旅立ちは突然に
やはり復活したのか。
前の戦いで、勇者は魔王を倒しきれなかった。
だから、俺は魔王を封印したのだが、どういうわけかその封印が消えた。
はぁ、一度力を貸している世界だ。
また、力を貸すことはできない。
しかし、導くことは出来る。
あいつらには悪いが頼むしかないか。
俺はある場所に足を向けた。
別れはいつも唐突なのだろう。
ライウに魔法大全中級編を渡して、はや6年がたった。
その間、魔法以外にも剣の稽古や狩りに一緒に出て実践を経験して、ライウも立派な青年に成長した。
心の方も人を大切にし、思いやりのある青年になってくれて親としてはもうしぶんなかった。
ま、ちょっと好奇心が強いのが難点なのかと思うけどなぁ。
「父さん、手が止まってるよ~」
鍬を振りかぶりながらライウに怒られる。
「お、おう」
今はライウと2人で畑を耕しに来ている。
これも案外力を使うから体力作りの一貫になっている。
「お~い、そろそろ昼飯にするか~」
「分かった~」
俺はライウに声をかけた。
ライウは鍬を肩に担ぎ手を上げて答えた。
ナインが作ってくれた弁当を一緒に食べる。
今日もすごく晴れていた。
「気持ちいいね」
ライウはご飯を食べながらそう呟く。
確かに本当に気持ちがいい日だ。
「ライウ、何か将来こうなりたいっていうのがあるのか?」
俺は聞かないようにしていた事を聞いてみた。
これを聞くとライウがどこかに行ってしまうと感じたから今まで聞かなかった。
ライウの才能はこの村で畑仕事するだけで終わるにはもったいないものを持っている。
それに他の世界からの転生者だ。
この世界を見て回りたいと考えていてもおかしくはない。
「そうだなぁ、今はないかな。
この村で畑仕事して父さん達と暮らすのも楽しいし」
「そうなのか?」
意外な言葉に俺は驚く。
「しかし、お前には才能がある。
この世界を回っても十分なほどに」
なに言ってんだ?
俺は息子に冒険に出てほしくないのに。
「そうかな?
だって、農民の父さんにまだ1度も勝ったことないんだよ?」
ま、確かにそうかもしれないが。
俺はもともとおかしなスペックで生まれてきたからなぁ。
これが非戦闘職業の平均と思われてるんではないのか?
「ま、なんとなく父さんは他の人とは違う感じはしてるけどね」
笑いながら言うライウ。
ほ、勘違いはしてないか。
「そうか」
息子が出ていかないことにほっとしながらも、その実力を本気で出せないストレスを感じていないか心配にもなった。
「それじゃ、父さん。
畑仕事終わったら稽古つけてよ」
「お、いいぞ」
俺は息子からの申し出に嬉しくなる。
さ、さっさと畑を耕すのを終わらすか。
俺とライウはそれからものすごいスピードで畑を耕した。
そして、いつも使っている場所に向かう。
そこは村から少し離れた草原。
大昔、勇者がモンスターの大群と戦った場所と言われていて、見渡す限り凹凸のない場所だ。
俺はいつもここでライウに稽古をつけている。
ここなら魔法を撃ちまくってもあまり被害でないしな。
「いくよ~」
かなり離れたところから開始の合図を出すライウ。
「おう、いつでもいいぞ」
俺の返答と同時に離れた場所にいる俺からでも明らかに大きい火の玉がライウの頭上に複数現れる。
「おりゃ~」
そして、火球がこちらに向かって放たれた。
中級しか読んでないはずだが、こんな火球撃てるんだなぁ。
迫り来る火球。
この威力ならそこいらにいるモンスターなら一撃だなぁ。
そう思いながら、俺はその火球を剣を横に薙ぎ剣撃で消し去る。
(相変わらずすごすぎるぞ、父さん)
あ、やってしまった。
無意識で払ってしまう。
ん?
遠くて聞こえないが詠唱してるのか?
突然、ライウの方から竜巻が横になって襲ってくる。
く、これは避けられないか。
竜巻の中に囚われる。
くそ、体が動かしにくいな。
少し体が痺れるということは、電撃を混ぜたか。
竜巻の奥からライウがこちらに向かって突進してくるのが見える。
はは、よくここまで。
息子の成長を見れる。
こんな嬉しいことはない。
だが、まだこんな事で負けてやる訳にはいかない。
どこに行っても負けないくらいに俺はお前に全てを教えてやる。
俺は体に力を込める。
『封印解放』
久しぶりに自分の押さえている力を解放した。
よし、体が動く。
「はぁ!」
衝撃波で竜巻を消し飛ばす。
びっくりした顔のライウがすぐそこまで来た。
「反則すぎだぁ」
笑いながら叫ぶ息子。
勢いある横薙ぎが俺を襲う。
手に魔力を込める。
がし
ライウの一撃を手で掴む。
「防げよ」
気力を込めた拳をライウに打ち込んだ。
よし、腕で防御できたな。
吹き飛ぶライウ。
「くそう~」
吹き飛ばされながら空中で1回転して着地。
すぐさまこちらに向かってくる。
俺も剣を構えた。
ガ、キン
一合、二合、三合、打ち合いが続く。
受ける為に合わせるのではなく、斬る為に合わさる。
剣ごと相手を倒す気で俺もライウも打ち合っていた。
火花が散る。
今はもう回りから見たら俺達を中心に風が舞ってるように見えるだろう。
剣撃が飛び交い、回りの大地に斬撃の後が残る。
かなりの数を打ち合っているが、ライウは笑顔だ。
汗まみれで汗が飛び散っているが、少しも苦に感じていないのだろう。
強くなってる。
力を解放して少しは手を抜いているとはいえ、ここまで俺についてこれている。
息子の強さが嬉しい。
ここまで成長してくれて。
俺が望んでいた以上に成長してくれている。
過保護にきてきた事もある。
これでも言い合いもした事もある。
でも、それでも自分の意思で強くなってるいく息子が俺は誇らしかった。
「楽しいな」
俺の言葉に息子は笑顔で「もちろん」と答えた。
ありがとうな、俺達の元に生まれて来てくれて。
「おりゃぁ~」
本気で撃ち込む。
「うわ~」
吹き飛ぶライウ。
そして、俺はライウとの距離を一瞬で詰めた。
「はは、力隠しすぎだよ」
地面に座り込んだライウの喉元に俺の剣が。
「まだまだ、越えさせてやるにはいかんからな」
俺は笑いながら剣をしまった。
「帰るか」
「うん」
元気よく立ち上がるライウ。
自身の力を再度封印しながらライウを見た。
あれだけ動いた後に息を切らしてないお前も十分すごぞ。
ライウには言わないが俺はそう思った。
「ただいま」
俺とライウが家に着いた。
「あ、おかえりなさい」
リビングで出迎えてくれるナイン。
しかし、リビングにはもう一人黒いフードを被った人物がいた。
「この人は私の知り合いなの」
「はじめまして、クロノと言います」
フードの人物はフードを取った。
なぜだろう、初めて会うはずなのにどこかで見たことがある。
「カリウスです」
俺も挨拶した。
「こっちが息子のライウ」
ライウも頭を下げた。
「それで、何かご用でしょうか?」
そう言いながら俺は椅子に座るようにすすめる。
その言葉に何故かナインが下をうつむいた。
俺達は椅子に座る。
ちょうど俺達と向かうように座るクロノ。
「単刀直入に言うと、魔王が復活しました」
「え?」
「前回魔王を倒した勇者が倒しきれなかったのです。
その一部を私が封印していましたが、それが解けました。
理由は分からないのですが、復活したのは確かです」
嫌な予感がする。
「それがうちに何か関係があるんでしょうか?」
声が無意識に強くなる。
もちろん、魔王が復活すれば全ての人に関係することだ。
しかし、クロノがここに来た事がその関係が他の人と違う感じがした。
「なんとなく感じていらっしゃるようですね。
そうです、あなた達の息子さんに魔王討伐に出ていただきたい」
「な、何を馬鹿な。
年齢では成人していますが、まだライウは未熟です」
俺は思ってない言葉を口に出した。
ライウの実力は他の人から見たら何倍もずば抜けている。
しかし、それを認めたら。
「私もついて行きます。
ですのでどうかお願いします」
そう言ってクロノは頭を下げた。
「し、しかし」
なぜだろう、彼の言葉を断れない。
「あなた」
ナインは悲しそうな声だったが、顔は決心していた。
「ライウ、お前はどうしたい」
「俺は」
ライウはうつむく。
そして、俺の顔をまっすぐ見つめて言った。
「この世界を救いに行くよ」
次の日の朝、ライウはクロノと一緒に旅に出た。
俺の持つアイテムをいくつかと魔法大全上級編も持たせた。
大丈夫だ。
ライウなら、やっていける。
俺はそう自分で言い聞かせながら1週間過ごした。
「何してるんですか?」
部屋のクローゼットを開けて俺が荷造りをしているとナインが覗いてきた。
「い、いや、ちょっと荷物整理を」
「冒険に出る気満々で?」
「いや、これは」
振り向くともう旅の準備を終えているナインがいた。
「ナイン」
「もう、待ちませんよ」
そう笑顔で言うナイン。
「そうだな、ごめん。
一緒に行ってくれるか?」
「もちろんです。
私はあなたのお嫁さんですから」
「ありがとう。
それじゃ、行くか。
息子の晴れ舞台を見に」
俺は鞄を背負う。
剣を持つ。
そして、隣に最愛の相手を連れて、息子の後を追った。
彼がこの家に来た時に覚悟は決まりました。
彼からは勇者様が魔王を倒しきれなかった事は聞いていましたので。
でも、封印が解かれることは永遠になければいいと願っていたのですが、まさかこの時代に解かれるとは。
これも勇者様が転生した時代、運命なのかもしれません。
ライウが旅立ってからの1週間はとても静かでした。
でも、勇者様が荷物まとめてると感ずいた時は笑ってしまいました。
だって私もその前から準備していましたから。
これから息子を追いかけます。
今度は誰とも別れたくないですから。




