探し物~力を貸す条件~
街道からの横道を見つけたダウ。
目的地がその奥にある気がしたダウは背の低い木の間に足を踏み入れるのであった。
入った先は先程と同じような背の高い木が生えた森だった。
本当にあの街道の一部だけ背の低い木が生えているんだな。
いや、もしかしたら意図的に植えられてるのかもしれない。
僕はくねくね曲がった奥へと続く道を歩く事にした。
この先に何があるのか分からないし、この先に目的の場所があるのか分からないけどなぜかこの先にある気がする。
僕が探し物をする時はいつもそうだった。
何気ない場所が気になり、自分の感を信じて行けばなぜか探し物が見つかる。
僕はくねくね道をひたすら歩く。
すると、目の前に見えてきたのは森が切り開かれた広い空間と一軒の白い家だった。
[無限亭]
そう入り口横に看板が立て掛けられていた。
ここがそうなのかな?
僕はドアに手をかけてゆっくりと扉を開いた。
「え?あ、いらっしゃい」
店に入ると、カウンターから驚いた顔の店員だろうか?声をかけてきた。
「えっとここ料理屋であってますか?」
僕の問いに驚いていた店員は笑顔に代わり「はい、そうですよ」と答えてくれた。
「よかった」
店を見渡すとテーブルが3つにカウンター席か。
奥のテーブルに布で巻かれた長い持ち物を持った男性が1人。
お酒を飲みながらこちらをチラチラ見てる。
カウンターの端に大きな狼かな?1匹。
この店のペットか何かなのかな?
すごい量の肉が皿に盛られていて、一心不乱に食べてるなぁ。
そして、カウンターにはフードを被った人がってまさか。
「あのう、もしかして占い師さん?」
カウンターに座るその人の横に言って声をかける。
「はい、また会いましたな」
そう言ってフードの人はこちらを見て笑った。
相変わらずフードを深く被って目元は見えないが間違いないあの占い師だ。
でも、「なんでここにいるんですか?」
思わず思った事を口に出す。
だって、どう考えても僕の方が先に出たのに、抜かれた記憶もない。
「それは秘密です」
笑いながら隣の席に座るように手で合図してくる占い師。
僕は占い師の隣に座った。
「なるほどね、コクリさんの知り合いでしたか」
カウンター側から水を差し出してくれる店員さん。
髪を後ろに束ねた綺麗な女性だ。
「まぁ、困って街をうろうろしてたんで声をかけさせてもらったんですよ。
それはそうと特製オムライス1つ。
お代はかれ持ちで」
そういうコクリはこっちを向いてニコッと笑う。
なるほど、これが占いの代金って訳か。
さすがは占い師、僕がここに今日来るのも知っていたみたいだ。
「ここの特製オムライスはいけますよ、あなたも頼んでみたらどうですか?」
「じゃ、僕にも同じものを1つ」
コクリのおすすめを頼んでみた。
「はい、特製オムライスですね」
そう言うと店員さんはカウンターで料理を作る準備をしだす。
ウエイトレスさんかと思ったらコックさんだったのか。
大きなフライパンに油をひくコックさん。
隣にまな板を起き、色んな野菜を並べる。
そして、綺麗な1本の包丁を振り上げる。
タン、タタタタタ。
連続で響く包丁の音。
1本しか持ってないはずなのに複数の刃物がまな板に当たる音がする。
そして、その音と同時にみじん切りにされた野菜が宙を舞い、フライパンにまるで虹色の橋がかかったかのように入っていった。
コックさんはすかさずフライパンを動かし、野菜を炒め始める。
「すごい包丁捌きでしょう」
「すごいです」
コクリの言うとおり確かにすごい。
「よっと」
野菜を炒め終えたのか、カウンター後ろから大盛ご飯が2杯フライパンに投入された。
しかし、このフライパンもかなり大きいのに片手で扱えるなんてすごいなぁ。
そしてまた、ご飯を炒め始め、数分。
カウンター下から大きなビンが取り出された。
「自家製のケチャップですよ」
「これがまた美味しいんですよ」
コックさんの言葉にコクリが賛同する。
コックさんは笑いながら、惜しみ無くケチャップをフライパンに入れていく。
ケチャップの入ったフライパンを混ぜながらもう一度炒められる野菜とご飯。
薄い赤に変わっていくフライパンの中からとても美味しそうな匂いが料理屋の中に広がっていった。
「これで、中身は完成ですね」
コックさんはフライパンを片手に2つの皿に綺麗にご飯を分ける。
そして、半楕円形に形を整えた。
「これってなんでこの形に整えるか知ってますか?」
コクリが聞いてきたがよく知らないので「分からない」と答える。
「それはですね、この次の過程を見れば分かりますよ」
教えてくれないんかい。
コックさんはそんな僕達のやり取りを笑顔で見ながら、後ろにある冷蔵庫を開けて大きな卵を2つ取り出した。
「おっきい」
思わず声が出る。
「これはこの近くの山に住む鳳凰鳥というモンスターの卵なんですよ」
聞いた事がある。
ベテランの冒険者数十人集まってやっと倒せると言われるモンスターだ。
「あ、別に倒す必要はないですよ、こそっと卵だけ拝借してくればいいですから」
僕の驚いた顔を見たのか慌てて訂正してくるコックさん。
でも、卵をこそっと取ってくるって簡単な事じゃないような。
僕の驚き顔を見ぬふりしながらコックさんは料理を続けた。
先程のフライパンに油をひいてその卵を割り入れる。
黄身を潰して白身とフライパンの中で混じりあう。
コックさんは片手でフライパンを動かしながら、カウンター中にある調味料を、パラパラフライパンの中に振りかけ卵を混ぜる。
白と黄色が混ざりあい黄金色になりながら半熟の卵焼きが出来上がる。
「よ、ほ」
コックさんはその卵焼きを綺麗に半楕円形にした。
その卵焼きを先程のご飯の上に置く。
すぐさま、もう1つの卵調理に取りかかる。
そして、僕達の前にご飯の上に楕円形の卵が乗った料理が出された。
「はい、どうぞ」
その言葉と同時に、何か目の前を通ったような感じがした。
すー
音もなくご飯の上の卵焼きが割れる。
半熟卵焼きはゆっくりと広がり、ご飯を包みこむ。
料理屋全体に卵の美味しそうな匂いが立ち込めた。
「ほいほいっと」
自家製ケチャップを卵焼きにかけてくれるコックさん。
「お待たせしたした、特製オムライス出来上がり」
「美味しそう」
素直な感想がでる。
なるほどこの形はもしかして。
「卵の形ですか?」
僕はコクリさんに聞く。
「そうです、卵焼きが開いて巻かれたご飯、卵に見えるでしょ。
だから、この形にしてるんですよ」
「ま、うちはだけどね」
占い師の言葉にコックさんは笑う。
「ささ、冷めないうちに食べて食べて」
「はい、いただきます」
僕は出された少し大きめなスプーンでふわとろな卵焼きと自家製ケチャップで味付けされたご飯をすくう。
卵の美味しい匂いと自家製ケチャップの優しい匂いが混じりあって食欲が湧く。
口にスプーンを入れる。
口の中で濃厚な味が広がる。
噛む度に半熟卵焼きがケチャップと混じりあいもうなんとも言えない美味しさだ。
野菜もいい歯応えになっている。
噛み潰した時に甘い野菜の味が染み出てそれがまたケチャップと卵の味にアクセントを与えていた。
まさに極上の旨さ。
僕はもう勢い止まらず食べ続ける。
「そんなに急ぐと喉に詰まらしますよ」
コックさんは笑って新しい水を出してくれた。
この水もどこで飲んだ水とも違い少し甘いがさっぱりした味わいだった。
飲む度に口の中がリセットされて、何度でもオムライスの味を楽しめる。
「これが最後」
名残惜しいが最後の1口になってしまった。
惜しみながらも僕はオムライスを頬張る。
美味しかったぁ。
手を合わせて料理に感謝を。
「美味しかったです」
お皿をコックさんに渡す。
「お粗末様でした」
笑顔で受け答えしてくれるコックさん。
「ごちそうさま」
コクリも食べ終わって満足そうだ。
「そろそろここに来た本題を言ったらどうだい?」
満足そうに椅子の背もたれにもたれながらコクリは僕に言った。
そうだ、あまりにもオムライスが美味しすぎて忘れてた。
「あのう、1つ訪ねたいんてすが」
「はいはい何かな?」
コックさんはカウンター端で洗い物をしながら返事をする。
「3英雄の子孫ってご存知ありませんか?」
その言葉に料理屋の中が一瞬静まり返ったような気がした。
3英雄。
その昔、魔王を倒し世界を救った3人の冒険者の事だ。
1人は剣の達人。
その剣は1振りすれば10体のモンスターを倒すと言われる絶剣殺(絶対剣で殺す)の剣士。
1人は獣人の王。
獣の中でも人の姿に変化できる特殊な種族にして、数多のモンスターを狩り尽くしたと言われる獣の王。
1人は銃の名手。
凄まじい距離から必ず狙った的に当てる狩人。
相手がどんなスピードで動いていようともその的は外さない。
魔王が倒されて100年あまり。
3英雄は伝説となって世界に広がったが、本人達は今はどこにいるか分からない。
「その3英雄の子孫を探してどうするんだい?」
洗い物も終わり、カウンターで向かい合うように座るコックさん。
僕はいきさつを彼女に話した。
幼馴染みが城に呼ばれた事。
そして、魔王復活の為に拐われた事。
城に呼び出されて王様に幼馴染みと3英雄の子孫を探すように言われた事を。
「なるほどね、それで王様に言われてここに来たわけだ」
「いえ、ここのヒントをくれたのは占い師さんで、探そうと思ったのは王様の為ではなく幼馴染みが心配だからです」
「見つけて無事に連れ帰ったとしても、ハーレムを作ってる王が幼馴染みを返してくれるとは思えんが」
奥のテーブルで飲んでいた男性が声をかけてくる。
「確かにそうです」
「魔王に拐われた方が案外よかったんじゃないの?」
いつの間にやら、カウンターに座っている子どもも話に加わってきた。
「いえ、シンクを魔王復活の駒のように使わせたくない。
もちろん、王には約束は必ず守ってもらいます」
「どうやって?」
「それはまだ分かりません、幼馴染みをシンクを助けた後に考えます」
そうコックさんに答える。
「まずは幼馴染みを、か」
「だから、ヒントを与えんだ、コクリは」
「そうだね、この思いなら3英雄の子孫も力を貸してくれるんじゃないかと思ってね」
はぁ~
コックさんは溜め息をついて少し笑った。
「3英雄の話は知ってる?」
僕はコックさんに向かって頷いた。
「あの話の続きはこうよ。
魔王討伐から帰った3英雄は、その時代の王に自分の地位を奪われてしまうのではないかと恐れられて、少ない報酬を渡されバラバラに国外追放されたの」
「え?滅茶苦茶じゃないですか、国を救ったのに」
「ええ、私のお爺ちゃんは北に」
「俺のじいさんは西だ」
「僕の師匠は南だね」
コックさん、奥の机にいる男性、カウンターの端に座る子どもが交互に答える。
「もしかして」
僕は3人の顔をそれぞれ見た。
「そう、私達が3英雄の子孫って訳ね。
ま、子孫と言うか孫ね。
お爺ちゃんは言ってたわ、過ぎた力は不幸を呼ぶ。
あの王のやった事も仕方ないことじゃろうって。
でもね、私はお爺ちゃんを国外追放した王族を許さない」
その言葉に残りの2人も頷いた。
「だから、もし君が王の命令でって言ったならそこで終わるつもりだったけど」
「彼女の為って言われたらな」
「え?か、彼女じゃないですよ」
男性の言葉に狼狽える。
「過ぎた力だけど人助けはするもんだって師匠も言ってたからね」
子どもはそう言ってバク転する。
すると一瞬でさっき肉を食っていた大きな狼に姿が変わった。
なんか、どや顔してる。
「さて、それじゃ、準備しようか」
コックさんの言葉にそれぞれが席を立つ。
「君は外で待ってて」
コックさんに言われて僕はコクリと一緒に料理屋を出た。
「これで彼女を助け出すことができるね」
「ありがとうございます」
コクリにお礼を言う。
「いやいや、これは君の才能だよ」
トン
コクリは僕の肩を叩いてから手をあげ、僕が来た道を歩き始める。
「どこか行くんですか?」
「私は占い師だからね、戦いには向いてない。
これからの君の冒険に幸あれ」
そう言ってコクリは振り返らずに歩いていった。
僕はそんなコクリの後ろ姿に頭を下げた。
無事に3英雄から力を借りれたダウ。
謎の占い師コクリと別れたダウは次の探し物に向かうのであった。




