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【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……  作者: ひらえす
番外編

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番外編1 思いは遠いところから

番外編は全3話の予定です。


 練習終わりの挨拶後、最近恒例となってしまった大勢の前での叱責を受けた彼…孝也は、1人息を吐くと、独りで帰り支度を整えた。


 まだ少年ぽさが残ってもいい年齢ではあるが、だいぶ体格がいいため、グラウンドに伸びる影もだいぶ大きい物になる。

「孝也、ちょっといいか?」

 反射的にびしりと背を伸ばして振り返り、孝也は「はい!」といつもの返事をした。

「ちょっと話をしないか? 飯おごるぞ」

「いや、俺は、いや自分は寮生で、もう時間が」

「それは問題ないから」

 問題無いと言って微笑したのは、チームのコーチであり、全体や個々まで、体のメンテナンスやトレーニングの組み立てなどをやってくれる男だ。就任して3年目で、このチームのOBらしいと聞いている。話しをする時はいつも穏やかに微笑んでいて、基本的にチームの上級生やエース級の選手たちが色々と話しかけているのを、孝也のような2軍以下はなんとなく気後れしていて、眺めているだけだ。

「あのさ」

「はい!」

 先輩方やら強い選手が彼の助言やマッサージなどを受けて怪我から復帰したり、調子を上げているのは聞いている。しかし、孝也はグループで指導を受けたことはあっても、一対一で話すのは初めてだ。

 それでも、名前を呼ばれたというのことは、100人近い全ての選手の名前と顔が頭に入ってるという噂は真実であるらしい。それとも、もしかしたら孝也は問題視されているのだろうか。ネガティブな予想が胸に渦巻いた。


「肉、魚、中華、他でもなんでもいいよ。どれがいい?」

「えっ?」


 選べないと言いかけた孝也に、笑顔で決断をカウントダウンするコーチの圧に負けて、ついつい郷里の鍋料理をリクエストした。


「いいよ。いい傾向だ」

「えっ?」


 自分は『え?』しか言っていないと孝也は自覚していたが、他の答えの前にそれが口から出てしまっていた。


 銀色の鍋に山ほど盛られたニラ。その頂上に乗せられた輪切りの唐辛子。孝也にとっては郷里であっても、母子家庭の経済状況ではあまり頻繁に食べていたわけではない。試合に勝った時や、何かのお祝いの時など、特別な日に母と食べていた思い出の味だ。


「俺も久しぶりに食べるよ。大学の時の友達がそっちの出身でね。遊びに行った時に食べさせてもらったんだ」


 コーチも遠慮なく食べるので、孝也の箸も進んでいく。


「この食事から取れる栄養素的にはな———」

 

時折話してくれる内容は、慌ててノートの端に書き留めた。


「孝也はえらいな。そう、ちゃんと記録しとくといいぞ〜。ま、まず食べろ食べろ」


 会話の中で出てくるコーチの話は、孝也にとってとても有益な情報ばかりだった。あらかた食べ尽くした後は、孝也から質問に笑顔で答えてくれた。


「じゃ、次は2軒目にいくか」

「えっ⁉︎」

「もう酔ったか?」

「の、のの、飲めます」


 適度に飲み直し、いつのまにか口も軽くなる。

 コーチはようやく、今日誘ってくれた理由を語り出した。


「お母さんが心配しててな。監督に相談してたんだ。監督も心配してた」

「えっ……」

「孝也、『え』が多いぞ」


 ハハハと笑って、コーチは肩口に軽く拳を当てる。


「孝也は推薦組だし、適度なプレッシャーは大事だと思う」

「はい」

「でも、その気持ちは押さえつけるだけが強さじゃない。ちゃんと言語化してごらん」

「……はい」

「お母さん、高校まではかなり喝を入れてくれたんだよね?」

「………」


 コーチは飲み物に視線をうつして、一気に飲み干した。


「お母さん、先月入院と手術してたんだってな」

「……はい」

「検査の結果、手術すれば問題ないってな」

「……はい!」

「良かったな」

「はい……」

「試合と重なってるから、帰ってくるなって言われてたんだな」

「……自分は、2軍だから問題ない、付き添うつもりだって言ったら、怒られました」


 背中をポンポンと叩かれた。


「頑張れよ。お母さんはだれよりもお前の可能性を信じてる」

「でも……!」


 コーチは、カバンからクリアファイルに入った書類を高谷に手渡した。


「去年の孝也と、最近の孝也のデータだよ」


 身長体重、細かい体のデータや効果的なトレーニングなど、摂った方がいい栄養素、サプリメントなどが記載されている。


「孝也はまだまだ伸びる。筋肉が大きくなるタイプだから、もう少し栄養やトレーニングは細かく見直していいと思うぞ。それにな———」


 なぜか孝也の目の前が曇る。


「お母さんともっと話をしたほうがいいよ。八つ当たりとかじゃなく、不安や寂しいのも言葉にして。孝也は語彙力もあるから出来るはずだ」


 コーチの視線は、空のグラスのそのまた向こうを向いている。


「俺は気付くのが遅過ぎた。孝也はまだ、じゅうぶん間に合う。

 ……これは、個人的意見な」


 その後、コーチと、亡くなった母親とのやりとりを聞く機会が訪れるのは、だいぶ後のこと。


 孝也が世界戦の選手に選出されて活躍してからずっと後のことになる。

これは実は書く予定がなかったのですが……リッカの前世、子供の1人=コーチにまつわるストーリーでした。

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