26:弱点
突然ではあるが、弱点というものをご存知だろうか。
その概念はあらゆる生き物が持っており、同族であっても個体となれば別々の特徴を持つものである。
例えば炎。炎はあらゆる氷や草を溶かすとされているが、水をかけられた場合鎮火する。
例えば水。水は炎を鎮火させるが電気を通してしまう性質がある。
例えば雷。雷は水を貫くものの、岩までは通せない。
と、言った具合に…自然でも相性というものは存在する。
当然これは自然に限った話ではなく、生き物にも該当してしまう。例え、人類からして無類の強さを誇るドラゴンだとしても、だ。
結論から言ってしまうと、この世に万能などと言う言葉なんて存在しない。
世界は常に変わり続ける。いつ、どこで、なにが、どのように。
それを把握しきれることなんて到底不可能。出来るとするのであれば存在するかどうか疑わしい神程度でしかいない。
そんな中、神のお詫びとして貰ったチートと呼ばれる理不尽な力を持つ転生者が世界の全てを理解出来るなど勿論不可能である。
故に、転生者がどれだけ強かろうがそんなもの関係ない。世界が変わり続ける以上、神の力をも上回る力を持つものなど現れてもおかしくない。
…話が逸れたが、結局何を言いたいのかというと…生きとし生きるもの全てに苦手なものは存在するという事。
当然その弱点という概念は赤竜ラグナロクにも存在する。
『グルルル…』
_チクショウ、なんでこんなに寒いんだ…。
赤竜が最も苦手とするもの…それは寒さである。
洞窟から抜け出せた赤竜はどこかに別の入り口かないか確認しながら旋回していたところ、どこからともなく冷気が流れ、瞬く間にここら一帯の砂漠を包み込んだ。
その気温は夜の砂漠を軽く越し、マイナス30度まで下回っているためか、地上を歩いていた巨大サソリたちが凍結したまま息絶えている。
明らかな異常事態に赤竜は焦りを感じながら風の流れを読むと一気に急降下しては鼻を使っては息を荒くしては周囲の確認をし始めた。
微かながら匂う別の何かに人間の匂い、そして冷気が砂の奥底から感じ取った赤竜はここだと確信すると、翼爪の付いた二枚の翼を器用に使っては掘り進めようとえっさほいさと忙しく動かした。
ただ無理があったようで、地面を掘ることに特化している姿をしていないためか、掘ることが出来てもせいぜい2メートル弱しか掘れなかった。
_このままでは埒が明かない。
そう感じた赤竜は左右に首を回しては誰もいないことを確認し、大きく翼を広げると空へと上昇を開始し、そこから息を吸い込むと火球を放っては爆発を起こした。
爆発に吹き飛ばされ、土煙と砂が舞うとぽっかりと開いては冷気の勢いが増してはブリザードのように吹き荒れる。
_ここだ。
元凶がいるであろう穴を見てそう確信した赤竜は体温を保つために、体内で熱を蓄積させながら吹き荒れるブリザードへと突っ込んでいった。
強烈な突風に加えて容赦なく襲い掛かってくる霜のブリザードに、赤竜はどこか苦しそうな顔をするものの、勢いを殺さず真っすぐに急降下して距離を縮めていく。
少しずつ、少しずつ…。僅か数センチだけでいい、救える命が目の前で失われると胸糞が悪い。
その一心を胸に、赤竜は飛行を続け…ついにはアぺプが張っていた氷の結晶を吹き飛ばしては地下に広がる洞窟広場に足を下ろした。
…地面ではなく、アぺプの頭部の上に、だ。
_!?
なにが起きたのか分からないままアぺプは踏みつぶされ、周囲に真っ赤な血液と氷の膜の破片を撒き散らすと赤竜は大きく咆哮した。
突然どこからともなく落ちてきたことに驚愕しているのはアぺプだけでなく、セバスチャンとサトーも同じ心境だった。
無理もないだろう。これがもし人間なら驚きで済む話だが、ドラゴンとなると驚愕を通り越して困惑を極めてしまう。
「赤_」
その場にいたセバスチャンが赤竜の名を言おうとした瞬間、赤竜は吹雪がピタリと止まったことをいいことに再び羽ばたいては地上を目指して上昇する。
大きな風圧が周囲に散らばった氷の膜を冷気、そして砂が木の葉のように吹き飛ばされると一瞬にして赤竜とアぺプの姿が消えてしまった。
「今のは…サトー…殿!?」
一旦の展開に、セバスチャンは地上に向かおうとサトーに呼びかけ、ふっと視線を向けると思わぬ光景に呆然としてしまう。
そこには今まで顔色一つ変えないサトーが初めて目を見開いては焦りによる冷や汗が流れている姿が確認出来たからだ。
今まで(自称ではあるが)弱いと嘆いていた人間が初めて見せた焦りという表情。赤竜という存在が如何に危険なものなのか…セバスチャンはほんの少しだが分かってしまったようだ。
だが残念ながら今はそれどころではない。セバスチャンはハッと我に返るとサトーの肩を掴むと大きく揺らして現実に戻してやろうと試みる。
そうすると暫く放心状態だったサトーが我を取り戻すと赤竜がいなくなったことに気付いては拳を握りしめた。
「セバスさん…今のは…?」
「後で説明させていただきます…それよりも一大事ですぞ…」
セバスチャンはなにか焦っている様子でサトーにそう告げる。
別に洞窟が崩壊するというわけでもなく、増してや赤竜の出現がマズいというわけでもない。
では何をそんなに焦っているのか。その答えは単純明快でサトーもすぐに理解できた…。
「王女様たちが…」
地上にはリリーナを連れた王女がいる。
もし、互いのドラゴンがその地で争い合うとすれば…。
最悪の事態を予測した二人は互いに頷くと、赤竜の咆哮によって粉砕された氷の壁を跨いでは洞窟からの脱出を目指していった。




