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赤竜転生録  作者: 42神 零
ビラ砂漠編
27/37

25:無自覚と執事

 シャンティアとリリーナが去る中、サトーとセバスチャンは各々が持つ武器を手に持つと身構え、目の前に佇むアペプへと視線を向ける。


 対するアペプも食らうはずの獲物を逃してしまい、不機嫌なのか睨みを効かせながら回り込み、グルグルと喉を鳴らしながら翼を広げた。


 発生する風圧に身を屈む二人。だが遅れてきた冷気がこの空間を支配するように広がると、出入口であろう穴を氷塊に埋めて閉じ込めてしまった。



『貴様らは逃さん…!!どちらも骨の髄まで平らげてくれるわ!!』



 背後で凍った光景を目の当たりにした二人にドスドスと足音を鳴らしながらアペプは牙をむき出しにしては噛み付こうを口を開く。


 セバスチャンは回り込むように回避をし、サトーはジャンプして一度距離を取ると手のひらを広げ、そこから黄緑色の魔法陣が展開され、詠唱を始めた。



「フラ」



 詠唱が終えると植物属性魔法の最下級とは思えないほどの規模で、アペプの周辺に茨付きの根っこが飛び出し、四肢と首に巻き付く形で拘束した。


 茨が硬い鱗を貫き、肉にくい込んで身動きが取れない間にセバスチャンは相手の首筋を狙ってナイフを振り下ろそうと_



『雑草如きで、余を止められるとでも思うてか!!』



 したところで、唯一動かせる翼を広げると羽ばたいては再び肌寒い冷気の風圧を放ち、セバスチャンを吹き飛ばした。


 それと同時に自身にまとわりついていた茨の根っこを凍らせると粉々に粉砕し、接近戦に持ち込んできたセバスチャンを迎え撃とうと短くも太い腕で推し潰そうと振り下ろす。



「っ!」


「エアロオン!」



 だが、その前にサトーの方角から緑色の刃のようなものが放たれ、セバスチャンとアペプの間を縫うように通り抜けると、腕が切断され、そこから大量の血を吹き出しながら転がり落ちた。


 痛みに咆哮を上げるアペプだったが、翼で羽ばたくと一旦距離を置き、断面から新しい腕を生やすと手の甲を地面に向けたままブツブツと何かを呟き始める。



「まさか…!!」



 何か嫌な予感を感じたセバスチャンは前方にザブ・ガーディアンを展開させ、防御態勢に入る。


 その直後、何かを唱えたアペプは手のひらに青白い魔法陣を展開させるとそのまま手を返して地面に叩きつけた。



『ザブルオン!!』



 何をしてきたかと思えば、なんとドラゴンであるアペプが魔法を唱え、地面からは無数の氷柱が飛び出し、二人に襲い掛かってきた。


 この展開を直感で読み、すぐに最善の選択をしたセバスチャンによるザブ・ガーディアンが襲い掛かるザブルオンを制御するも耐えきれず、ヒビが入ったと思えば大きく崩れてしまい、防ぎ切れなかった。



「アグ」



 身の危険を察知したサトーは前に出るとアグを唱え、ザブルオンとの相殺を試みる。


 最早アグラオンとも呼べる規模の爆発を起こすサトーのアグと殺意丸出しで放つザブルオンが激突し、解凍された影響による白い煙が発生し、瞬く間に周辺を覆った。



「魔法を扱う魔物…噂に聞いていましたが、まさか本当に存在していたとは…」



 煙が晴れ、喉を鳴らしながら睨み付けるアペプの前にセバスチャンは冷や汗を流しながら呟く。


 魔法。それは人間だけが扱える技術ではない。


 この世界に生きる者全てには全七つのうち、いずれかの魔力が宿られている。


 例えるなら赤竜。彼は体内に灼熱属性の魔力が流れているため、ブレスを始めとした炎熱系に関する攻撃が可能としている。


 当然それは人間も動物も、そして魔物も例外ではない。ただし人間には知恵という武器を持っているため、意図的に魔法という魔術を扱えるようになった。


 ではもし…、魔力を持ちながら人間と同等の知恵を持つ魔物がいたとするのなら…。



『阿呆め。人間が出来て余に出来ぬことなどあるまい』



 当たり前になるが、同じように意図的に魔法を扱える事となる。


 アペプは人の言葉を使う他、自らをマンティコアと名乗ってはシャンティアを騙すほどの悪知恵がある。故に魔法が使えてもおかしくなかった。


 それに魔物は人と異なって持てる魔力の桁が違う。つまるところ、このまま魔法合戦となれば人間が魔物に勝てる見込みなどほぼないのだ。



「…セバスさん、ガーディアンありがとうございます。あなたの防御魔法がなければ俺は今頃あの氷の中に…」


(いやいや!?そっちのアグがおかしいだけですぞ!?)



 何か有利の立ち位置にニヤけるアペプの前に対し、サトーはちゃんとした感謝のお礼を言うものの、セバスチャンは心の中でツッコミを入れた。


 当然である。アグラオン並の規模であるアグなど異常を通り越して驚異である。


 ここが人のいない洞窟の中であるのがいいものの、仮にこれが人間のいる国の中だとしたら…魔物の攻撃による被害よりこちらの攻撃による被害の方がデカいだろう。


 そう想定したセバスチャンは、彼の持つ強大すぎる力と無自覚さに警戒し、ここから生きて出られたのなら監視をつけるべきだと、カマをかけた。



『さぁ、どうする人間?余は魔法を放てるが、持つ力は貴様らなど比較にならんほどだ。降参を示すのであれば…楽に食い殺してやろう』



 だが無自覚なのもアペプも同じだった。


 いや、正確には鈍感と言ったところだろう。サトーが持つ巨大な魔力に気付いていない。


 知力があったとしても人間のように、慎重ながら観察するという心掛けがない証拠である。


 アペプが持つ信念はただ一つ。勝利を手に収めて肉を食らう、ただそれだけの事だった。



「…残念ながら降参するつもりはない」


『ぬ?』



 笑うアペプの前に、セバスチャンを追い抜いて歩みかかりながら言うサトー。


 何が言いたいのか気になるようで、アペプは一度攻撃の手を緩めるとサトーの言葉に耳を傾けた。



「確かに俺は弱い。お前のようなやつどころか他の冒険者とは比較にならないほど弱い…全員が俺の魔法を見る度に呆然としてるのが何よりの証拠」


(だから違いますって!どこまで無自覚なんですかこの人は!?)


「だが、どんなに弱くても逃げては行けない場面が幾つかある。今回の件もそのひとつだと俺は思い、この地に立ってはお前と対立している…。なら、最後までやり通す。降参の言葉なんて俺にはない」


(はぁ…もういいです。疲れました)



 自分の才能に気付かないサトーは言いたい放題謙遜しまくった結果、ついに呆れてしまった執事セバスチャン。


 対するアペプは何を言いたいのかさっぱり分からない様子で目を丸くして硬直していた。


 だが理解するのに少し遅れたようで、サトーの言葉を聞くなり口を開いては大きく笑い始める。



『何を言い出したかと思えば…なんだその綺麗事を並べただけの言葉は!!人間の信念やらそういうのには興味無いが…一つだけ言うとすれば、そんなもの自然界に通用すると思うてか!!』



 翼を広げるとどこからとも無く冷気が漂い、熱によって上昇した温度が急激に低下し始める。


 白い霜が空気を泳ぐように漂う中、アペプはそれを全身に纏うように風を引き起こすと一瞬にして結晶化し、氷の鎧のように半透明な甲殻が展開された。



「鎧!?サトー殿!!」


『ならばその信念を、行動で示してみよ!!小僧!!』



 真の姿となったアペプは氷と冷気を纏った爪を振りかぶり、一気に距離を詰めるとセバスチャンごときり刻もうと襲いかかってくる_











 _ズドォンッ!!


『!?』



 …前に、上から赤い影が落ちてきた。


 それによりアペプは下敷きとなって頭が潰れ、下顎が地面に叩きつけられるとヒビを中心に血を吹き出した。



「!!」



 土煙の中、何が起きたのか分からないサトーとセバスチャンはすかさずサーチを展開し、状況の読み込みを開始。


 一旦距離を取って降ってきた氷と岩の陰に隠れながら様子を見る。



『グルオオォアアアアァァァッ!!』



 そこには、この洞窟の上空を旋回していた赤き竜…ラグナロクはアペプを下敷きにして巨大な咆哮を放ち、天に向けて灼熱の炎を噴き出している姿が確認出来た…。

今回登場した魔法紹介





・フラ

植物系魔法の初級に値する植物属性魔法。地面から茨付きの蔦・根を伸ばし、対象を縛って攻撃する。身動きが取れないようにする他、導火線のように火で炙って燃やすような応用も可能であり、根を張るが故に地震に強く、燃やされるが故に灼熱に弱い。また、ルタといった流水属性を当てると成長し、膨張する特性を持つ。



・エアロオン

疾風属性魔法の最上級に値する魔法攻撃。緑色の巨大な竜巻を起こして対象を吹き飛ばす。

強すぎるが故に、エアロによる風力跳躍のように人体に使うのには向いていないが、他属性を吸収して放出する特性があるのでこれを利用して炎の竜巻、水の竜巻、氷の竜巻のような応用も可能である。



・ザブルオン

冷凍系最強と謳われる冷凍属性魔法の最上級。対象の上から巨大な氷柱を落とし、氷の中に閉じこめることが可能。

この状態のまま物理的攻撃を行うとバラバラに弾けて簡単に殺せるが、火で炙ればその危険も回避できる。

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