちよ!!立ち上がれ!!剣を取れ!!長きに渡るこの因縁を断ち切るのは今ぞ!!」


「はぁっ!!」


「全軍!!全力を持って霜風竜と対峙せよ!!我に続けぇい!!アンビラスの為にぃ!!」


「アンビラスの為にぃ!!」


「突撃ぃ!!」


「うおあああああぁぁぁぁっ!!」



 雄叫びと共に。


 国王と共に。


 この場にいる者全てが命を張り、国を守るがために…氷の魔物たちにへと立ち向かっていった。















 後に、これがビラ砂漠の決戦と呼ばれるようになるのは少し遠い話になる。

今回登場した魔法紹介



・フラルオン

フラ系最上級に値する植物属性魔法。地面から茨付きの根を伸ばして拘束する。身動きが取れないようにする他、発熱させて引火する方法もある。

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