28:アンビラス国の裏の歴史
最初に攻撃を仕掛けたのはアぺプの方からだった。
全身に氷の鎧を纏ったアぺプは巨体に似合わぬその機動力を生かし、赤竜に接近すると首を丸めるとそのままタックルを仕掛けた。
当然ただ黙ってそれを受け止めるというわけにもいかず、同じように首を丸めてはタックルを仕掛け、互いに正面から衝突する。
頭部と頭部の間から見えない衝撃波が発生すると、グググと力比べのように激突し合い、遂には赤竜が勝ってはアぺプを後方にへと吹き飛ばす。
砂を握りしめながら耐え抜いたアぺプはすぐに態勢を立て直し、首を上げては正面に向き直ると上空に飛んだ赤竜が口周りに炎を纏いながら突っ込んでくる姿が確認できた。
『ザブルオン!!』
回避が間に合わないと判断したアぺプは前方に氷柱で形成された壁を展開させると防御態勢に入った。
だが赤竜の勢いは止まらず、そのまま氷柱の壁に衝突すると爆発が発生し、熱によって壁は瞬く間に崩壊する。
丸裸になったところで再度攻撃しようと試みる赤竜はそのまま息を吸い込み、ブレスの構えをすると、壁の向こう側で同じようにブレスの構えを取っていたアぺプの姿が見えた。
『!?』
喋っている時点でただのドラゴンではないと勘付いていた赤竜は目を見開きながらも迷わずブレスを放射。同時にアぺプからも白い氷のブレスを放った。
赤い炎と白い冷気が衝突すると蒸発による煙が発生する中、赤竜は見えていないながらもアぺプがいるであろう個所に太い尻尾を落としては薙ぎ倒す。
しかし手ごたえがなく、空を切っただけに終わった赤竜の背後からアぺプが飛び出し、赤竜の背に乗ってはその鋭い牙を突き立てて噛みつきの攻撃を行った。
『ガッ…!』
小さい悲鳴のような咆哮を放ち、離せと言わんばかりブンブンと左右に激しく揺らすものの、肉が思いの他深く突き刺さっているためかなかなか離れない。
そう分かった赤竜は翼を広げて宙に舞うとそのまま全身を半回転させては背中から地面にと叩きつけるように倒れ、無理矢理アぺプを引き剥がした。
潰れたカエルのような悲鳴を上げるアぺプだったが、赤竜はすぐに立ち上がると再び羽ばたいては上空に全身を浮かせ、そのまま脚に付いた鋭い爪を立ててはアぺプへと襲い掛かるように急降下を仕掛ける。
だが、攻撃は態勢を立て直したアぺプが回避したことにより、悉く失敗に終わると距離を開けては身を低くして威嚇の構えを取った。
距離が開けたことにより、赤竜はブレス攻撃を仕掛けようと呼吸をした_
『ガハァ…!!』
…ところで、いきなり吐血をしてしまい、ふらふらと全身を揺らしては不発に終わった。
砂の上で赤竜が吐いた血が付着し、それを見た赤竜が何が起きたのか理解できない様子で二度三度と吐血し続ける。
『困惑しているようだな…無理もなかろう』
対するアぺプは何事もない様子で歩みながら笑い、口を開いてはべらべらと話した。
『余の冷気は空気をも凍てつく極寒であり、故に呼吸した生物全ての肺を傷つけるのだ。この戦いの勝敗など既に決まっているようなもの…大人しく死ぬがよい』
呼吸がしにくい赤竜は息を切らしながらも口に貯めていた炎を吐き出しては凍てついた冷気を溶かしてやろうと熱を放つ。
だが圧倒的な冷気の量に炎が押し負け、一旦は元の温度に戻ったものの瞬く間に冷気に包まれては極寒の空気に逆戻りになってしまった。
・・・
・・
・
その頃、アンビラス王国では…
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!シャンティアァ!!リリーナァ!!ご無事だったかああああああぁぁぁぁぁ!!」
「ち、父上!!近い!!暑い!!そして泣き過ぎじゃ!!」
「お父様…!ごめんなさい…私が不甲斐ないばかりに…!」
王城では感動の再開を果たし、国王ワジールは涙を流しながら二人に抱き着いていた。
「娘たちよおぉぉぉ!!本当に…本当に無事でよかったわぃ…!!」
ありったけ二人に抱きついていたワジールは涙を拭い、二人の安否を見るや否やうんうんと頷く。
対するシャンティアは「妾はもう慣れとる」と二ヒヒと苦笑いして、リリーナは申し訳ない心でいっぱいなのか泣きそうな顔をしていた。
「あ、そうじゃ父上!!今外で大混乱が起きとるぞ!!この異様と呼べるほどの寒さはなんじゃ!?」
「あ、あぁ…そうだったそうだった…」
一時の再開の感動の中であるが、現在のアンビラス王国はさらなる問題に直面していたことを思い出すとワジールは真剣な眼差しに切り替わり、二人の肩を掴むと髭だらけの口を開く。
「近くにアペプが出ておってな…。そやつの影響によりこの砂漠が有り得んほどの氷点下に包まれつつある。住民の避難は完了しておるが…この気温だと長く持つかどうか…」
「お父様。そもそもアペプとはなんですか?あんな化け物、聞いたことも見たこともありません」
「そ、そうじゃそうじゃ!マンティコアなど氷漬けにされおったぞ!!一体全体どうなっとるんじゃ!?」
今発生している氷点下現象に対して緊急避難を発令したと説明するワジールだったが、そもそもアペプという存在がなんなのかわからない二人はさらに説明を要求した。
それを聞いたワジールは目を瞑っては「んー」と唸りを上げては首を傾げ、意を決したのか目を開いてはうむと頷き、真っ直ぐ二人の顔を見つめながら口を開いた。
「よかろう。お主らが十六の時話そうと思っていたが…見てしまったのなら説明する他ない。二人とも、耳を傾けてよく聞くが良い」
いつもなく真面目な顔に二人は思わず固唾を飲んではワジールの言葉に耳を傾け、何も言わないままワジールの視線に目を合わせた。
「アペプとは…遥か太古から生きておる、長寿の竜の一種である。過去に我が一族が戦っては封印し、歴史の裏でその繰り返しをし続けてきおった」
「な、何故それを表に出さぬ?冒険者と共に立ち向かえば倒せるであろう?」
「…出来ぬ。アペプの件は我ら王族の問題…他人の力を借りる事など、もっての他だ」
「どういう、ことですか…?問題って…?」
答えては質問し、それを答えてもまた質問がやってくるワジールは一旦呼吸を止めて、目を瞑り、開くと意を決してこう言い放った。
「アペプは元々人間…。その人間とは、呪いを受けた初代アンビラス王国の王・アリババ=アンビラスなのだ」
「なぬ!?」
「そ、そんな…!?お爺様が!?」
衝撃的な回答に空いた口が塞がらない二人。
だが残念なことに、ワジールの顔から見て嘘を付いている様子など全くなかった。
「原因までは分からん。だが紛れもない事実であり、我も妻も…主らほど若い頃からそう言い伝えられてきた。これもひとつの宿命だと感じた我は何としてでもアペプを…いや、アリババを苦しみから解放せねばならんと、人目が付かぬところで努力を重ねてきた」
「…お父様…」
「悪かったな、我が娘たちよ。お主らにはこの件について知らずに、幸せに生きて欲しいと願っていたんだが…それも叶わなぬようだ」
悲しそうな顔をするワジールはチラッと大臣の方へ視線を向けると、それを合図に大臣は礼儀正しく一礼すると懐からあるものを取り出した。
そこにあったのは丸められた絨毯と、一つの武器が収められているのであろうルビーのような宝石がはめ込まれた指輪だった。
ワジールはそれを見るなり「うむ」と頷いては、指輪を光らせ、形を変えると一本の熱気に溢れた真っ赤長剣へと姿を変える。
その柄を持つなり、ワジールはうんうんと頷くと空を斬らせては軽い素振りを見せると、二人の前で剣を構えては口を開いた。
「宝剣グラディウス。このアンビラスに伝わりし、アペプを沈めるがためにある…通称・灼熱の風を呼ぶ剣」
「っ…!!父上、まさか…!!」
「我が王族が撒いた種であれば処理するのも我らだ。故に…戦地へ赴く」
「お父様!?」
決意の意志を固めたワジールは背に巻いた絨毯を背負い、腰には宝剣グラディウスを収め、玉座の間から離れようと扉に手をかけるが…二人は心配ばかりで名を呼んでは止めようとする。
だがワジールの意思は揺るがない。ドアノブに手を掛けると、一度動きを止めると踵を回し、心配させないようにと優しく微笑むと二人を見つめ、口を開いた。
「案ずるな。シャンティア…お主はよく頑張ってくれた。リリーナも…よく耐えてくれたの。今度は王である我自らが赴く番だ」
「し、しかし…!!」
「…シャンティアよ、落ち着け。我も昔は腕の利く剣士だったのだ。王となった今でも密かに剣の稽古ぐらい嗜んどる」
_それに…
と、ワジールは一言残すとドアノブを捻り、大きく引いて開くとニヤリと笑い、心配そうに見つめる二人に視線を向けては得意げな顔を見せつけた。
「っ…あなた方は…!?」
開いた扉の先に広がる光景に、二人は言葉を失う。
そこには王族直属の騎士団を始め、ギルド連合軍の冒険者たちが立ちはだかり、王の出陣を待機していたのだ。
「即席ではあるが…国王護衛隊、と言ったところか。最初から我一人で赴くと言うたが…若い者共はどうしても同行したいと申し出たんで仕方なく…な?」
「み、みんな…!!」
普段見れないであろう光景にシャンティアは泣きそうになるが、溜まった涙を拭っては「うむ!」と大きく頷くと一礼をし、つられて隣にいたリリーナも同じように一礼する。
言葉で表さなくてもその行動の意味はわかるだろう。「どうか、父上を…国王を御守り下さい」…と。
「…これより!アペプ討伐戦を開始する!!各々、我に続け!!」
今日、この極寒の日にて。
アンビラス王城から数多の戦士の雄叫びが木霊した…。




