麒麟児~大きなお口でこんにちは~
無事、冒険書を作れたアン。
町も観光できたクロノ達は、初めてのクエストに挑む。
果たして、結果はいかに。
アンの冒険書を作った俺達は、とても賑やかになった冒険ギルドを後にした。
それから、始めて町に来たアンを案内しながら夜になり、行きつけの定食屋で少し早めの晩御飯についた。
「おめでとう、アン」
「ありがとう、すごいね、町っていろいろなものがあって楽しかった」
満面の笑みのアンを見て、案内した俺も嬉しかった。
「これからはもっといろいろな町を見れる事になるよ」
「冒険に出るっていってたよね?」
注文していたシチューを美味しそうに飲みながらアンが聞いてくる。
「ああ、アンが冒険書を手に入れられたら行こうと考えてたからね」
「どこに行くの?」
「それは秘密だな、その方が冒険も楽しいだろ?」
「ん~」
牛肉のステーキを上手に切り分けながら、口に運び少し拗ねた顔で食べるアン。
ま、目的はきちんと決まってるんだけど。
「ま、まずはアンが冒険書を手に入れたお祝いに、何か武器をプレゼントするよ」
「本当に?でも、私はこれがあるよ?」
腰の草薙剣を手で触るアン。
「それは奥の手にして普段使う用にもう一本持っとくのもいいと思うぞ」
「そんなものかなぁ?」
正直に言うと、『神性』を得たアンがその武器を使うと本当の力が解放された状態になるので、威力が高すぎて悪目立ちする恐れがある。
『絶世の美女』を発動してる時点で注目は集めてるんだが、変に目立つのは良くない。
「で、どんな武器がいい?」
「そうだね、木刀がいいかな」
「木刀?」
「そう、お師匠さまが作ってくれた木刀」
「今日、武器屋でいろいろあったのに木刀かぁ」
「なんか、しっくりくるんだよね、木刀が」
にこにこしながら、アンは持ってるナイフを回す。
「分かった。それじゃ、とびきりの木刀作ってやるよ」
「やった」
「じゃ、食べたら、風呂に入って寝るぞ、朝一で冒険ギルドだ」
「了解です」
その後、食べ終わったアンに気づかれないように『封印』をかけた後、風呂に入った。
『絶世の美女』のスキルに軽く『封印』をかけとかないと人が多いところは心配だからなぁ。
そして、それぞれの部屋に戻った。
「おはよう、お師匠さま」
「元気一杯だな」
身なりを整え、朝食を食べにロビーに降りると、もう準備を終えたアンが朝食を頼んで待っていた。
「朝食一緒に頼んでくれたんだな、それにしても準備早いなぁ」
「それはもう、楽しみで仕方ないもん」
アンと一緒に朝食を取り、宿を出た。
目的地は昨日行った冒険ギルド。
「ここがクエスト掲示板だ」
冒険ギルド内の大きなボードの前で、アンに説明する。
このクエストボードにはいろいろなクエストが貼られている。
ランクごとに分けられていて、とても見易い。
「どんなクエスト受けるの?」
「そうだな、Cランクで、場所は古代の森かな」
「古代の森?」
クエストボードを見ながらアンが不思議そうに聞いてくる。
「そう、昨日言ってた木刀を作るのに、その森の奥まで行かないといけないからな。
なんで、同じ場所のクエの方がいいと思ってね」
「了解、ん?お師匠さま、このランク不明って何?」
「どれだ?」
アンが指差すクエストを見る、確かにランク不明だった。
何々、ワカチャの実の納品か。
グラグリと物々交換でワカチャの実を手にいれて持ってくる。
なるほどなぁ、グラグリって何?
「そのクエを受けるのかい?」
全身鎧の男が声をかけてくる。
胸元には騎士団のマーク。
この町を守る騎士団か。
たしか、定期的に訓練として冒険ギルドでクエを受けてるって聞いた事があるな。
「そうですよ」
アンが笑顔で答える。
一瞬、顔を赤くした騎士だったがすぐに元の顔に戻った。
『封印』効いてるみたいだな。
「失礼、私は騎士団のショーク。
何か困ったいたように見えたので声をかけさせてもらった。
そのクエだか、森に住む猿のようなモンスターが要求する物とワカチャの実を交換してくるというクエストだ。
要求してくる物が古代の森の中にある物で、毎回違った物を要求してくるために物によっては低いランクでは手に入れられない為、そのようなランク付けをされている」
「なるほど」
アンは素直に頷きながらクエストの紙を見ている。
「ちなみにそのモンスターから実を奪おうとしても実はどこかに隠しているみたいだから手に入らない、物々交換のみだ。
まぁ、Bランクが5人ほどいればクリアできるだろう、クエストの性質上失敗しても違約金は払わなくてもいい」
「じゃ、これにするか」
俺はクエストボードからクエストを取る。
「見たところ2人みたいだが、手を貸そうか?」
ショークが親切に声をかけてくれたが、
「いや、この娘の初クエストだから様子見で受けるので大丈夫だ」
「そうか、無理しないように気をつけて行かれよ」
「ありがとう」
アンと俺はショークに礼を言って、クエストをカウンターに持っていく。
今日はクリスは休みなのかいなかったので、他の受付嬢にクエストの紙を渡す。
クエスト受注書に名前を書いた後、
「ワカチャの実の納品ですね、クエスト内容はショークさんからお聞きになっていたようなので、省きますね。」
受付嬢は笑顔でクエスト受注書に判子を押してくれた。
「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
俺達はクエストを受け、目的地の古代の森へと向かった。
目的地までは、町から歩いてだいたい2時間ほどかかる。
ので、いつものように『ゲート』を使った。
「おお、ここが古代の森かぁって、お師匠さま!」
「ん?どうかしたか?」
古代の森の入り口に立ち、今から森に入ろうとした時にアンが不満そうに声をかけてくる。
「ここって、昨日まで住んでた森じゃないですか」
「そう、実はこの森って古代の森っていうみたいなんだ、数年前に俺もギルドで知った」
「なんか冒険って気にならない」
「そう言うな、この森もさっきの町以上の広さだし、この森の奥には行った事ないだろ」
「確かに」
少しテンションの下がったアンを連れながら俺はまず、グラグリを探した。
『探知』のスキルでは、この辺りになってるんだが。
ここまでの道中出てくるモンスターは全てアンに任せた。
やはりと言うべきか、草薙剣を使ったアンに勝てるモンスターはいなかった。
魔力を刃に纏わせる剣だか、異世界から来たアンには魔力が初めはなかった。
しかし、この世界の物を食べることにより魔力を体に宿したらしい。
「お師匠さま。ほら、あそこ」
アンが指差す方に一匹の猿が太い枝に座っていた。
黄色い毛並みに長いしっぽ、間違いないグラグリだ。
「ワカチャの実を交換してもらいに来た」
グラグリはこちらを見た後、
(アーリーレックスの牙、交換)
直接頭に言葉が響いた。
俺達の力を見て交換品を決めてるのか?
俺もグラグリのステータスを見る。
こりゃ、Aクラス何人かで戦わないと勝てないくらいだ。
『鑑定』のスキルも持っている。
しかし、アーリーレックスか。
確か、この森の奥の神代の森付近にいる巨大なワニだったか。
「お師匠さま?頭に直接声が聞こえたけど」
「ああ、それはグラグリのスキルだな」
「そっか、アーリーレックスって?」
「森の奥にいる巨大なモンスターだな、木刀を作ったら戦ってみるといいよ」
「腕試しだね」
アンがにやっと笑う。
「そういうこと」
俺達はまずは木刀の材料となる木を求めて、森の奥へと入っていった。
「道中長いからこの古代の森について話そうか」
「お、久しぶりのお勉強ですね」
「まぁ、そうかな」
古代の森
この世界を作った神が始めて大地に一本の木を植えた場所がここの始まりだとされている。
その証拠に遠くからこの森を見ると中心部と言われる場所が盛り上がって山のようになっている。
その始まりの木から種が飛び、やがて周りに木が生え森となった。
それが神代の森。
さらにその周りにモンスターや精霊が住み着くようになり、魔物の森となる。
そして、その後も森は広がり、いろいろな動物が住み着いた場所が古代の森となり、この森全体を古代の森と呼ぶようになった。
「なるほど。で、今が魔物の森と呼ばれるところですか?」
話を聞きながら襲ってくるモンスターを、草薙剣で倒しているアン。
それを残らず『解体』しながら俺は説明していた。
「そう。で、今回はその神代の森の木に用事がある」
「まさか、木刀の素材って神代の森の木?」
襲ってきた木の悪霊に一撃を入れ吹き飛ばす。
「そうだな、始まりの木ではないけど、神木にするつもりだよ」
俺は抜いたブロードソードで鳥のようなモンスターを切り落とした。
「すごい木刀作るんだね、神様に怒られたりしない?」
「ま、そうなったら違うものに変える、お願いするのはアンがするんだからな」
「ええ、責任重大」
笑いながら、前を歩いていくアン。
そう、これは俺の目的の第一歩だから、失敗は避けたい。
「なんか空気が変わってきた」
アンの言葉通り先ほどまで頻繁に襲ってきたモンスターがいなくなり、どんよりとした空気がなくなった。
「ここからが神代の森だな」
アンが息を飲む。
それほど、何か分からない威圧感があった。
「奥まで行くの?」
「いや、奥までは行かない。奥には始まりの木を守る神獣がいるからな、戦いたくないな」
「そっか」
残念そうにするアン。
いや、そんな戦闘大好きっ娘に育てた覚えはないぞ。
しばらく歩いて完全に空気が変わったところで、
「アン、どの木でもいいから手を当てて、お願いしてみ」
「お願い?」
「そう、自分の武器になってくれるようにって」
「わかった」
アンは周りを見た後、1本の木に近づき手を当てた。
しばらくすると神木が淡く青色に光る。
アンはにこっと笑って、
「大丈夫って」
言った。
よかった。まずは第一段階成功か。
「分かった。後は俺がやるよ」
俺はアンが手を当てていた木に近づき、同じように手を当てた。
(アンの為に切らせてもらいます)
そう伝えた後、俺はブロードソードを構えた。
1、飛んで。
2、俺は剣を振る。
その後、俺は神木に向かって手を向ける。
音もなく、神木の根元と遥か上の木の葉が粒子になって消えていく。
「消えた?」
「神木は実在してるように見えて実は魔力の塊なんだよ。魔力が濃すぎて触れるんだけど、消滅する時は魔力が、拡散して消える」
俺が言った通りそこまで神木があった大地には穴もなく初めから何もなかったように平らだった。
それじゃ、今からが腕の見せ所。
俺は右手で『浮遊』を使い押さえている神木に『圧縮』を使う。
それと同時に左手で『創造』を発動した。
ドン、ドン、ドンと大きな音と共に巨大な神木が縮まっていく。
それと同時に発動した『創造』により神木は刀の形に変わっていった。
そして、森に静けさが戻った時、俺の手には1本の木刀が出来上がっていた。
「すごい」
アンは俺が物を作るのを始めて見たんだったな。
「ほら、これがアンの新しい武器だ」
「ありがとう、お師匠さま」
アンはその木刀を手に取った。
「すごい持ったときに違和感がない。神木刀?」
「そう、神木で作った木刀だからな、そのまんまだけど」
柄の部分に彫ってある神木刀の文字を見たんだろう、アンがなにやら笑っている。
「ううん、お師匠さまらしいから大丈夫」
「そっか、よかった。
神木で作ってるから魔力は通しやすいし、神力も纏わす事ができると思う。
峰打ちは木刀で、本気なら魔力か神力を纏わせて戦えばいい」
「うん、分かった」
言われてすぐにアンはそれを実行した。
俺の言った通り、『神性』の属性を持つ神木刀は魔力も神力も問題なく纏っている。
「よし、それじゃ、この武器での初戦闘だね」
「ああ、ちょうど『探知』したら近くにアーリーレックスがいるよ」
アンは力強く頷いた。
「ここだな」
あれから少し行ったところ、空気が少しまどろんできた、神代の森と魔物の森の境目に俺達は来ていた。
「お、いたあれだ」
俺が指差したのは少し盛り上がっている地面。
「?」
アンは不思議そうにその場所を見る。
しかし、相手を見つけられないみたいだ。
「普段はああやって土に潜ってるからなぁ」
「そうなの?」
話しているとちょうど一頭の鹿のようなモンスターが現れた。
と同時に周りが揺れる。
そして、やつが姿を現した。
巨大な口でモンスターにかぶり付き、一瞬で食べてしまった。
目の前にいるアーリーレックス、思ったより小さい。
といっても50mくらいはあるか。
「なかなかやりごたえがあるね、武器の試しには十分」
アンはその体の半分が口になる大きな相手を見て笑った。
本当に戦闘狂みたいになってるような。
「じゃ、お師匠さま、行ってくる」
「いや、待て」
「そう、待ってもらおうか」
俺の声に続くように低い声を発した者が、俺達の目の前にいた。
深くフードをかぶり、漆黒のマントで体を隠している。
が、その気配からただ者ではないない事は分かった。
「そう簡単にはクリアできないか」
アンはポツリと呟いて、神木刀を手に相手を睨んだ。
長らく書けなくて申し訳ありません。
体調も、治ってきた感じなのでまたぼちぼち進みます。
アン達の前に立ちふさがる新たな影はなんなのか?
敵か味方か果たして。
では、次もお楽しみに。




