02:狩り特訓だ!!精一杯頑張るぜ!!
この世界に生まれて早一ヶ月…辺り。
当然野生の世界に時計というものなんて存在しないのであってるかはどうかなんて俺に聞かれても分からない。
でも自分の体はまだ幼体であるものの確実に成長しているため、間違いなく一か月面い経過してるんだろう。多分。
しかしまぁ時間とは時に成長を感じられるように幸せなことだってあるし、逆に言えば苦しくて残念なことだってあるもんだな…。
今現在、俺は可愛い六匹の兄弟と共に狩りの練習を行っているところだ。
幼体がそんなことしても大丈夫なのか?なんて疑問もあるだろうが、安心してほしい…俺たちの母ちゃんがその練習に付き合ってくれてるのだ!
ここ一か月、生きて分かったんだが…どうもドラゴンという生物は比較的どの動物、魔物より知能が高いとされている…みたいだ。
家族の面倒を見るのは生き物としての本能というのだろうか、そうとして認識していたんだが…人間などに襲われないように敢えて標高の高い場所に巣を作ったり、こうやって狩りの練習の時は見守ってくれたりと、そう思えばいかに知能があるのか分かりやすいだろう。
そこはあんまり人間と変わりないんだな…。生まれた直後、兄妹たちで殺し合い、生き残ったものだけが面倒を見てもらう…なんてものを想像してたが、バカバカしいな俺。
さて、少しばかりドラゴンについて話したが…実を言うとこの狩りを称した特訓は最近始まったことで長いこと続けているわけではない。
つまりド素人。平たく言えば下手くそである。
といってもそんなに無差別で特訓を行っているというわけではなく…最初はリスや小鳥といった小動物から。慣れたら泳ぎの練習を兼ねて魚の捕獲…それが出来たらと小型の魔物を…といった具合でちゃんとした段取りが用意されている。
そして今回の獲物は狼型の魔物。
もう一回繰り返して言うが、幼体ドラゴンが狼相手にしてもいいのか?と疑問に思うが…これもどうってこともない。
なんだってドラゴンだ。幼体とはいえ軽く二メートル超えているし、目の前にいる狼型の魔物なんて子犬のようなもんだ。
最初は「やんのかテメェ」と言わんばかりに牙を剥きだしては威嚇していたんだが…不思議と平常心が乱れず、冷静に対処できた。
どうも体だけでなく、精神まで変わってしまったらしい。…多分山月記もこんな感じだったんだろうな。
まぁそれはさておき…挨拶されたのでお返ししようと大きく呼吸をし、体内に入った空気を精一杯吐き出してみたら…思ったより大きな咆哮が上がった。
自分でもちょっとビビったが、相手である狼型の魔物も相当効いたようでさっきの威勢はどこへやら…尻尾を巻いて逃げ出してしまった。
本能で危険と感じたのだろうが、ここは自然界…やるかやられるかの世界なので俺も容赦なんてしない。
よく言うだろ?ほらあれだあれ…えっと…。獅子は兎相手でも全力を尽くすってな。
なので俺はそれに習って全力を出すことにしようと思い切って地面を蹴って駆け出すと逃げていた狼型の魔物に追いつき、そのまま口を開いて尻にかぶりついた!
『ぎゃいぃ!!』
狼や犬特有の甲高い悲鳴が聞こえてくると狼は転倒!それにつられて俺もバランスを崩して大きく転がった!
_あぁぁれぇぇ!!
…人間の頃なら間違いなくそんな情けない悲鳴でも上がっているんだろう。この時ばかりはドラゴンでよかったと、心底そう思った。
だがこの転倒が逆に功を期したようで、蛇のように狼の体に巻き付いては勢いも余ってギュウッと締め上げ、そのまま転がり続けては巨大な木に激突した。
_ゴツンッ!!
_いってぇ!!!
真正面からごっつんこした俺はピヨピヨと上空に飛んでいるヒヨコ(のようなものが見えた気がする)を目で追ってはハッと我に返って絡み付いていた狼に目を向けた。
…口を開いたまま死んでいる。死因はせいぜい窒息死によるものだろうな。
しかし…少しハプニングがあったものの、初めての小型魔物による狩りは成功した。それだけでも謎の達成感がある。
さてと、いつまでもその達成感とやらに浸っているわけにもいかないので…野生の世界といっても俺の意志っつーもんがあるんで、名もない狼さんに感謝を述べてから持っていこう。
ありがとう、狼さん。お前の分まで、俺は精一杯生きるからな…。
・・・
・・
・
後日談として述べるが、無事?狩りを終えた俺は母ちゃんにペロペロと優しく舐められたものの、三男、三女、四男がやんちゃようでスライムを面白おかしく追っかけ回していたらしく、こっぴどく怒鳴られた…ように見えたのは覚えている。
ちなみに、父ちゃんドラゴンは俺の体格を超える大型の狼を夕飯として持ってきた。…なんかこれを見てると自分が如何に小さい存在なのか思い知らされたよ。
あ、狼さんはおいしかったです。硬くて癖があるものの、普通に食える。
…一人占めするのもあれなので、少しだけだが弟妹たちに分けてやった。喜んでくれたようで尻尾を振っていたのはいい思い出だ。