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転移無双  作者: 天野 空
第七章 人馬一体
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『馬体真眼』を持つ青年

そこはある大陸にある小さな町。

そこで1人の青年と馬が自分の運命に立ち向かう。

果たして、経営難の牧場を建て直せるのか?

全ては異種競走大会にかかっていた。

「本当に親父は無計画すぎるよな」

僕は厩舎の中、1匹だけいる馬にブラシをかけながら話しかけた。

といっても馬と話が出来るわけでもなく、ただの独り言だけど。

「ヒーン」

僕の言葉が分かっているのか良いところで相づちをする。

僕は少し笑顔になりながら、ブラシをかけ続けた。

この馬はミスティという牝馬だ。

昔はもう少しいたんだけど、経営の悪化で手放してしまった。

このミスティは、僕が生まれてからずっと一緒に育ってきた馬だったので、売りの話も出たが断固反対した。

今は僕が騎手兼厩務員をしている。

そう、この牝馬は競走馬なのだ。

この大陸では、競走で様々な事を決めている。

競走で実力を見せれば、お金も地位も手にはいるような世界だ。

うちも何年か前までは、そこそこ有名な牧場だった。

しかし、うちのバカ親父がある話にのってしまったんだ。

それがこの大陸で年に1度行われる、異種競走大会の出場だった。

その名の通り、様々な競走種目から選ばれた猛者が集まる大会で、うちは自慢の馬で出場、レース開始早々に巨大なタコに騎手ごと吹き飛ばされ、再起不能になってしまった。

騎手や馬の入院費、レースを出場する為の参加費。

そして、参加早々に敗れた為に名声も失った。

その為に、家は貧乏になり、名厩務員だった父も今や飲んだくれ親父とかしていた。

「テインさん、ご飯出来ましたよ」

母屋の方から声がする。

たぶん、家事をしてくれてるクロネさんだ。

「はい、行きます」

僕は大きな声で返事をした。

経営が悪化したうちに今でも残って家事をしてくれている家政婦さんだ。

クロネさんにうちの事を任せられるお陰で、僕はこうやって馬の面倒をみれていると言ってもいい。

ミスティの餌箱に餌を入れた後、僕は母屋に戻った。

食卓には二人分のご飯が並べられている。

僕は手洗いをした後、食卓についた。

「はい、これで終わりですよ」

クロネさんは最後にパンを運んだ後、席につく。

「父さんは?」

「先ほど声をかけたんですが、まだ眠いからと部屋で寝てますよ」

少し呆れたようにクロネさんが教えてくれる。

「まだ、眠いって?もう昼過ぎだよ」

僕も呆れながら言った。

「昨日も夜遅くまで飲んでたみたいですからね」

「よくこんな時に飲んでられるよ」

僕は食卓に無造作に置かれている1枚の紙を手に取った。

「やっぱり、出られるんですか?」

昼御飯を食べながらクロネさんが聞いてくる。

「仕方ないよ、父さんの拇印まで押してるんだから」

僕が手に取っておるのは、先日酔った父さんが持って帰ってきた1枚の紙だった。

それは、すべての不幸の始まりになった異種競走大会の参加申込み書だった。


酔いから覚めた父さんに聞いたところ、酒場で酒を飲んで酔った所に、この町にあるもう1つの牧場主であるライブンが声をかけてきたとの事だ。

ライブンは意地汚い事で有名で、狙った物はどんな手段でも手にいれる強欲家でもあった。

うちのミスティもこのライブンが買い取ると言ってきていたんだ。

ライブンは異種競走大会の事を持ち出して、父さんを煽り、汚名返上したくないかと、この参加申込み書を渡してきたそうだ。

参加費はライブンが持つ代わりに、入賞出来なかった時は、うちの農場すべての権利を渡すという契約書にも拇印を押していた。

「前にあれだけ痛い目にあったのに頭に血がのぼると本当に後先考えないんだから」

「ん、擁護するところが1つもないですね」

クロネさんはパンを食べながら呟く。

はぁ、少しは考えて行動してほしいものだよ。

「それで、クロネさんはどう思う?僕達が参加して入賞出来ると思うかな?」

自分でも分かってはいるが、クロネさんに聞いてみる。

「そうですね。たぶん、前回と同じになるのではないかと思います」

「やっぱりね」

そうだろうね、僕もそうだけど、ミスティもただの馬だ。

幻獣や神獣、化け物が出るレースで勝てる訳がないか。

「ま、今のままではですけどね」

「え?」

僕はクロネさんに聞き直す。

「実は私もテインさんみたいな特殊な目を持っているんですよ」

「『馬体真眼』の事?」

クロネさんがいう特殊な目。

僕の場合、馬を見るとその馬が今どんな状態か細かく分かる。

「はい、私もそれに近い物を持っていますので、それで見た感じ、テインさんもミスティさんもそれぞれ専属のコーチを付けてやればなんとかなると思うんです」

「ミスティは僕が見るけど」

『馬体真眼』もあるし、それに昔から見てる馬だし僕以外に適任はいないと思う。

「それだと、テインさんの訓練ができません。

それに、ミスティさんはそういう訓練じゃなくて、本来の力を引き出すって感じなんですよ」

「本来の力?」

「こんにちは~」

僕がそうクロネさんに聞いた時に、玄関から元気な声が聞こえてきた。

「あ、コムギさんですね」

クロネさんは席をたって玄関に向かう。

そして、1人の女性を連れてきた。

年は僕と同じで、近くのパン屋の娘さんだ。

なぜか、よくパンを差し入れに来てくれる。

売れ残ったパンと言うにはいつも湯気が出るほど暖かい。

「ちょうどご飯だったんだね」

ニコニコしながら、コムギは隣の席に座る。

「今、紅茶持ってきますね」

クロネさんは台所に向かった。

「いつも思うんだけど、なんで横に座るんだ?」

そう、いつも来ると隣に座りに来るコムギ。

別に嫌って事はないがどうして座るのかは気になる。

「べ、別にいいじゃない、椅子なんてたくさんあるんだし」

なぜか吃りながら返事をする。

そこに、紅茶をいれてきたクロネさんが戻ってきた。

「ま、いいじゃないですか、コムギさんはそこがいいんですよ、ね」

ウインクしながら、コムギに言う。

コムギはなぜか赤い顔をしてうつむいてしまった。

どういうことなんだ?

クロネさんとコムギを交互に見ながら僕は、クロネさんが入れてきてくれた紅茶を飲んだ。

「そ、そうだ、聞いた?」

コムギは顔をあげるといきなり話題を出してきた、

「この町の近くに森があるでしょ?

その森の中に大きな湖があるのは知ってる?」

確か、神聖な湖って言われてあまり人が近づかない場所だったような。

「そこにね、出たんだって」

「え?何が?」

「ヒッポカンポス」

「ヒッポカンポス?」

「本当ですか?」

机に身を乗り出してクロネさんが聞いてきた。

「はい、そう聞きました」

少しびくつきながら答えるコムギ。

いきなり、乗り出してきたらビックリするよな。

クロネさんは席に座り何かを考え始めた。

「それで、ライブンがお金で冒険者パーティーを雇って生け捕りするように依頼したみたいだよ。

さっきここに来る途中、パーティーとすれ違ったし」

「それは本当か」

食堂のドアから、いつも間にか降りてきていた父さんが声をかけてきた。


食卓には、僕、コムギ、クロネさん、そして父さんが座っている。

あれから、クロネさんがみんなに紅茶を出してくれた。

父さんは紅茶を少し飲むと一息つく。

「もしかしたら、そのヒッポカンポスはミスティの母親かもしれない」

そう、父さんが話し始めた。


話は僕が生まれた時になる。

僕の母さんは有名な騎手だった。

父さんもその頃は、母さんが乗る馬を一生懸命育て2人は名コンビとも言われていた。

しかし、母さんは僕が生まれて間もなく、競走大会の事故で亡くなった。

父さんは僕を抱いてすごく悲しんだが、僕を育てる為に一生懸命働いたそうだ。

そんな時、1匹の牝馬が牧場に現れた。

その牝馬は、怪我をしていて父さんは見捨てられないと面倒を見たらしい。

そして、数ヶ月後、その牝馬は元気になった。

しばらくして、その牝馬が妊娠していた事が分かり父さんはその時働いていた仲間達とその牝馬の出産に立ち会い手伝ったそうだ。

その子馬がミスティだった。

それから、しばらくしていつの間にか牝馬がいなくなっていた。

いなくなった日の前日は、大量の雨が降ったそうだ。

その日に夜当番だった父さんは、その牝馬が下半身魚になって雨をつたい空に上がっていくのを見たそうだ。


「なるほど、それでなんですね」

話を聞いたクロネさんが頷く。

「さっき言っていた本来の力って言うのは幻獣の力だったんです」

「なら、ミスティの本来の力を引き出すには、そのヒッポカンポスにお願いするしかないって事?」

僕の問いにクロネさんは頷く。

「なら、僕会いに行ってくるよ」

「な、何を言ってるんだ、金で雇われているとはいえ、冒険者相手だぞ、邪魔をすればどうなるか分からん」

父さんが怒ったように言ってくるけど、僕は首を横にふった。

「今いかないとレースにも、勝てないんだ」

父さんはうつむき黙る。

「大丈夫ですよ、私も一緒に行きましょう」

「え?クロネさんこそ大丈夫なんですか?」

俺の問いにクロネさんはにこり。

「こう見えてもここに来る前は冒険者してたんですよ」

「テイン、大丈夫なの?」

コムギが聞いてくる。

「ありがとう、クロネさんもいるし、それにミスティも一緒だから」

そう言って窓の外を見るとそこにはいつの間に出てきたのか、ミスティが部屋を覗き込んでいた。

放し飼いにしているとはいえ、ミスティがここまで来るのは珍しい、何かを察したのかもしれない。

「無理はするんじゃないぞ、クロネさんお願いします」

僕にそう言った父さんはクロネさんの方を向いて深々と頭を下げた。

「任せてください」

そうして、僕とクロネさんはミスティに乗り、ヒッポカンポスがいるという森の湖へと向かったのだった。

新たな章に入ります。

今回は競馬のような競走のお話し。

テインとミスティは無事に大会に出場し、入賞出きるのでしょうか?

そして、ヒッポカンポスの正体は?

次回もお楽しみに

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