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赤竜転生録  作者: 42神 零
アンデルミナ平原編
16/37

15:空を焦がす炎

 空腹状態。


 それはこの世に生きる生物全てが持つ食欲が足りていない状態のことを指す言葉。


 例えそれがドラゴンだろうと人間だろうと、姿かたち…そして種族関係なく訪れるであろうある意味苦しい時間帯。


 人間は通常、断食すると一週間…断水の場合は三日が限界だとされ、それ以降は体が動かないとされるが…ドラゴンの場合はどうなのか、研究が進んでいないため限界など分からない。


 分からないが、この赤竜はここ一週間まともな食事をとっておらず、故に少し痩せ細っては思うように力が出ないようだ…。


 それでも彼は生き残るためにと苦しみながらも口に合わないであろう木の実を採取しては見境なく食していた。


 味は最悪だったのだろう…口にした瞬間、彼は吐き出しそうになったものの何とか飲み込み、一時的だが飢えを何とか凌ぎ…ここ一週間、そんな苦しい環境下の中で過ごしていた。


 だが、あくまでもそれは一時的にしか過ぎない。はっきり言うが、こんなんで腹が満たされるわけがない。


 現に彼は空腹を極め、極限状態の最中にいる。腹が減っては戦は出来ぬ、とはよく言ったものだろう。


 現在の赤竜の事情など知らず、対するヒュドラは食えるもん粗方食い尽くしたためなのか、どこか生き生きとしている。


 そんなヒュドラを見て赤竜はどこか許さないようで、殺気はあるものの腹が減ってそれどころではない。



 _何か、食えるものを口に入れなければ…。



 そう必死なのか、血を流しながらも同時に透明の唾液をそこら中に撒き散らし、腹の音を鳴らしながら周囲を見回した…


 …その直後、大きく投げ出されてしまい、そのまま湖の中へと頭を突っ込み、動かなくなった。



「死んだ…?」



 草むらで両者の戦いを見届ける二人のうち、一人であるジンがすかさずサーチで赤竜の状態を確認する。


 生体反応はある。ただ空腹のあまりか、最早まともに動けないのが現状でほぼ決着は着いたように思えた。


 水面に顔を突っ込んだまま動かない赤竜にトドメを刺そうと、ヒュドラは周りに生えている木々を薙ぎ倒しながら前へと這いずり進む。


 距離がある程度縮まると、ヒュドラの真ん中の首が上に上がり大きく口を開けると顎の可動範囲を無視して広げ、そのまま前へ前へとさらに距離を詰め始めた。


 どうやらこのまま赤竜を丸呑みにする魂胆らしい。いくら蛇の外見をしているとはいえ、そんなに顎を無理矢理広げる姿はグロテスクとしか言いようがない。



「………」


「レイチェルさん…あのドラゴン飲み込まれますよ…」



 展開の先が読めたジンは冷や汗をかき、背後にいるレイチェルに声を掛けるが特に何も話さず、ただじっと見つめるだけで動こうとしない。


 レイチェルは本音を言うとあの赤竜を助けたくて仕方がない。種族は違えど一度あの赤竜に救われた身、故になにか恩返しがしたくてたまらない。


 だが、彼らは自然に住まう生物。決して人間が勝手に割り込んでいい世界などではない。それを理解しているからこそ前へと踏み出せずにいた。


 弱いものが強いものに食われ、強いものが弱いものを食らう。馬鹿でも分かるようなルール、それが自然界に生きる生物たちに課せられた唯一の掟である。


 それ以上でもそれ以下でもない。そもそも赤竜より格上の存在であるヒュドラに食われる展開など最初から決められたことなのかもしれない…。





 だが、それはあくまで理論上の話だけであって現実的な話ではない。


 現実と理論は全くもって異なる。例えそれが強者の上下関係が逆転する事自体、自然界では珍しくない光景である。





 口を開けたヒュドラの頭部が…吹き飛んだ。


 一瞬の出来事で何が起きたのか理解できず、周囲の首が何事かと困惑したような様子を見せるが…原因は目の前にいる赤竜だと確信し、視線を正面に向けた。


 直後、尻尾が勢いよく横切り、頭のいくつかを纏めて吹き飛ばした。この時余った首は原因はこれだと確信から確定に変わり、攻撃態勢に入った。


 だがタイミングを見計らっているのか、それともただのまぐれなのか。赤竜はその噛みつきを回避するように湖の中へと潜り込み、尻尾の先端まで水面に吸い込まれると静寂が訪れた。


 さっきまでの戦いが嘘のように静まり返り、取り残されたヒュドラは目を丸くして動かなくなった。


 困惑…というのもあるが、何か本能的に危険だと感じ取ったのか変に動かずただじっと止まって湖に入り込まないまま固まった。


 だがヒュドラが止まっても時間は止まることなどない。数秒後、水中の中へと潜り込んでいた赤竜はそのまま顔を出し、上半身を剥き出しにすると身震いをして付着した水滴を弾き飛ばした。


 外見など特に変わった様子は無いものの、ちょっとした変化が確認出来た。彼の口元をよく見ると、なんと少し大きめの鮭がビチビチと跳ねているではないか。


 どうやらしばらく水面に顔を突っ込ませていたのはたまたま湖に通り掛かった鮭を見つけては食っていたのだ。



 _よぉ、待たせたな…。



 そう言わんばかりに喉を低く唸らせる赤竜は銜えていた大きめの鮭をガブリと食いちぎり、ぎっしりと身が引き締まった肉を食らうとペッと器用に骨を吐き出し、口の中を燃やす。


 食事をとる前のブレスも強大だったが、腹が満たされたことにより更に火力が上がっているのか。少し遠くにいた二人でも熱によって苦虫を噛み潰したような表情を見せながらじっと見つめ続ける。


 未成体とはいえ、その戦力は既に主であるヒュドラと同等…いや上回るような実力まで昇り詰めた赤竜に対し、ヒュドラは何を考えているのだろうか、一旦動きを止めると思考を捨て、口を大きく開くとこれまで比にならない程の大音量で咆哮を上げた。


 彼はここの主としてのプライドがあるのか、逃げという選択肢を選ばず、目の前にいるものがただの餌ではなく、自身を脅かす敵であると判断し戦う事を選択したようだ。


 互いに睨み合う中、第三ラウンドのゴングを鳴らしたのはヒュドラではなく、かといって赤竜でもなく、両者が揃いに揃って激しくぶつかり合った。


 そこからは人間が入っていいような領域ではないということが嫌でも分かってしまうだろう…それほどの激闘という言葉以外何もなく、噛みつき、切り裂き、そして薙ぎ倒すの攻防が展開された。


 ヒュドラは一回り大きい赤竜を押しつぶそうと襲い掛かる反面、赤竜は腹が満たされた為か、先程より力強く動けるようになり、絡みついた首を引き千切っては離れ、再び攻撃を仕掛けた。



「っ…!」



 そんな激闘区の前に、ジンはサーチで何かを感じたようで、背後にいたレイチェル振り向き、声を荒らげた。



「レイチェルさん!!ここを離れますよ!!」


「どうした、ジン」


「あの赤竜から強大な灼熱エネルギーを感知しました…!!それも時間が経つに連れて増幅し続けています…このままだとここら一帯吹き飛びます!!」


「何だと…?まさか赤竜、戦いながら体内に熱を…?」



 焦りを隠せないでいるジンに対し、レイチェルは冷静に双眼鏡を取り出して赤竜の喉元を眺め、その様子を観察していた。


 最初は真っ赤に燃えていた炎だったが、高熱を帯びているためか一瞬だけだが青白く変色した様子が確認出来た。


 どうやらこのままトドメをさすつもりらしい。だがそれを知っての攻撃なのか、ヒュドラは絡み付くとそのまま赤竜を吹き飛ばし、距離が離れたところで大きく息を吸い込み始める。


 何をしてくるのか分からない赤竜は本能で危険と感じ、羽ばたくと宙に浮かびそのまま高熱のブレスを発射。


 対するヒュドラも十分に息を吸い込んだ後、思いっきり体内にある水分を放出させ、毒液より少し太めの水圧ブレスを放った。


 結果として巨大な火球と何本も発射された水圧ブレスが激突し、相殺。間からは元素反応により水蒸気が発生し、白い煙の爆発が発生し、周囲を熱と水気を包み込んだ。


 二種のブレスの威力は絶大で、周囲にあった木々を根っこごと吹き飛ばし、衝撃波が二人に襲いかかる。



「うわあぁっ!!」


「ぐっ…!!なんて威力だ…!!」



 攻撃を直撃していないどころか余波だけで強大な衝撃に、身を屈んで吹き飛ばされないようにする二人。


 出来ることは戦いの結末を見届けるだけで他のことなど出来るはずもなく…



「レイチェルさぁん!!」


「ここは一旦退く!!これ以上はいくら命があろうと足りやしない…!!ジン、テレポーテーションは使えるか!?」


「はいぃ!!」



 これ以上の観察は危険と判断したレイチェルはジンにテレポーテーションを促し、焦りながらもジンは地面に手を当てると倒れた女の子を巻き込む形で水色の魔法陣を展開すると、そのまま詠唱を続けた。



「テレポーテーション!!」



 詠唱を終えたジンは残された魔力を振り絞り、大きな声で魔法の名を叫んだ瞬間、風に連れ去られたかのように静かに消え、遠く離れた場所へと転移を完了した。


 そんな二人を知らずに、両者はブレスによって生まれた水蒸気の煙の中で争い、赤竜が羽ばたいてヒュドラの太い胴体を鷲掴みにすると天へと連れ去っていく。


 空中では何も出来ないヒュドラは反撃しようと試みるも攻撃が届かず、対する赤竜はそのまま力一杯に振り回すとヒュドラを天へと放り投げた。


 少し浮かんだヒュドラだったが、瞬く間に地面へと引き寄せられるように重力に任せて落下してくるが…ただの転落で倒すなどと考えていない赤竜は溜まりに溜まった灼熱の空気を喉元に燃やし続け、ヒュドラより早く地上へ降りるとそのまま脚を開いては一気に放出する…!


 赤竜自身さえ飲み込むであろう超巨大な火炎の海は空から落下してくるヒュドラを丸ごと焼き尽くし…






















 …遠くに待機していた馬車に乗って退避していたレイチェルとジン、そして馬車の運転士はこの後の出来事に息を揃えてこう述べた。


 _空が焼き焦げた、と。

今回紹介した魔法紹介





・テレポーテーション

瞬間移動や転移に扱われる空間転移系の魔法。詠唱にはやや時間が掛かるが、極めると戦闘にとって大いに有利になるため重宝されている。

魔力の消費量に応じて転移可能な範囲を広めたりする事が可能で、これを利用して他人を同じ場所へと飛ばすことも出来る。





・???

赤竜が死の間際に放った、空を焦がした炎。それが魔法なのかなんなのか、理解出来ないがここでは仮に魔法という訂で話していこう。

その威力は未成体でありながらもヒュドラさえ焼き付くし、消滅させるという異常とまで呼べる炎を放つブレス。


ただしそれに合うようなデメリットがしばらくブレスを扱えないというもの。超高熱のブレスなので喉が焼き切られて呼吸が出来なくなり、窒息する可能性だってあるためあまり使用しないだろう…。

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