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4.隠者的な市場とギルドの歩き方

 市場は、まあまあの人だかり…とは言っても、これは比較対象が日本なので、この辺りとしてはかなりの人手になるだろう。生鮮食料品、日用品、大きな家具や武具の類、服やアクセサリー、もっと大きくなると馬や牛などの家畜まで…おそらく、大抵のものは揃うだろう。

 

 ゆっくりと人の流れに乗って歩きながら、店を順番に見て歩く。目深にフードを被り、ローブに背負い籠姿の者はそこかしこにいるのでおそらく気配隠避の術を使わなくても目立たない気もするが…もう使うのに慣れてしまっているのでそのまま進む。気配を消し過ぎると人にぶつかられるので、そこら辺は調整に調整を重ね、結界と組み合わせた結果、理想的な距離感を自然に取れるようになった。ちなみに普段の引きこもり生活が祟って実地調整に長引き、ここまで来るのに、1年以上かかっている。

(あはは…暇人のやることだよね)

 良いのだ、だって隠者だもの、と思わず苦笑する。


 市場を回って、光虫が反応したいくつかの果実や、シンプルなナイフホルダー付きのベルトなどを購入する。

(これでアーバンさんに「お前さん、短剣くらい買えよ?」とか言われないで済むかな)

 木陰のベンチに荷物を置き、ベルトを身につけて、アイテムボックスに入れてある、普段使いのナイフを下げてみた。果物は背負い籠に入れるフリをしてアイテムボックスへ入れて…ゆるゆると人の流れに沿って市場から

ギルドへ向かうことにした。


◇◇◇


 ギルドは基本的に常に開いている。冒険者の食堂兼酒場が奥のフロアにある関係か、常に誰かが居る状態だ。

「おはようございます。納品をお願いします」

 この時間ならまだ夜勤の職員と朝出の職員の申し送りの最中で、おしゃべりな受付嬢はあまりいないはず…と思ってやってきたのだが、私の声に反応したのは1番近くにいたアーバンさんではなく、少し奥にいた小柄な受付嬢だった。

「おはようございます!冒険者証を見せてくださいね!」

 彼女はハキハキとした勢いのある挨拶をしたのち、こちらをまっすぐ見てニコリと微笑んだ。

「お願いします」

 フードをおろし、鎖を頭から引き抜いて冒険者証ごとトレイに置く。

「お預かりしますね」

 名札にはスージーと書いてある。多分、半年くらい前から働き始めた人のはずだ。スージー嬢はトレイを持って、奥の読み取り用の機械の板の上に置く。まずは一旦、登録の確認などをする為だ。


 ピクリ。


 私に背中を向けていたスージー嬢の肩が跳ねた。はわわ、と小さな声が聞こえる。

 少し嫌な予感がした…その時、不意にアーバンさんが受付の前に入ってきた。

「おはよう、リッカさん。品物預かっていいか? スージー、サブマスが倉庫で呼んでたぞ。あとは引き受けるぜ」

 アーバンさんの背中でスージー嬢の姿が隠れる。スージーさんはトレイをそそくさと私の前に戻すと、はわわ、と小走りで奥に行ってしまった。

「ああ、アーバンさん。おはようございます。お願いします」

 にこり。セカイさんの笑顔を思い浮かべる。それを崩さないようにして背負い籠からいつもの荷物を出しては、中身をアーバンさんの差し出すカゴに移し替える。

「今日はこれも」

 ギンダケを出した途端、今度はアーバンさんの片方の眉が跳ねた。

「おう。いつもあんがとな」

 受け取るフリをしつつ、私に顔を近づけて、アーバンさんは早口で囁いた。

「やばいぜ。ホントに悪いが、ちょっともう黙ってられなくなるかもしれない」

「……」

「サブマスはオレの同期でさ。今までリッカさんの希少職業に関しちゃスルーしてもらってたんだよな」

「………」

「とりあえず、今回はギンダケはしまっとってくれや。話がもっとでかくなるぜ」

「…はい」

 するり、とギンダケの籠を足元の背負いカゴに落とす。そのままアイテムボックスに入れた。

「悪いようにはしねぇ。今回だけはちょっと時間くれ。頼むよ」

「…どうすれば?」

 奥の方からカツカツ靴音が近づいてきた。

「私がご案内しますよ」

 アーバンさんの後ろからやってきたのは、眼鏡をかけ、髪を後ろに撫で付けた男性だった。

「あ、コイツはうちのサブマスだよ。リッカさんに指名依頼があるってよ」

 明らかにわざと大きな声でアーバンさんが言う。

「はじめまして。当ギルドサブマスターのルドヴィック・アスターと申します」

「…リッカです」

「実はある商会から、是非あなたにお願いしたい依頼がありましてね。お話だけでも聞いていただきたいのですよ。お時間をいただけませんか?」

 サブマスターということは、このおそらくは貴族の男性が、アーバンさんの同期の方ということになる。ちらりとアーバンさんをみると「OKしてくれ」と目で訴えられた。

「…わかりました」


◇◇◇


 ギルドの2階は床に絨毯が敷かれた、思っていたより重厚な作りだった。サブマスターは私に恭しく手を差し出し、エスコートをしてくれる。転生してこの容姿になってから、女性扱いをされるのは久しぶりだったのでそれだけはびっくりしていたが、思っていたよりも動揺はなかった。

 おそらく、隠者という職業だと、もしかしたら何かあるかもと気にかけてはいたことと、そして、多分いざとなったら転移で逃げれられるように常に準備が出来ているからだ。

 私は、自分に認識阻害と隠秘を緩くかけなおして、探索魔法で、自分に影響のある魔法や仕掛けなどの存在を探す。サブマスが魔法が使える可能性を考え、彼の魔力の流れを視覚化しておく。今のところなにもかけられていない気がするけれど…

「もしかして、リッカさんは、エルフの血を引いておられるのですか?」

「……え?」

「いえね、以前パーティーを組んでいた弓使いの仲間が、エルフの血を引いていたのですよ。その人と静謐な雰囲気が似ている気がしましてね。独特の品の良さといい…いや、初対面の淑女(レディー)に聞くことではなかったですね。失礼しました。忘れてください」

「…いえ、お気になさらずに」

 いや、これは貴族にありがちな『とりあえず女性なら初対面は何がなんでも遠回しでも誉めておけ』ということなのだろう。ローブに背負い籠なんて持ってる女、しかも印象を薄くする魔法を重ねがけしている状態で、褒めるのは大変そうだ。


 ギルド内は思っていたより広いのか、要人を守るためだろうか。2分ほどゆっくりエスコートされて歩いて、やっと立派なドアの前に来た。サブマスがトントンとノックした。

(わざと遠回りさせられた気もするけど)

「ギルマス、ルドヴィックです。入りますよ」


「入ってくれ」

 低い壮年の男性の声が聞こえた。


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