とある攻略対象者による事情聴取
ーーやあ、アマンダ嬢久しぶり、卒業パーティー前夜に君が捕縛された時以来だね。牢獄の居心地はどうだい?
ーーああ、君が騎士達の調査にまともに答えてくれないと聞いてね、少しは付き合いのある僕が尋問役を仰せつかったって訳さ。僕でも駄目なら暴力の出番らしいからさっさと話した方が君の身の為だと思うよ。
え? 何で犯罪者扱いかって? だって君って第三王子のブライアン殿下と側近達をまとめてたぶらかして王子の婚約者のクリスティーヌ嬢を冤罪でっち上げてパーティーで断罪しようとしたでしょ。立派な犯罪者だよ。
で、誰がパーティーで吊し上げようなんて言い出したの?
はあ、王子? いやぁあの王子がいくらバカでもそこまで底意地悪くないでしょ、君が誘導したんじゃないの? え、もちろん君が底意地悪いって言ってるに決まってるじゃん。
ーーハイハイ、そろそろギャンギャンわめくのを止めてくれないかな。
え、僕が君を好きだった筈だって? ちょっと寝言言うにも程があるんじゃない、僕そんなこと言ったこと一度も無いんだけど。
ーーあのさあ、僕は王子が選んだ側近じゃなくて国王陛下の意向で付けられた護衛兼お目付け役なの、監視役なの。学院だってとっくに卒業しているから朝と放課後しか王子の側にいなかっただろ? お役目だから王子に君を近付けまいと追い払う為に話しかけてたのにあいつらときたら毎度毎度どいつもこいつも誤解して邪魔しやがって説教しても聞きやしない。だいたい君も君だ、僕は出ていけとばかり言ってた筈だけどどうやったら僕が君を好きだなんて勘違い出来るんだよあいつらにもそう吹き込んでいたんだな隙有らば誰彼構わずベタベタベタベタ触ってくるし男はみんな自分に堕ちるとでも思ってるのかほんと気持ち悪いな君は。
ーークリスティーヌ嬢はいじめなんかしないとか君を近付けるなとか説教していたから、僕から隠れてこそこそとあいつら断罪イベントなんて企てたんだよ。そんな悪巧みの現場を押さえてしまった僕の身にもなって欲しかったね。
あんな大舞台でそんなバカげた真似をしたら恥晒しもいい所だし内乱だって招き兼ねないっていうのにあのバカ王子ときたらいくら諌めても君のことを信じきってて断罪を決行しようとするもんだから、最後の手段で君ともども身柄を取り押さえさせてもらったんだよ。間一髪計画に気付いて本当に良かったよ。朝気付いて昼まで説教、そのあと手配とか根回しとか色々走り回ってなんとかギリギリ捕縛出来たのは夜になっちゃったけどね。ひどい一日だった。
ついでに卒業生のみんながパーティーを楽しんでいる間に君の寮の部屋も家捜しして色々回収したよ。これまでに王子達から贈られたドレスとか王家縁の首飾り、とか色々ね。
ーーん? だって君にあんなものもらう権利本来は無いだろ。あいつら婚約者に使うべきお金で君へ貢いでいたんだから横領ってやつさ。証拠物件はもちろん押さえなきゃね。リストが出来たら返却されるから各家から婚約者の家への賠償金に当てられるんじゃないかな。買い叩かれて雀の涙だろうけど無いよりはマシだよね。
特にあの首飾りってさあ、王家縁といっても王妃様がご実家から御成婚時に持ち込まれた物だったんだよね。つまり結納品。側妃様の息子でしかないブライアン王子が婚約者ですらない君に勝手に贈れる訳がない。国王陛下はもちろん王妃様が激怒していて持ち出した王子には宝物庫への侵入罪と窃盗罪が追加されたよ。
君みたいな見え見えのハニートラップに引っ掛かったこと、吹き込まれた悪口を安易に信じてろくな調査もしないでクリスティーヌ嬢を断罪しようとしたこと、周囲の諫言を聞きもしなかったこと。そこに横領に侵入に窃盗だろ?
成人したら賜る予定だった公爵位も領地も取り消し、王族籍の抹消までは確実だね。どこかに幽閉とかになるんじゃないかな。
場合によっては側妃様にもお咎めがあるかもしれないね。
それから王子を諌めるどころか色々焚き付けた側近の彼等もまとめて謹慎中だよ。まだ決まっていないけどたぶん廃嫡だの勘当つまり貴族籍の剥奪だの放逐だのになるんじゃないかな。もちろん婚約は全て彼等有責での破棄になるし、学院の卒業も取り消しの上退学だね。あ、退学は君もだよ、もちろん。
本当に最悪だよ、防波堤になるべき側近の奴らが率先して君を近付けるなんて。彼等は結局君が王子に近付くための足懸かりだったんだろ? 報われないよね。それでも君は彼等の心を掴んで手放さなかった。彼等には何を提供していたんだい? 甘言だけじゃないだろ、僕にほのめかしていたように肉体?
ふうん、やっぱりそうか。王子の恋人を寝取ろうなんて、いや、自分の女を王子の妃に送り込もうだなんて、あいつらの罪状に追加だな。
それにしても君のやることなすこと本当に貴族の振る舞いじゃないよね。娼婦としか言い様がない。
ーー侮辱じゃないさ、単なる事実だろ。それにきちんとした高級娼婦は政治の話も含めて一晩中でも議論に付き合って楽しませてくれるそうだけど、君にそんな事出来るのかい? いつ聞いていても薄っぺらくて甘ったるい中身のない話しかできなかった君が。
ーーさあ、君がどうなるかなんて、僕にはわからないよ。ただ王家と側近達の家とクリスティーヌ嬢を始めとするご令嬢達の家をまとめて敵に回したのは確実だろうね。君自身が罪に問われるだけじゃなく、君の男爵家にしてもそれぞれの家から慰謝料が請求されるだろうから、とてもじゃないけど払いきれない額になるだろう。領地を手放してなお多大な借金を背負った上での没落だろうね。商人達も一斉に領地から手を引くだろうし、領民の生活もさてどうなるのやら?
ーー今頃やっと君が仕出かした事の重大さがわかったのか。いやいや、男爵家が関係ないってことはないよ。
そもそも婚約というのは家と家との契約だ。領地についてだったり道路や水利権だったり商業についてだったり様々な契約が付随して結ばれていることが多い。そこに割り込んだのだから婚約者達には君と君の家に抗議し損害の補償を請求する権利がある。そして王家と側近達の家には大事な息子達をたぶらかして罪におとしめた君と君の家に抗議する権利がある。
そして君の家には他家の婚約に割り込んではいけないなんてそんな当たり前のことすら君に教育出来なかった責任があるんだ。知らぬ存ぜぬは通らない。
で、婚約についてはどう考えていたんだい?
ーー単なる結婚の約束で、そこに色々絡んでいるなんて知らなかった、か。まあ平民だったり男爵同士だったりするとそういう事もあるのかもしれないけど……。やっぱり多くの責任が絡む高位貴族の婚約について何も知らなかったのは問題だね。というか、高位じゃなくても困窮している男爵家なんかお家存続を賭けての切羽詰まった政略結婚も多いって聞くような気がするんだけどなぁ……。
それで男爵からは君の婿についてはどのような指示を?
ーー子爵あるいは伯爵の次男以降。ちょっと高望みだけどまともじゃないか。え、なるべくいい男を捕まえて来いとも言われた? まあそれくらいは言うだろうけど……え、まさかそれをなるべく爵位の高い男と受け取ったのかい? いやいや、爵位は指定されているじゃないか。その中で性格だの能力だの顔だの相性だの色々あるだろう! 君の父親が言ったのは絶対そっちだ!
それに次から次へと男に声を掛けて乗り替えまくっていた理由にはなっていないぞ!
ーーえ、イケメンから可愛い可愛い言われて調子に乗ってた、だが後悔はしていない? っておい、後悔しろ、さてはやっぱりバカだろ君。
今までだって抗議文が何通も家には届いていたんじゃないのかい?
へえ、男爵から叱られたのに無視していたのか、ますますバカだね君は。男爵も二通目が届いた時点で君を退学にでもしておけば良かったものを。
それじゃあ王子を狙ったのは男爵の指示ではなくて君の暴走ってことでいいんだね?
そう、男爵まで罪に問う必要は無さそうで良かったよ。
うん、なるべく君一人で済むように、そこはきちんと報告しておくから安心するといい。……まあ借金地獄はどうにもならないんだけど、せめて領地は早目にまともな領主の手に渡るように君からの嘆願ということで頼んでみるよ。まあ、爵位と領地は返上させて一番の当事者でもある王家が各家からの請求をとりまとめる形にするのが現実的なのかな。
ーーん、僕かい? 始めから報告は上げていたし色々諌めていたとはいえ結局王子が君に陥落するのを防げなかった僕だってもちろんお目付け役失格で失職さ。この尋問が最後のご奉公だ。調書を書き上げたら領地に帰って一生弟の補佐役だね。大恥晒すのだけは防げた褒美に退職金は貰える事になったし、勘当はされずに済んだからかろうじて貴族のはしくれに引っ掛かってるような僕でも婚約者は嫁いでくれるっていうし、みんなよりはましだけどね。
ーー君のせいで僕等全員が破滅した気分はどうだい?
アマンダ:男爵令嬢。いい男を捕まえる!と意気込むあまりに逆ハーレムを築き、ライバルを陥れようとして破滅した。多分罪を身を以て支払うべく娼館行き。
「私だって自分の家を継ぐためのお婿さんを探していたはずだったのに……。本当にバカな事したわ」
ブライアン:第三王子。側妃の子なのに王妃の私物に手を出したのが決定打となり破滅した。城から通学していたので自室で軟禁されていたと思われる。断罪イベントは阻止されたので、公爵家への賠償は常識的な範囲でなんとか納まった模様。主人公に感謝すべき。
「そんな、どうしてこんなことに……。アマンダは私を愛していたんじゃなかったのか?」
まだまだ現実を受け入れられない模様。幽閉コース。
クリスティーヌ:公爵令嬢。ブライアン王子の婚約者だったので学院内の女生徒のとりまとめをしていた。お陰で何度も常識外れなアマンダを注意して目を付けられた。卒業パーティーでは寮に踏み込まれたアマンダと王子達の不在で持ちきりになった物の、憂いが払われて晴れ晴れと過ごす婚約者一同の様子に暖かく見守られて楽しく過ごした模様。ご令嬢方には王家が責任持って他国からかき集めてでも縁談をいくつか紹介する予定。もちろん強制はしないと明言済み。
「筋も通せない殿方と結婚前に縁が切れて本当に良かったわ。」
その他取り巻きの側近達:互いに牽制しあって競うようにアマンダに手を出した。良い所のボンボン達は王子に対する謀略の罪も加算されたので軽くて僅かな金と共に放逐、鉱山奴隷に落とされる者も出た。全員一年生きていられれば良い方と思われる。
主人公:語り手。ブライアン王子の護衛兼お目付け役の近衛騎士。名前がないのは自己紹介してくれなかったせい。王子達より少し歳上で勉学はそこそこ武術とマナーはバッチリ。始めはもちろん丁重に接していたが、王子の余りの素行の悪さに次第に遠慮がなくなった。実は王から王子に対する言動の自由のお墨付きを得ている。
そもそもから全てを上に報告、王子を始めとする面々にはガミガミ説教していたが疎まれ、嗅ぎ付けた断罪イベントだけはなんとか阻止した。ストレス溜まりまくっていた為のこの口調だが、元凶を叩き落とす事が出来たので少しはスッキリした模様。
「素行調査報告書だって何度も出したのに読もうとすらしないんですよ、あのバカ王子。大恥晒して国内に不和の種を撒き散らすよりはマシだと土壇場になってやっと拘束の許可下りましたけど、もっと早く手を打っておけばこんなことにならなかったのに……ブツブツ」
領地に蟄居だなんだと本人は言っているが、詳細な報告書および意見書の数々や断罪イベント回避の手回しの良さ等に娘の名誉を守ってもらった公爵が目を付けていることを彼はまだ知らない。