27:竜の威厳
一方、地上では…
「はぁ…はぁ…!」
シャンティアは護衛兵二名を連れてリリーナを抱えて走っていた。
柔らかい砂の上でバランスがとりにくいものの、そんなのお構いなしに足を止めず、安全であるアンビラス王国を目指して走り続ける。
確かにリリーナの救出には成功した。だがここはまだ砂漠の中腹地点…自然界に変わりない場所なので王国に着くまで安心など出来なかった。
現に何回かこの地に住まうサソリやルフと呼ばれるハゲタカ型の怪鳥に襲われているが、護衛兵二名の活躍により被害が最小限に抑えられているものの、無限の数で襲われてしまえば今までの苦労が水の泡となってしまう。
故に油断はできない。それが理解しているからこそシャンティアは疲れていようが傷が出来ていようが関係ないと足を止めることなど出来なかった。
「姉さま…ごめんなさい…私のせいで、こんな…」
「本当に、妾の妹は、馬鹿じゃ…!本来なら、下の者を守るのが、姉である妾の、仕事だというのに…!身代わりとして、差し出しおって…!」
走りながらシャンティアは抱えているリリーナに向けて言葉を放ち、それを耳にしたリリーナは黙り込んで自分がしてきたことに後悔の念を乗せて涙を流す。
本人からすれば唯一無二である姉を庇い、生贄として選ばれた姉を救うがためにやってきた行動だと考えていたが、それが返って姉を始めとしたアンビラス王国の人間全てに迷惑が掛かっていることに気が付いて、掛ける言葉でも探しているのか無言になってしまう。
「…だが、それも妾も同じよ」
「え…」
気まずい空気の中、走り続けているシャンティアが口を開いた。
抱えられているリリーナはその言葉に耳を傾けることしか出来ず、何も言わないまま次の言葉を待つだけで反論など出来なかった。
「妹が馬鹿なら、妾は大馬鹿者じゃ。囚われた妹の為ならと自分の命もいらぬと飛び出し、この自然界に出ては一つ一つ砂をかき分けては探し出す…どうしようもない馬鹿じゃ。父上様や母上様…爺に冒険者、アンビラスに生きるもの全てにまで迷惑をかけておる」
「………」
「だが、それももう終いじゃ。それが続いてようやっとお主を見つけられた…結果が良ければ全て良し、とはよく言ったもんじゃな」
「姉さま…!」
「泣くでないわ。謝罪と泣き言は国に帰ってからじっくり聞いてやるから、今はアンビラスを目指すぞ!!」
「はい…!!」
泣くなといわれても勝手に溢れ出る涙に耐えきれず、ぼろぼろと涙を流し続けるリリーナに対し、シャンティアは「お主らにも迷惑を掛けたな」と隣にいた護衛兵二人に労いの言葉を投げかけた。
あの我儘で有名なシャンティアが素直に感謝の言葉を言ってくるなんて思ってもいなかったのか、二人は「勿体なきお言葉です」と一言述べてから周囲の確認を怠らず、もう少しで辿り着くであろうアンビラス王国へと足を急がせた…
_ドオォン!!
…したところで後方から爆発に似た轟音が聞こえてくると砂塵と冷気が混ざり合った煙が舞い散らし、さらには聞き慣れた咆哮が轟いてきた。
護衛兵二人は何事かと振り返り、その様子を眺めていたが…シャンティアはどこか安心したような表情のまま歩みを止めず、ひたすら前へと進む。
後方では二頭のドラゴンが争っていた。一匹は炎に燃えるような真っ赤な鱗を持つ赤竜と、冷気と霜を扱う霜風竜の二頭だ。
その二頭は体に絡みつくように巻き込みながら互いを攻撃し、バランスが取れないまま地面へと墜落していった。
土煙と衝撃が混ざる中、霜風竜が下に、赤竜が上の状態で展開され、赤竜は並んだ鋭い歯を剥き出しては頭のない霜風竜の首筋目掛けて攻撃を仕掛けてきた。
だがそうはさせないと言わんばかりに霜風竜は首がないまま腕を動かしては赤竜の喉を掴み、そのままひっくり返すと逆に跨っては腕で押さえつけてきた。
『貴様…赤竜かぁ!!』
再生した頭から口を開き、そこから冷気を垂れ流しながら喋り始める霜風竜アぺプ。
対する赤竜は喋らないまま口に炎を溜め込むと一気に放出。火炎放射が再生したばかりのアぺプに襲い掛かり、一気に燃やしていく。
だがアぺプは吹っ飛んだものの攻撃の直前に氷を纏って炎を緩和し、難を逃れ距離を取ると翼を広げては冷気を放ち、瞬く間にこの場の気温を急激に低下させた。
「赤竜!!」
妹の救助に成功したものの、しばらくの間お世話になった赤竜を無視できないと向かおうとしたシャンティアだったが、その前方に炎の巨大な壁が現れ、彼女の行く先を阻んだ。
その炎の壁の先にはいつの間にか正面に向けた赤竜がじっとシャンティアを見つめ、グルルと喉を鳴らしている。
_妹を助けたんだろ。ならとっとと行け。
「赤竜…お主…」
なんとなくそう聞こえたシャンティアはグッと妹を抱く手を強く握ると踵を回しては元の方向へ向き直り、再び足を動かした。
「…たまには他人の我儘に付き合うのも悪くないのぅ」
それだけ言い残し、近くにあるアンビラス王国へと目指すシャンティアを見送ると、赤竜は向き直り、胸と喉元に熱を溜め込んでは身を低くしては威嚇の姿勢をアぺプに見せつけた。
_ここから先は通さない。
と、言っているような雰囲気を漂わせる赤竜に対し、アぺプはどこか気に食わない様子で睨みを効かせながら喉を鳴らした。
『…解せぬ。解せぬな、赤竜よ』
砂上が真っ赤に燃える炎に覆われている中、アぺプは口を開いては語るように赤竜に言い放つ。
『この体格にこの殺気…貴様は確かに余と同じ竜である…。では何故、貴様は竜でありながら人間という家畜を庇う必要がある?』
言い終えるのと同時に周囲の空気が冷たくなり、燃え盛っていた炎の勢いが小さくなっていく中、赤竜は反論もせず、ただじっとしてアぺプの言葉に耳を傾けた。
そんな赤竜をいいことに、アぺプは続けて口を開いては言葉をつなぎ合わせていく。
『この世は弱肉強食…その世界の上に立つのは常に余のような竜であるぞ。それでありながら下等生物である人間を庇って何の得があるというのだ。答えろ、赤竜』
『…俺、人間、殺さない。お前、気に食わない、殺す』
赤竜が答えた。
だがその内容はアぺプが考える自然界の理を否定するような発言で、それを耳にしたアぺプは言ってることを整理するのに時間が掛かりながらもようやく理解すると無言のまま殺意の勢いを強めた。
その影響なのか、周囲の温度はさらに低下。そこら中に氷の結晶が出来るなど本来の砂漠では絶対に見られないであろう現象が発生した。
『人間を殺さない?気に食わないから殺す?貴様…人間のようなことをいうではないか…。面白い』
ゆっくりと足を動かしては近寄ってくるアぺプに対し、じっと身構えたまま動かない赤竜。
距離が縮まれば縮まるほど冷気の強さが増すが…それでも赤竜には撤退という選択肢はなかった。
このまま奴を許せばさらなる犠牲者が出る。人間の心が失われたとしても、せめてもの礼儀だけは残しておきたい。
その一心で赤竜は目の前にいる敵を排除しようと、そう身構えたまま動かない。
『面白い…面白いが…下らぬ!!』
『!』
対するアぺプはそんな赤竜の態度が気に入らないのか地面に腕を叩きつけるように振り落とすと周囲に氷柱を突き出しては赤竜に襲い掛かった。
赤竜はすぐさま羽ばたいては低空で旋回し、アぺプの側面に立つと威嚇の姿勢を崩さないまま睨み付ける。
『弱肉強食の頂点に立つ我ら竜が下等生物の真似事だと!?貴様は竜をなんだと思っている!?』
『………』
『圧倒的な力で弱者を踏みにじっては食い殺し、反論するもの全てをねじ伏せた!!故に我ら竜は人間どもから恐怖の象徴として存在しなければならぬ!!』
『………』
『それを否定し、人間どもの味方に付くだけに留まらず、余を倒すだと!?片腹が痛いわ!!』
激動のあまり、再び全身に氷の鎧を纏ったアぺプは怒りに身を任せては口を開き、氷のブレスをあちらこちらに撒き散らした。
冷気はふわふわと空中に漂うように宙を舞い、そこから巨大な氷柱が形成されると赤竜とアぺプを囲む形で広がり、簡易的な決闘場が完成した。
その中央にはアぺプが地面を鳴らしては赤竜に向かい合い、グルグルと低く唸ると赤竜の方へと飛び出してきた。
『ならば教えてやろう!!貴様が如何に余の食事を邪魔立てしてくれた報いを!!この一族の恥さらしがぁ!!』




