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赤竜転生録  作者: 42神 零
ビラ砂漠編
26/37

24:霜風竜

 む…ここは…?


 狭い洞窟からやっと出れたと思えば…何やら開けた場所に出たのぅ。ここであ奴と戦うとなれば、申し分ない広さじゃ。


 …だがなんじゃろうか、異様とも呼べるこの静けさは。


 リリーナの姿もなければマンティコアの姿もないではないか。


 加えて肌寒い…。砂漠のど真ん中だというのにまるで寒期じゃ…寒くて寒くてどうにかなりそうじゃ…。



「おぉいマンティコア!!ここまで来おったぞ!!隠れてないで姿を見せい!!」



 だが、微かに感じる…この突き刺さるような視線と殺気。どこかに奴がおるに違いない…。


 妾の声が反響するだけであって返答はなし、か…。ならば仕方あるまい。



「先手必勝じゃ!!」



 指にはめ込んでいた指輪を取り外すと光り輝き、形が引き伸ばされるように変わると一本のハンマーになりおった。


 これが妾のお気に入りの武器ぞ。伊達に数年間脱走して冒険してきたわけじゃから、身を守る武器のひとつやふたつ、あるもんじゃ。


 で、そのハンマーを思い切って振りかぶり…そこから…っ!



「でええぇぇぇぇぇい!!」



 気合いの一発!!地面に叩き込むと周囲に亀裂が走り、地面が大きく揺れると妾を中心に巨大なひび割れが発生した!


 妾ながら凄まじい破壊力!見ろぃ、壁一面までヒビが走っとるわい!


 向こうが出てこないというのであれば引きずり出すまでよ!これなら嫌でも奴が_



 _ベキィッ!!


「ぬ!?」



 ちょ、ちょいと加減出来なかったかの!天井が崩れ落ちてくるわい!!


 こういう時は…!!



「ガーディアン!!」



 ふぅ…全身に透明なバリアを張り巡らせたお陰で命拾いしたのじゃ…。


 しっかし、幼子である妾の攻撃一発でほとんど崩壊するなんて、この洞窟…少し緩すぎではないかの?


 でもそんなもんマンティコアが悪いんじゃ。素直に出てきたらこんなことにゃならなんだ。


 あとはリリーナを探し出して、それから…_



 _ズドォンッ!!


「おわぁっ!!」



 なんじゃなんじゃ!?目の前に…何か白いものが落ちてきたぞい!?


 思わずびっくりしたが…冷静になってよく見てみると冷たくて透明なもの…中央には…ってなぬ!?



「マ、マンティコア!?」



 蠍の尾、蝙蝠の翼、そして獅子の胴体に顔面…間違いなく、こやつはマンティコアじゃ!!


 しかし何故…何故氷漬けにされとるんじゃ!?


 ならば妾は一体誰と話しおってた!?リリーナは何処へ行ったんじゃ!!



『遅かったであるな、第一王女シャンティア』



 そう、この声じゃ…。


 それにさっきより鮮明に聞こえる…。方向からして、上か!!



「主は何じゃ!!」


『ふふふふ…素直に来たか、小娘め…。やはり人間とは実に操りやすい…』



 雰囲気が変わった…?


 い、いやそれより…ここは砂漠で洞窟の中だと言うのに…何故雪が降ってきおる!?


 肌寒い中、次々と雪が降り積もるとマンティコアを氷漬けにした物を粉々に粉砕すると…そこには見慣れない何かがおった…。


 細長い体に短めの手足。蝙蝠のような翼を持ち、四本の角を生やす…地を這うドラゴン…。


 この緑色の鱗と言い、白い甲殻と言い…なんなのじゃ、こやつは…!



『初めまして、であるな…現アンビラス第一王女よ』


「っ…!」



 赤竜とは異なる気配…だがそれだけで分かってしまう…。


 こやつ…強いぞ…!少なくともカテゴリーが7以上はある…!


 それに現…じゃと?一体どういうことじゃ…?



『我が名はアペプ。今より数千年前、この地にてアンビラスの民に封印されし氷竜なり』



 アペプ、と名乗るドラゴンは妾を前にすると品定めをするかのようにゆっくりと前進すると、尖端が枝分かれしている舌を出し入れして身を構えておる。


 そんな名など聞いたことがない…。アンビラス、と奴は言っておったが…もしそれが本当なら王族である妾の耳に届いても可笑しくなかろうてのに…一体何故?



「アポプだかアルプだかよう知らんが…リリーナは何処へやった!?」



 ってそんなもんどうだってええんじゃ!!今はリリーナの…妹の安否が優先じゃ!!



『リリーナ…第二王女であるか。はて、どんなやつだったか?』


「惚けるでない!!いいからはよ出すのじゃ!!」


『余の見間違えでは無ければ…確かこのような小娘だったかな?』



 などと、アペプはどこか余裕そうな態度を崩さずに視線を上に向けおった。


 …上?リリーナはそこに…?


 っ!?あ、あれは…!!



「リリーナ!!」



 天井のそこに氷柱が伸び、その中には氷漬けにされた妾の妹…リリーナの姿が見えおった…!!


 あぁ…リリーナ…!寒かろうて…!こやつ…人を食うのでは無いのか…!!



「貴様…!!リリーナを返すのじゃ!!」


『落ち着け王女。リリーナなる小娘はまだ死んではおらん』


「なにぃ…!?」



 こやつは一度マンティコアと名乗り、妾を騙しおったクソ野郎じゃ…!


 信じられん妾は直ぐにサーチを展開させ、リリーナのバイタルの確認を取る…!


 ………。


 …まだ、心臓の音が聞こえとる。死んではおらん…良かった良かった…。


 だが、少しずつ…少しずつだが心の臓の音が弱くなっとる…。


 このままではリリーナが…。手遅れになる前に、何としてでも手を打たねば…!!



「っ…!」



 しかし…どうすればいい…!!


 妾は今まで様々な魔物と出会い、学び、そして生き残る術を身に付けここまでやって来おった…。


 だが今回ばかり次元が違う…。相手はドラゴン…到底今の妾には叶わない相手じゃ…!


 かと言って退く訳にも行かぬ…!ここでリリーナを見殺しにしてしまえば王女、姉共に失格になろう…それだけは絶対にしては行けぬ!


 …もしかしたら本当に最期になるのかの。そうだとしたら赤竜との出会いは実によかったぞぃ…。



『どうした?凍えて声も出せぬか?』


「や、やかましい!!武者震いじゃ!!」



 なんて言ってるけど…怖くてたまらない…!!


 今まであってきた魔物とは比にならんほどの迫力…!これが、殺意と敵意を剥き出しにした本当のドラゴンであるのか…!!



『…ならば小娘、選択肢をやろう』


「なぬ…!?」



 選択肢…じゃと?


 この期に及んで何を言うておるんじゃ…こやつは…?



『素直に貴様が余の供物として差し出すとなればリリーナなる小娘を解放してやろう』


「っ…!!」



 な、なるほど…。


 つまり妾がこやつの生贄になればリリーナを解放してくれると…そういう訳であるか。


 ふ、ふん…そんなの、答えはただひとつしかなかろうて…!



「…分かった。煮るなり焼くなり好きにせい」



 寒い中、妾は着込んでいた服を脱ぎ捨て、上半身をさらけ出すとアペプに差し出すように頭を垂れては這いつくばった。


 妹だけが助かるなら…妾の命など必要ない。姉や兄が下の弟妹を守るように、そうやって先に生まれたのが妾のような人間であるのじゃ。


 プライドがなんじゃ。そんなこと知っちゃこったない。これで救われる命があるのであれば、この妾の命…甘んじて差し出してやろうぞ。



『良き判断だ。では約束通り…汝を平らげたら、あの小娘も_』





 _ズドォンッ!!


「!?」



 な、なんじゃ!?


 妾は決死の覚悟で食われようと身を捧げたというのに…なんの轟音じゃ!?



「ひ、姫様ああああぁぁぁぁーっ!!」



 っ!!


 こ、このどこか抜けたような声は…まさか…!!



「爺!!爺やであるな!!」



 思わず頭が上がり、爆発した先に視線が向かれおった。


 そこにはナイフを構えて臨戦態勢になっている爺と護衛兵二人、そして見たことがない黒髪の男性が佇んでおった!



「爺…!!爺や…!!泣きべその爺がここに来おった!!」



 恐怖のあまり、妾は自然と涙が出てきてしもうた…!!


 け、けど涙は流さぬ!!まだリリーナが…!!



『なんだ貴様らは!!ここをどうやって_』


「…!」



 ぬ!?


 黒髪の男性…消えた…!?あやつ、どこに行きおった!?



 _パキィッ!!



「なっ…!?」



 天井の氷柱を…リリーナを落としおった!?


 ば、馬鹿者!!そいつを落とすとリリーナが…!!



「アグラオン」


 _ボォウッ!!



 も、燃やした!?


 氷柱が一瞬で小さくなると、中に入ってたリリーナが…出てきて…!!



「っ……」


「大丈夫か?」


「あ、あれ…?私は…ここは…?」



 あぁ………!ああああぁぁあぁ…!!



「リリーナァ!!」



 傍にいたアペプを無視し、妾は黒髪の男性から引き剥がす勢いでリリーナに抱き着いた!!


 冷たい…!だがよく頑張った…!!本当によく頑張ったのう!リリーナ!!



「わぁ!?ね、姉様!?何故そのようなお姿に…?」


「バカもん!!勝手に身代わりになりおってからに…どれだけ心配したのか分かっとんのかお主は!!」


「と、とりあえず落ち着いてください!服、服を着てください姉様!!」


「リリーナァァ!!馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!!大バカものぉ!!うわああぁぁぁぁぁんっ!!」



 服なんか着てる場合か!!


 全く本当に…!!無理しおって…!!このバカもんが…!!



「…さて、アペプ…とやら」



 リリーナとの再会に感動しとる妾だが、その前にと庇うような形で男が立ちはだかり、片手に炎を纏いながら構えてきおった。


 そう言えばこの男、誰であるか?見たところ冒険者のように見えるが…。



「第一王女様と第二王女様を連れ去った罪として…お前を退治させてもらうぞ」



 と言うと、男はどこからとも無く長剣を召喚すると身構えて戦闘態勢に入りおった。


 見たことない構えじゃ…。もしかしたら別の国からやってきた冒険者であるか?



「姫様。リリーナ様を連れて安全な場所へ…」


「う、うむ!」



 爺もやる気じゃ。何か鬱憤が溜まってるように見えたが…妾の事になると心配で泣きじゃくる爺だがああなると強い…。



「爺や!!そして謎の殿方や!!死ぬでないぞ!!」



 ここは任してもいいじゃろう。護衛兵二人に囲まれながら妾はリリーナを連れて洞窟の出口を目指す…!!


 まずは安全の確保じゃ…!!脱出するぞい!!

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