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【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……  作者: ひらえす
第6章 転生隠者の望む暮らし

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1.執筆の秋


 紙の上をペンが走るカリカリという音が、部屋に響いている。庭の畑や台所からは、精霊達の声もする。窓から入ってくる風に、カーテンが揺れている。心地良い風が運んでくるのは……カモミールのようなハーブの独特の香りだ。

(…後は、何か…お料理してるのかな)

 台所から何かを焼いている香ばしい香りがする。ペンを置いて大きく伸びをした。

(ああ、いい風……)

 バルガ辺りまで出れば、夏の残り香が残っているのかもしれないが、この辺りは朝晩は冬の気配を感じる程になって来た。とは言ってもここは温度を調節した結界の中なので、極端な暑さも寒さも無い。冬の気温について悩んでいたのだが、精霊達も全く問題無いと答えてくれたので、結局最初に設定した『衣服で何とかなる程度』のままだ。

「主様〜お茶の時間だよ〜?」

「パンケーキつくってみましたのよ!」

「この絵の通りに作ったのです!」

 カルド、ティアとラーラに手を引かれて食卓に着いた。大皿の上に山盛りになった沢山のパンケーキと生クリーム、ベリー類。ミントの葉の代わりは精霊草らしい。

「すごいね。美味しそう」

「さあさあ、食べてくださいませね!」

「みんなは?」

 何人かがバツが悪そうに失敗作をつまみ食いした、と苦笑した。お腹いっぱいでないならみんなで食べようと誘うと、良いお返事が返ってきた。

(うん……幸せ。この生活が1番いいわ)


 聖地での出来事から、2ヶ月程経過した。基本的には以前と同じ暮らしに戻ったと言えるだろう。前とは変わったところがあるとすれば、私が書いている原稿と……違う魔力、いやこの場合はマナと言うべきだろう。それが結界を通過し、庭の隅に新しく設置した転移点が作動する気配を感じた。

「こんにちは〜〜あ、やっぱりおやつの匂いだった〜!」

「風の、ご挨拶くらいなさいませ。こんにちは、リッカ。急にごめんなさい。これが採れましたのよ」

 もはや勝手知ったるといった雰囲気でやって来たのは、風と水の精霊王だ。水の精霊王は、布に包んだ物を私に手渡した。

「わざわざありがとうございます。どうぞ座って下さい」

「どうぞー」

「お茶とミルクでいい?」

 精霊達が2人を誘導して座らせている。サッと2人の分の取り皿が用意された。私は布の中の物を確かめる。其処には、先日世界樹にすずなりになっていた物の、所謂外側…卵の殻のような物だ。

「リッカリッカ! 忘れてた!これも出来てたよ」

 風の精霊王は手を翳すとテーブルに拳大の石を5つ、ゴトゴトと落とした。

「もう!食卓になんてこと!」

 水の精霊王は怒っているが、石はきれいに洗浄されているようだし、私もちょくちょくここで作業しているので何も言えない。

 石はお礼を言って受け取った。この石は、何と例の不純物だらけの土から出来たものだ。正確には、土の中のマナを世界樹達が循環させた後に残った物、と言うべきだろうか。

 世界樹が輪廻転生した後、精霊王達に何かお礼をと言われたのだが……何も考えていなかったのだ。後で考えると言ってお茶を濁したのだが、すると土の精霊王が石の存在に気付き『おそらくこれは地上では有り難がられていたぞ』と言い出し、それに便乗して『そう言えばこの殻も稀少素材とか言われているぞ』と闇の精霊王が差し出したのは、先ほどの殻だ。『精霊殻』と言うらしい。

 石は普通に宝石の原石、精霊殻は万能の霊薬の素と呼ばれているようだ…と言うのは、鑑定術で見えたことだ。以来、お礼だと言って、時々こうやって届けてくれるようになった。精霊達も彼等の訪問を喜んでいるし、実は、最近は不思議と彼らが居ても余り気にならなくなってきた。先日、あまりにも恐縮する光の精霊王に、こちらも恐縮しながらそんなふうに伝えたところ…「私達も精霊ですからね」とにっこり笑ってくれたので、お互い良かった良かった、ということにした。

 実際、調べ物の途中に抱きつかれたりはしない。精霊たちが言うには、「そんなの待っていれば良いだけ」らしい。彼らはちょうど良い距離感で放っておいてくれるので、本当に有り難く思っている。

「そう言えば、リッカは何か書いてるんだよね?終わった?」

「いいえ。なかなか難しくて」

 机の上の原稿を思い出すと、苦笑しか浮かばなかった。最近の私の、1番の悩みの種だ。

新章はじまりました。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みしました。 気持ちいいファンタジーでした。
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