22:無自覚転生者
いってて…あのミミズみてぇな魔物め…派手にやってくれたなこんちくしょう…。
あの攻撃の直撃を回避出来たのはいいが、後から来た砂嵐のせいで風が制御出来ず吹っ飛ばされたわけだが…ここどこだ?
なーんかどっかの洞窟みたいな場所だが…暗くてよく見えねぇ。けど風を感じるから出入口が近いみたいだな。
…あ、そうだ。シャンティアは?
あいつ体重軽いから重いとは感じたことねぇけど、明らかに俺の頭の上にいねぇ…どこ行きやがった?
おいおいはぐれるとかお前…困っちまうよいろいろと。念の為に言うけど、今後俺の命運はシャンティアにかかってるっつーのに、こんなところではぐれましたなんてシャレにならん。
幸いにもこの洞窟、俺が入れるような構造になっているから探索可能だが…ふむ、奥から嫌な匂いがする。
しかもよ、シャンティアの匂いもするぜ?まさかあいつ、俺を置いていってこの洞窟の奥に…?
いくら冒険慣れしてるからってそりゃ無茶ってもんだぞ。それに自ら前に進むとか…度が過ぎた我儘じゃ_
『ガアァァァァォッ!!』
…はい、嫌な予感的中。洞窟の奥からライオンに似た咆哮が聞こえて…
…ん?ライオン?
確かあの時、シャンティアから「マンティコアとは蝙蝠の翼に蠍の尻尾、獅子の体と頭を持つ化け物じゃ」とそう言って…
…まさか!
『シャン、ティア…!!』
あのバカ、妹助けで一人で行きやがったな!!
確かに頼れと言ってない俺も俺だが、あんなちっちぇ魔力の人間が五十年以上生きてる化け物に勝てるわけがねぇ!!
くっそ…それにこの洞窟、前に進めば進む度に通路が狭くなってやがる…!!上手く、前へ進めねぇ!!
『バカ、が…!!』
よくありがちな人化も使えるわけもねぇし…このまま壊して進む他無いか、ちくしょうめ!!
・・・
・・
・
【ラグナロクが目を覚ますまで数分前】
…ん?ここはどこじゃ?
何かの洞窟のように見えるのじゃが…妾たちはどうしたというのか?
確か…デスワームに襲われ、そこからこやつがバランスを崩して…。
ぐぬぬ…困ったぞ。覚悟はしておったが、こんな見ず知らずの場所に来てしもうたら爺が心配するではないか。
爺は口がうるさいからのぅ。アンビラスまであと少しじゃと言うのに、デスワームめ…恨むぞよ。
…しかし、ビラ砂漠にこんな場所があったとはのう。ほれ、鍾乳洞から水が垂れとる。飲めるなら当分水には困らんじゃろうて。
「おい、起きれ赤竜」
『………』
…起きぬか。息はしておるから死んではおらんだろうが…出血しとるの。
すまん…妾が我儘ばかり言うてからこんな事に。なんの関係のないお主を巻き込んでしもうた。
仕方ない。こやつが目を覚ますまで、妾直々に面倒を_
『アンビラスの第一王女の小娘までも来るとは…、今年は大収穫であるな』
「っ!!」
何奴!?洞窟の奥から聞いたことの無い声が聞こえてきおったが…この歪んだような声は魔物であるか!?
『そう身構えるでない。前に一度会ったでは無いか、小娘』
「お主…まさか…!」
声だけだったんで、最初から気が付かなかったが…もしやマンティコアであるか!?
となるとこの洞窟の奥に…リリーナが…!!
「おい!!リリーナはどこじゃ!!差し出せ!!」
『噂に聞いてはいたが、我を前にして指示を出すとはな…』
「魔物如きに我儘だの言われとうないわ!!姿を見せい!!」
『そう焦るでない、小娘。案ずるな、リリーナ…とやらの女は食うとらん』
「信用出来ん!!証拠を出すのじゃ!!」
ええい…忌々しい声め…。このままだと埒が明かぬぞ…。
しかし、この赤竜も無視することも出来ぬし…どうしたものか…。
『真実を確かめたければ前へ進むが良い。ただし、その赤竜を置いてな』
「なにィ…!?」
『余は赤竜などに興味が無い。あるのはただの女子の肉のみよ…』
「この変態め…主は何が望みじゃ!!人の絶滅か!?世界征服か!?答えてみせい!!」
妾は初めから気になっておった。
何故マンティコアという魔物は人間を喰らう?それに何故女子ばかりを付け狙うのか…妾にはそれが分からない。
『そんなものに興味などない。ただの自然の摂理ぞ』
「なぬ…?」
摂理、じゃと?
『弱きものは強きものに食われ、強きものは弱きものの血肉となる。人間共も同じだろう…。家畜を育て、血肉を喰らい、今日という日を生きる。腹が減るから肉を食う…ただそれだけの事よ』
「なら何故!!何故女ばかり狙いおる!!」
『深い理由などない。肉が男より柔らかい…それだけの事よ』
「そんな…くだらん理由で妾の…リリーナに手をかけたというのか!!」
許さん…許さんぞ…!!
自然の摂理だかどうだか知らぬ…もしかしたらこやつの言ってることが正しい…そうだろう。
だが、そんな理由で妾のたった一人の妹に手を掛けるなど…断じて許さぬ!!
『しかしそれが事実だ』
「だとしても許さんぞ!!待っとれ!!今行ってやるからのぅ!!」
…赤竜、悪いが最後の我儘じゃ。
妾は行かねばならぬ。愛しの妹を救うべく為に、最後の会話が喧嘩で終わっとるんで謝る為に…。
いろいろ主には面倒を掛けおったな。だが初めてじゃ、妾の話をしっかり最後まで聞いてくれる奴が…お主で初めてなのじゃ。
赤竜ラグナロク。…また、来世で会おうぞ。
・・・
・・
・
その頃、アンビラス王国にて。
「…そなたがヒロキ=サトーと呼ばれとる転生者であるか」
「はい。いかにも…」
ここはアンビラス王国の中央に位置する王城内・玉座の間。
二人の可愛い娘が同時に行方を晦まし、不安で仕方ないのかやつれている国王・ワジール=アンビラスは目の前にいる黒髪の男と対面し、目を瞑りながら呟いた。
黒髪の男の名はヒロキ=サトー。前世は特に冴えない人生を送ってきた転生者であるが、赤竜と同じように記憶が抹消され、赤ん坊からこの世界にやってきた転生者の一人である。
「先程のデスワームの件、見事であった」
「恐縮至極にございます。私はただ、普通の魔法を放っただけです」
転生した影響なのか、特徴のない顔立ちでありながらも何か惹かれるようなオーラを放っている彼はワジールの言葉に頭を下げるだけでそれ以上のことは言わなかった。
一見普通の人間に見えるサトーであるが、悲しきことか人間誰しも何かしらの長所があり、同時に短所がある…当然サトーもそれに含まれており、さらに言えばその短所を自覚していない。
「しかし国王様。私めはただ貧弱な魔法でデスワームの急所を撃ち抜いただけに過ぎません。お言葉ですが、あまり私を過大評価しないで頂ければ助かりますが…」
その短所とは…一言で言うのであれは無自覚、ということだ。
この際はっきり言うがサトーは生まれながらにして異常とも呼べるほどの強大であり、巨大な魔力を持つイレギュラー。
しかしサトーは自分をただの一般人という認識だけあってその異常さに気が付いていない。
今回の件は大砲やバリスタ、投擲機や複合魔法によって弱ったデスワームにトドメを刺した、という解釈をしているが実際はそうでは無い。
その真相はまだまだ元気だったデスワームを一撃で切り刻み、倒してしまった。それでもサトーは異常とも呼べる鈍感さで自身が弱いと勘違いし、タナカのような自信溢れる人生を送れていなかった。
「そ、そうであるか…」
結果、ワジールはデスワームが亡骸となって再び出現しないことに対する安堵と、無自覚で異常な強さを誇るサトーに対する不安の両立に立たされ、なんとも言えないような複雑な心情に居た。
だが無自覚だとしてもサトーは決して人間相手には傷付けない。そこだけは唯一の救いだと言っても過言ではないだろう。
しかし、その異常なまでの強さを持ってるに変わりないため、ワジールは心の中で不安のようなモヤモヤした気持ちが募るばかりだった。
「ではサトーよ。汝のその…力を見込んで頼みがある」
「はい、なんでしょう」
本人から過大評価しないで欲しいと言われ、何を言えばいいのか分からないワジールは一旦わざとらしく咳込むと、一呼吸置いてからあるものを命じた。
「我の娘達…第一王女シャンティアと第二王女リリーナの捜索を願いたい」
「その件なんですが…既に検討が着いています」
「なぬ!?本当か!?」
いざ娘のことになると慌ただしく立ち上がり、慣れない大声で叫ぶと唾が喉に詰まったのか、ゴホゴホと咳き込む。
その場にいた貴族や護衛用の兵士、また隣にいた大臣や王妃も心配そうに見つめる中、サトーはただ一人呟くように口を開く。
「先程からサーチを展開させていただいておりますが…生体反応を検知しました。…ここから西にある洞窟から二つ反応が…」
「洞窟…?まさかそこに…」
「…はい。何やら強力な反応が二つ確認出来ます。ひとつは恐らくマンティコア、もう片方は…分かりません。初めて見る反応です」
「お、おぉ…!」
片方の謎の反応に首を傾げるサトーだったが、ワジールはそんなこと眼中になく、ここ数週間手掛かりがなかった痕跡がついに発見されたことに喜び、希望の光を掴んだような表情を見せる。
対するサトーはどうしても片方の反応について解析しようとするが、情報が読み込めずに断念。納得しないまま出発するのが危険だと判断した彼はワジールにある申し出を所望した。
「ワジール国王様。出来ればでいいのですが、護衛三人を選抜してもらい、同行の許可を得たいのですが…」
「勿論いいが…何故三人?人数は多いに越したことはなかろう」
「いえ、洞窟は未知です。ここで戦力を一点に集中させ、突っ込ませるのは無謀であります。…現に、私めの実力も低いわけですし、偵察を兼ねて潜り込めば問題は無いかと…」
「な、なるほど…」
的確な提案に返す言葉が見つからず、少し引いてしまったワジール。だが、彼の言っていることは確かだ。
団結した人間は強い。しかしだからといって何でもかんでもそれが通じるような甘い世界ではない。
なので戦力を分散し、温存させる名目で少数編成で未知の洞窟を進む方が今後の出来事でも対応が可能である。
「よしわかった。セバスチャン」
「はっ。ここに」
ワジールがパンパンと二回手を叩くと音もなく黒服を着込んだ初老の男性がサトーの隣に現れ、頭を下げた。
この初老の男性がシャンティアとリリーナ専属の執事なのだろう。…表情こそは真剣そのものだが何か言いたそうに目をピクピクさせてるのは気にしないでおこう。
「選抜はお前に任せる。サトー殿をできる限りサポートするのだ」
「承知致しました。それではサトーさん、こちらに…」
「失礼致しました。国王陛下様…」
セバスチャンの案内により玉座の間を後にするサトー。
正面にある巨大な扉が閉まると国王はへなぁっと力なく座り込み、大きなため息を着く。
その息はシャンティアとリリーナの痕跡が発見された安心感というのもあるが…なによりワジールが感じていたものはそれをも凌駕する程のものだった。
「…無自覚とは怖いな。何故あそこまで謙遜する?」
ワジールが感じていたもの、それはサトーが無意識に放っていたプレッシャーについてだ。
ただ普通に話していたサトーだったが、無意識に、そして無自覚で体内にある異常とまで言えるほどの魔力やオーラを放ち、この空気を圧迫していた。
強大な力とはよく人を魅惑させると言うが、同時にそれは人格をも崩壊させると言う。今になってワジールはより深くわかったような…そんな気がした。




