11:転生者の末路
※人によっては不快なシーンがあります。特に今回はかなりの胸糞悪い場面に加え、グロテスク、ショッキングなシーン、自己解釈が強めです。
それでもいいという方のみ、ご覧くださいませ…
赤竜がまだ森の中腹で探索している頃の話…。
…をしたいのだが、その前に少し田中と呼ばれている転生者について話しておこう。
彼はよくあるような交通事故によって死んでしまい、神のお詫び(という名の言い逃れ)により、身体能力最強、不死の力、魔力無限に全属性というよくありがちなステータスで第二の人生を開始した。
最初は実に良いスタートだと、自身でもそう感じたのだろう。何せ助けた女の子たち全員が彼に惚れ、魔物も一掃し、金をぼろ儲けしては遊びの日々を送っていた。
正直に言おう、彼は強い。それもかなり…いや、少なからず人類代表と呼ばれる程の実力はある。
何もかもが順調だった。欲しいものは何でも手に入る…言うなれば人生の勝ち組が謳歌する楽な人生だった。
「あ……ぁあ…」
…だがそれも、今日で…それも何の前兆もなく終わりを迎える。
今の彼は主討伐の為にと、出て馬車を使わず、面倒という理由で目的地である森林中央の湖・ルル湖へと転移魔法で移動する事となったが…これが悲劇の始まりだった。
あの時、機嫌が悪かった為なのか判断が鈍ってしまい、転移完了ポイントを怠り…その結果ルル湖のど真ん中に入ってしまった。
見ず知らずの人間に反論され、苛立っているのに加え、さらに湖の中へと入った彼の怒りは有頂天寸前のところで…最初の犠牲者が現れた。
それは同行していた女性のうちの一人である魔法使いの少女。着水した瞬間から姿を見せず、どこだどこだと探している真っ最中に…彼女は水面から顔を出した。
だがどこか慌てたような表情でジタバタと腕を振り続けては「助けて!!」と助けを乞うていた。
この時点で勘のいい人間はまず異常事態だと警戒するが、残念なことに敗北を知らない田中は呑気に「溺れているだけか」と認識し、気怠そうに泳いでは魔法使いに近づくが…ここである異変に気付く。
…何か生臭い血の匂いがする。
そう気付いた頃には、魔法使いの周辺が赤く染まり始め…ついには再び湖の中へと潜り込んだ。
いや、少し訂正しよう。潜り込んだ、というより…何者かに引きずり込まれた、という表現の方が正しいのだろう。
突然と、再び沈んだ魔法使いに困惑する三人は状況が読み込めず、ぷかぷかと水面に浮いたまま硬直する。
ひと時の不気味な静寂の中…少し離れたところでプカりと何かが水面に浮かびあがり、ハッと我に返ると名を呼んで振り返るが…
そこにあったのは魔法使いの姿ではなく、特徴的な帽子を被ったままの生首死体が浮かんでいた。
ここで三人、状況に着いて行けずに再び硬直するが…その直後に主であろう緑黒くて太く、長い物体が横切ると生首を銜えたまま水中にへと吸い込まれていった。
…この時点で、違和感から確信と危機に変換され、やっと攻撃されていることに気が付いた。
そこからの行動は早かった。三人のうち、二人はこの湖自体が危険だと感じて岸まで泳ぎ切っては地上に上がり、重い足取りで逃げようと背を向ける。
田中は呆然としていた。先程まで一緒にいた魔法使いが瞬く間に死んでしまった事実に受け入れられないと思考がいっぱいで逃げるどころの話ではないようだった。
だが主と思わしき魔物はそんなこと知ったこっちゃないと二度目の行動に入る。今度は水面から顔を出すと大きな口を開いては首を伸ばして勢いよく飛び出した。
主の正体とは…一言で片づけると巨大な蛇だった。
ドス黒くなった緑の鱗に人間の肌のようなヌメヌメした皮。真っすぐと伸びた細い瞳孔な黄色い目玉に、口は噛み砕くというより飲み込むことに特化したのであろう二本の細い牙が剥き出しにしている。
そんな人間のサイズを優に超す大蛇は田中を無視しては逃げる女性のうちの一人であろう格闘家の女に狙いを定め、大きく開いた口を地面ごと抉ってはそのまま飲み込んだ。
最期の言葉も許されず、飲み込まれた格闘家はそのまま…生きたまま大蛇の喉元を通り、下半身があるであろう湖の底へと吸い込まれるように落ちていった。
瞬く間に二人目の犠牲者を出したところで田中は我に返ると逃げるという選択肢ではなく、そのまま戦うことを選び、手をかざしては魔力を集中させると熱が宿った塊がどこからともなく出現する。
「アボラオン!!」
灼熱系の魔法なのだろう、真っ直ぐと飛んで行った炎の塊は大蛇の顔面に直撃すると大きな爆発を起こし、オレンジ色と黒色の煙が舞った。
攻撃を諸に受けた大蛇は甲高い咆哮を上げるとよろめき、そのまま湖の中へと潜り込んで行く。
だが油断しない田中はまだ死んでないことに気が付き、湖の真ん中から疾風系の魔法で体を宙に舞い上がらせて、そのまま左手から紫色の雷を纏い始め、下へと下ろすような動作をする。
「ボルテオン!!」
続く二連撃。今度は合図とともに雷雲が展開され、そこから紫色の雷が湖を襲う。
水は電気を通すため直撃した瞬間、湖一面に電撃が走り、水中にいるであろう大蛇にダメージを与える。
死んだかどうかは水中にいるため確信出来ない状況の中、田中は何度も何度もボルテオンを発動させては湖に、主に落雷を起こし続けた。
(ふざけるな、ふざけるな!!俺はこんな所で死んでいい人間じゃない!!神の手違いに巻き込まれた被害者なんだぞ!!)
死んでいった仲間の為ではなく、自分自身が助かるために…。ギルド内で起こした余裕の態度はどこへやら、今となっては苦虫を潰したような嫌な顔に様変わりになっている。
いくら底が尽かない魔力があろうとも、いくら強靭な肉体があろうとも、いくら不死の能力があろうとも…田中も山田と同じように恐怖心には打ち勝てなった。
その結果、ボルテオンを何度も何度も撃ち落とすという雑な戦法になり、周囲の状況など見れておらず…それが仇となってしまう。
後ろから水しぶきの音が聞こえてきた。
田中は怒りと焦りで判断が鈍り、ハッと我に返って振り向くが時既に遅し。
現れた大蛇の胴体が空中に浮かんでる彼を巨体に似合わぬムチのようなしなやかな動きで弾き飛ばした。
「がはっ…!!」
背後からの思わぬ奇襲に対応できず、再び湖へと落ちた田中は体勢を立て直そうと身を低くするが…もう一本の首がぬるりと伸びてはそのまま容赦なく締め上げた。
一体だけでなく、もう一体いたことなど予測していなかった田中は締め上げられて身が縮こもって動きを封じられ、自由が効かない状態となり、メリメリと骨が軋む生々しい音の中で悲鳴を上げる。
いくら不死とはいえ痛覚そのものはちゃんと機能しているようで、ただただ骨が折れる苦しみを味わい続ける田中は死んでたまるかと反撃を試みるが、先程撃退したであろう頭が焦げた大蛇が絡みつくように巻き付いて強度を増し、最早脱出など不可能という領域まで事が展開した。
「お、おい…!!助け、ろ…!!早、く…!!」
僅かに開いた隙間に手を伸ばし、地上でへたり込んでいる鎧を纏った女に助けを乞うが、女は腰を抜かしているのか動こうとしない。
ただただ涙目で見つめ、息苦しいのかうまく呼吸が出来ない様子で呆然としていた時に大蛇の一匹と目が合った瞬間、我に返って震えながら立ち上がり、そのまま背を向けて逃げてしまった。
「待て、よ…!!なに、逃げて…んだよ…!!ふざけ_」
そんな女の姿を見た田中は眉を寄せて怒りを露わにするが、それも途中で途切れてしまった。
代わりに彼の体内からベキッと何かがへし折れるような音が聞こえ、田中の胴体は文字通り、くの字にへし折れた。
あまりの痛みに悶絶する田中。だが背中をへし折られた為か声など出ず、代わりに口からドロドロの真っ赤な血が流れ落ちる。
「あ……ぁあ…」
血が溜まって上手く喋れない田中に対し、大蛇は慈悲などなく…締め付けながらも口を開き、そのまま田中を飲み込み始めた。
最初は頭から、そこからゆっくり時間を掛けて田中の体を体内へと引きずり込もうとする。
ここで田中は走馬灯の最中で後悔した。あの時山田太郎が言っていた「自分の思い通りにならない」というのはこの事だと、初めて理解した。
だがもう遅い。後悔したその時は既に何もかも手遅れだった。
脳裏に走る走馬灯の中、田中は何を思ったのだろう。信用していた女には裏切られ、違法を繰り返してまでランクと金を稼ぎ、ついにはこうやって命を落としてしまう。
いや、死にはしないだろう。だが死んだ方がマシだと思うような地獄がこの先に待っている。
何せ彼は不死の能力を持っている。故に飲み込まれた後は胃液に溶かされ続けるという生き地獄を経験するということとなる。
抵抗したい。だが背骨が折れてしまって動けない。
再生はする。だが完治した頃には腹の中。
死にはしない。だがその先にあるのは生き地獄のみ。
故に、田中が最期に見えたのは前世冴えない自分を育ててくれた両親の姿だった。
「お母さ_」
…その言葉を最期に、田中は完全に飲み込まれてしまった。
残ったのは何も無く、ただあるのは腹を満たして満足した大蛇の姿のみ…。
今回登場した魔法紹介
・アグラオン
灼熱属性系の魔法で最上級に当たる灼熱魔法。大きな火球…かと思うが、ありったけの熱を一点に集中しているため、アグ、アグラと比べて小さめ。
だが威力、発射して着弾するまでの弾速は桁外れで、主に広範囲攻撃を使う際に重宝される。
・ボルテオン
電撃属性系の魔法で最上級に当たる電撃魔法。対象の上空に雷雲を展開させ、そこから紫色の巨大な雷を落とす。
特に冷水属性系の魔物に強く、ボルテオンの威力であれば消し炭になるとされているものの、熱が直撃すると過負荷反応により大爆発を起こすという現象も見られる。




