10:魔物がいねぇ!!明らかに異変なので解決しに行きます!!
おはようございます。この平原にやって来て早一週間が経過しました。
…突然ですが、私は非常に不機嫌でございます。それはですね…
ここ一週間魔物の姿が見えねええぇぇぇぇ!!腹減ったぞこんちくしょうめがああぁぁぁぁぁ!!
…はい。あのコカトリス戦を最後に、この地域にいた魔物と動物らが一目散に逃げたようで、何があったのか全然分かりません。
いやね、こっちも困っちゃうんだよ。なんにせよ食えるものが肉ぐらいしかないからさ。
この前試しに木の実食ったけど…うん、食えたもんじゃない。けど生き残るためならと無理して食ってやったわ。
でもよぉ…やーっぱり肉が食いたい!ということで明らかにこの異常事態の解明をしようかと動くことにした。
当然この問題は近くに王国があるのかどうか知らねぇが、人間たちにも聞き届いているようでな。これまでに何人かの冒険者が無人の森を入っていくところまでは見たんだが…それを最後に誰も帰ってこなかったな。
つーことは、だ。この森の奥に何かがいる!…多分だけど。いや、絶対いる!
よし、そうと決まれば早速行動だ。人間がいないこの早朝を利用してとっとと原因調べて何とかしてやらぁ。
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…と、気合いと意気込みはよかったんだが…どこから何を探せばいいのかわからなかった。
とりあえず今はと魔物でも動物でもどちらでもいいから匂いを探ってクンクンと鼻を利かせている。
…言っとくが犬じゃねぇからな?ドラゴンだってな、鼻ぐらい効くことだってあるんだからな?
しっかし困ったなぁ。だーれもいないこの森ン中で本当に何かがいるのか?と自分で疑問を持ち始めた来たんだけど。
いやなに、すっげぇ静かなの。聞こえてくるのは風によって揺られた木々のざわめきぐらいで他はなーんにも聞こえてこない。
手掛かりはなしか…。人間とかなら下調べぐらいしてからクエストとかに出てるんだろう、そういう所ら辺は考えてなかったな。
俺のスタンスは思い立ったら即行動。いい案が浮かんだとしてもすぐに行動へ移さないと意味が無いだろ?
…まぁ、今回みたいに全て早く行動すりゃいいってわけじゃねぇけど。痛いほどよーく理解出来た。
『…?』
などと思っていたら、俺は歩いていた地面に凹みがあることに気が付き、思わず地面を見下ろした。
つか…これ凹みじゃねぇ。こりゃ…足跡?何かが這いずったような、そんな跡が見える。
確かこの前、それに似たような音を聞いたな。姿は見えなかったものの、巨大で何かが這いずるような音を…。
…まさか原因そいつなんじゃね?この痕跡もまだ新しいものらしく、微かではあるが爬虫類独特の匂いが漂ってやがる。
それに、なんだ?奇妙なことなんだが同じ痕跡からちょっと変わった匂いもするな…。生臭いものもあれば甘ったるい匂い…左側は嗅いだことのない獣の匂いがする。
…おい、これって一匹だけじゃないとかそんなオチじゃないだろうな。おまけに人間が帰ってこれないとなると話し合いの通じるような奴じゃないだろうし…困ったな。
が、如何なる理由であろうとも確かめる必要があるな。俺の食料問題の解決と…おまけ程度だが人間様の手伝いでもしてやるか。
方角は…ふむ、こっちだな。行ってみよう。
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一方、ここから約数十キロ先にあるアグザリオ王国といえば…一言でいえば問題を抱えていた。
問題点は大きく分けて二つ。アンデルミナ平原の森林地帯に生息する主が目を覚ましたという事と、赤いワイバーン種のドラゴンが目撃されたというものだ。
前者はともかく、後者の件については信じる者など数少ないものの、第一目撃者がかのアグザリオのお姫様だったため、信じる他なかった。
そこからはアグザリオ中に点在するギルドは大騒ぎ。同じ時期で新種のドラゴンの発見と主の行動開始により、アンデルミナ平原を危険地区と認定し、ランク5以下の冒険者の立ち入りを禁止することとなった。
もう既に何人かの上級冒険者パーティーが調査として入り込んだものの、出発を最後にその姿を見た者はいないという。
その結果が立て続けに起こるのだから行く気になれるような猛者などいないだろう…あるパーティーを除いて。
「主?なんだそりゃ」
そのパーティーとは男性一人、女性三人という男の誰もが夢見るようなハーレムパーティーだった。
リーダーは金髪が目立つ男性なのだろう、様々な女性に纏わりついている男は主の名を聞き付け、急遽このギルドにやってきたのだろう。
確かに彼の実力は本物らしく、ランク999の証なのだろう虹色に輝くギルドカードを見せつけるように所持している。
「…おい、なんだあのガキは?」
「知らねぇのか?あいつはシロウ=タナカ。ギルドに入って僅か一か月足らずで999に昇り詰めた男だぞ」
「は?一か月?不正でもしてるんじゃねぇか?」
「そんな噂だが…それ以前に性格が問題で有名だ」
「問題?例えばどんな?」
「常に自分が正しいと思っている。おっさん・ブス禁止。自己中心的で戦いなんて勝てればなんでもいいって考えるやべぇ奴」
「うわっ、関わりたくねぇ…」
「だろうな。俺も無理だわ、そういうやつ」
だが、聞こえてくるのは超上級冒険者がやってきたことによる歓喜ではなく…あるのは暴言のみだった。
先程の二人組だけではない。あっちもこっちも、見渡す限り様々な人間が似たようなことを話し続け、ついにはコソコソ話から彼に関する悪い噂を題材とした雑談にへと変化する。
…当然だが、チート能力を得てこの世界にやってきた田中はギルドカウンターにも関わらず、拳を握るとドンッと大きな音を立ててテーブルをぶっ叩いた。
好き放題言っていたギルド構成員は瞬く間に静かになるものの、白い視線を向けて彼を追い出そうとしてくる。
「…ちっ、雑魚どもが…」
いくら強かろうが、性格などに問題があるだけでここまでされるとは思ってもみなかったのだろう…小さく愚痴を吐き捨てると受付嬢から無理矢理依頼書を取ると準備に入った。
依頼内容はかの主の討伐依頼。どうやらこれをクリアして汚名返上するという浅はかな考えらしい。
依頼を勝手に取り出した挙句ズカズカと自分以外の人間をのけ者扱いして弾き飛ばす中…
「おい、やめとけよ」
どこからか少年のような声が聞こえてきた。
しんみりとした空気の中、誰だ誰だと構成員らが捜すものの、田中は一発で声の方向が分かったのだろう、ぎろりと睨み付けながらその方角へと視線を向ける。
つられて構成員らもその方角へと視線を向けるとそこにはギルド内で展開していたある行商人の姿が目に見えた。
山田太郎だ。
彼はかつて田中のような冒険者を目指していたものの、目の前でドラゴンとコカトリスの戦いを見て自信を無くしたチート転生者である。
現在は貰ったチートを最大限に使って仕事内容を把握して商売に精を出しているが、これが正解だったらしく、以前より輝いているように見える。
「なんだお前」
当たり前だが見ず知らずの人間に気安く話しかけられた田中は機嫌が悪そうに睨みを効かせながら山田を見つめるが、同じチート転生者なのだろうか、大した怯みも見せずにただ真っ直ぐと見つめ返した。
既に何人かがその殺気に反応してブルっているようで空気がさらに重くなる中、山田は口を開く。
「これは警告だ、お前がどれほど強かろうがアイツらには勝てない」
「は?」
「人間がそう簡単に関わっていいような領域なんかじゃない。決してこの世の中は自分が思い通りになるとなりゃ大間違いだ。今からでも遅くはない…目を覚ませ。このままだとお前は___」
山田はその言葉を最後にプツリと途切れた。気が付くと田中が拳を作って、彼の頬を思い切ってぶん殴ったらしい。
チート能力で上乗せされた理不尽とも呼べる拳は高い破壊力を誇っており、頭蓋骨を半壊させるだけに留まらず、吹っ飛んだ衝撃で展開していた屋台やギルド内のテーブルなどをあらかた破壊し尽くし、勢いはカウンターに直撃してからようやく止まった。
「雑魚がでしゃばんなや。行くぞ」
ザワザワと困惑する中、田中は自分がまいた種であるにも関わらず知らんぷりをしてギルドを後にする。
戸惑いを隠せないギルドの受付嬢は涙目になりながら山田にヒーラーを当てて治療する中、それでも見ず知らずの同士を止めたいのだろう、手を伸ばして再び制裁に入ろうとするが…残念ながら意識が飛んでしまい、叶わなかった。
…だが、この時田中は知らなかった。そして舐め切っていたことに後悔する。
実にこの世の自然が、ドラゴンが危険な存在だということを…そう思い知らされる日は遠くない。




