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【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……  作者: ひらえす
第6章 転生隠者の望む暮らし

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17.願いに至る道


 そこは、鬱蒼とした森の中だった。湿度が高く、足元はほぼ苔だらけだ。美しい苔に覆われた土地をあまり踏みたくなくて浮遊術で少しだけ浮いたところを歩いている。

「海の上じゃなかったね」

 カルドがキョロキョロと楽しそうに辺りを見回していた。

「本当に……地図の上では、海の上だったのにね」

 地図上では確かに海の上だったのだが、ここはどう見ても陸地だ。陸地というよりは島だろうか。

「結界の中ですね」

 ブラドが眉を上げる。

「そうね」

「なんか変ですね。雰囲気と言うか」

 カルラも首を捻っている。

「探索術に何も反応しないなんて、変です」

 何も、と言うわけではない。ネズミくらいまでの小動物くらいの反応はあるのだ。

「生態系が他のところと全く違うのか……いや、なんて言えば良いのか……」

 私もうまく言葉にできない。出来ないまま探索術の範囲をちょうど海が入るくらいまで広げる。

「海の中まで結界が続いているね。周囲100メートルくらいかな」

 そこでようやく違和感を言葉にできた。

「生き物が少なすぎる」

 探索術に妨害やら何やらが入っていないのなら、現状わかるのは、ここは500平方キロメートルくらいの島であるということと、植生は熱帯雨林に近いこと。そして熱帯雨林のような状態であるのに、虫やその他の動物の反応が少なすぎることだ。

(植物の状態を見ても定期的に海に沈むと言うわけでもなさそうだし……この結界のせいなのかしら)

 結界の紋様をコピーしながら、同時にディスプレイを使って鑑定する。

(結界が張られたのは、だいぶ昔かもしれない)

 使われた術式から、おそらくは3回目の滅びの前以前だろうと推測した。

(実はそれ以前ってなっちゃうと、細々とは言え全部の魔法がそれなりに使われてるから時代の特定が難しくなるんだけど……)

 心の中でつぶやいて、わずかに魔力の高い地点を目指すことにした。

「土と水の力がとても強いですわね」

 闇と水の精霊ファーナがふんふんと匂いを嗅ぐような仕草をした。

「その割に生き物が少ないと思うんだけど……それもこっちの持っている情報と比べて、というだけで」

 辺りは静かだった。波の音しか聞こえない。いや、小鳥の声が聞こえなくはないのだが、蔦のようなウネウネと絡まり合う木々が鬱蒼と茂った森の中、前世で見たジャングルのような状態で水が豊かなのに、イメージ的に生き物の姿も気配もないのが落ち着かない。

「我が家の近くも静かだけど、さすがにもっと色々な気配があるよね……」

 念の為に探索術のレベルを最大に引き上げる。周囲をソナーのように一定の周期で強めに索敵する物を重ねがけする。これは以前魔物討伐の時に改良したもので、たとえば小動物を感知すると、それに関係する他の動植物の情報が出てくるように紋様を調整したものだ。

 反応が薄くはあるけれど、反応の強いところを目指してけもの道のような道を歩くこと、30分程度。

「ここだ……」

 朽ちかけた巨大な木が、そこにあった。

「わあ……!」

 精霊たちが一斉に近寄って行こうとするので注意をするよう声をかけながら、自分でも興奮しているのが分かる。

(住居……あるいは神殿とか?)

 本体はほぼ朽ちかけているのだが、それを覆うように蔦が絡みついて倒壊するのを免れているようだ。その姿は聖地で見た世界樹の姿を思い出させる。

 巨大なガジュマルのような木が無数に組み合わさった木の根本部分は、確実になんらかの力が働いているのかそう干渉したのか、石の柱が建てられ、アーチ状の入り口が造られている。

 直径は10メートル、高さは20メートル近くはあるだろう木の幹には、無数の入り口や窓のようなものがあるように見えた。


 念の為に自分の周りに物理防御の結界を張って中に入る。

「主様!上の方も面白いよ!」

 どうやらもう冒険してきたカルドがくいくいと私の服を引っ張る。

「ここ、僕たちみたいなのもいたのかもしれないよ!」

「え?」

「上の方のスペースなのですけど、サイズが私たちくらいにぴったりの部屋がいくつもありました」

 カルドとブラドの言葉をメモしながら、この木と言うか建物自体に鑑定をかけて、内部の構造を詳しく見る事にした。

「主様」

 紋様を一度消した私に、カルラがニコニコ話しかける。

「ここ、主様のお家にできそうですよね!」

「うん。確かに……」

 そうなのだ。明らかに私のようなサイズの者と、カルラ達のような精霊や妖精たちが共に暮らしていたような痕跡がある。

(でも、煮炊きの跡がない気がする……人間では無い?)

 いくら古くなっていたとしても、生活をしていた跡は残る気がした。しかし、ここにはそれがほぼ見られない。人間もエルフも魔族もドワーフ族や他の種族も、食事は必要不可欠なのだ。しかし、かまどのようなものが一切見当たらない。

(家本体が木だから外で……?)

「違う。そう、ここは火の力が極端に無いんだわ……」

 属性を調べる紋様を出して確かめる。火の力が極端に少ない。

「使い果たしたみたいに少ないねぇ」

 ファイの言葉が1番感覚的に近い気がする。森の幻映のグラフの時には、もともとそのような属性値の差がある作りであることを示す形があったのだが、この巨大な朽ち木というかこの島全町には、以前は火のマナが満ちていた名残のようなものがあるのだ。

「何らかの大きな魔力の変動があった時のまま……滅びの時のまま…とか?」


 うーんとしばらく考えてみたが、滅びに関してはあまり資料がない。アイテムボックスの中に不自然に少ない気がする。

(まあ、だからこそ隠者的には、ガラにもなく探しているんだけどね)

「今日は色々調べて情報を集めようかな。夜の様子も見たいから、キャンプをしたいんだけど、いい?」

 精霊達がOKを出してくれたので、一度家に戻って留守番をしていてくれた精霊達とも合流してキャンプをすることにした。


(星……綺麗だなぁ)

 その夜、楽しく焚き火を囲みながら、あることに気付いた。


 それは、まさに自分の望みに直結する物だったのだけれど……私がそれに気づくのはしばらく後のことだった


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