弓の迷手
後に戦国時代と呼ばれる時代。
1人の弓の名手は、無理難題を押し付けてくる親類に嫌気がさしつつも、しょうがないなぁと生きていた。
そして、また、今回も無理難題を押し付けられる。
※平家物語の登場人物が出てきます。平家物語のオマージュになりますので、よろしくお願いします
私は昔から弓が好きで、幼少の頃はよく兄達と弓の稽古をしていた。
父上の前での弓の競争では、一番を取り父上に大変驚かれたものだ。
それから、私はまだまだ腕を磨くために、弓の稽古を続けた。
それを見た兄達は面白がっていろいろと私に射らしたものだ。
「おい、与一あれを射ってみろ」
そう言われて目を向けたのは高く飛ぶ、1羽の鳥だった。
「兄者?あれはちょっと高すぎないか?」
「何を言う、我らの中で1番の弓の使い手が出来ぬはずはあるまい」
兄者はからかっている訳でも、冗談でいってる訳でもない大真面目の顔で私に言った。
「あにじゃ~」
「?」
どうしたと、言う顔でこちらを見る兄者。
「はぁ~」
ため息をつきながらも私は矢筒から、ゆっくりと1本の矢を引き抜いた。
そして、いつものように目を閉じ念じる。
パッと目を開き、今から射る物を見て構える。
そして、私の放った矢は、飛ぶ鳥を射ぬいた。
「ふぅ」
「ほらな、与一よくやった、これで夕食が少し豪華になるな」
「いや、兄者、家は家族多いから一匹だけでは豪華にならん」
「そうかぁ、なら、もっと捕るか」
そういって、よく無茶苦茶な狩りをしたものだ。
あれからいく年が過ぎ今では、私も兄者達も立派な侍となった。
しかし、私には1つだけ気がかりなことがある。
その気がかりなことが原因で、今は1人、昔から馴染みがある川に来ていた。
シュ、シュ、シュ
3本の矢を川に向かって放つ、全ての矢は魚に当たり、今日の昼飯ができた。
そこに奇妙な声が聞こえた。
「ぐわぁ~これ失敗したわ~」
その声の方を見ると、川上からざぶんざぶんと1つの丼が流れてきていた。
「酔う、これはほんまに、酔うからぁ」
丼に何か入っているのか?
「いや、まじでこれは『転移』してまう、『転移』してまうって」
そう言いながら、丼の縁に1人の男の子?が顔を出した。
しかし、この流れの中、そんなところから顔を出すと
「う、うわぁ~」
案の定、丼がひっくり返り、子どもが放り出される。
私はすぐさま弓を引き、ダン
子どもの服を射つつ川の向こうにある木に、子どもを打ち止めた。
「ありがとうな、お侍さん」
「いや、構わんよ」
助けた子どもをまじまじとみる。
立てる年なのだろうが、あまりにも小さい。
おおよそ2寸くらいか?
「私は与一、そなた名は?」
「俺か?俺はそうだなぁ」
自分の名を名乗るのになぜか首をかしげる子ども。
「2寸?そうニスンだ」
「ニスン?」
「よろしくな、与一」
本当に小さな手を出され、私は指で返した。
「しかし、疲れたら腹減ったなぁ、与一なんか食べるものないか?」
そのニスンの言葉に兄者を思い出す。
「しかたない、今からちょうど昼飯だ、一緒に食うか?」
「おお、助けてくれただけでなく、飯もくれるとは与一は神じゃないか、仏だな」
「大げさだ」
私は与一を手に乗せ、魚を採った場所に移動した。
「上手い、この焼き魚最高だ」
「それは良かった」
自分の体より大きいと思われる魚をニスンは豪快にかじりついていた。
「なるほどなぁ、小さいとこういう時は便利だな?」
「ん?」
「いや、なんでもない」
何か言ったように聞こえたが少し意味が分からなかった。
「そういえば、どうして与一はこんなところにいるんだ?今は合戦中だろ?」
「まぁな」
そう、今は合戦の最中、ある武士同士が2つに別れて戦っていた。
「少し気になることがあってな」
こんな子どもに話しても何も変わらないと思うが、愚痴のつもりで話した。
昔、弓が上手かった事、多くの戦に出てこの弓で戦果をあげた事。
しかし、ある時から、大勢の人に見られたり、注目されると矢が的に当たらなくなってきた事を。
「緊張感-か」
「緊張感なんだって?」
「いや、こっちの話」
話を聞きながらこちらを睨んでいたニスンはさっきまでの笑顔になって話をごまかす。
「なので、ここで気を落ち着かせていたのだ」
そう、この後、私の出番が回ってくるかもしれない。
その時の為に万全ではなければならない。
「あのさぁ、それ、俺がどうにかしてやろうか?」
「な?できるのか?」
「ああ、助けてくれて、飯も馳走になったんだ。
もらった恩は返さないとな」
そう言ってニスンは私の背中に回る。
「ほら、これがギフトだ」
パチンと小さな音の後、
「これでもう大丈夫、今日から与一は昔の百発百中の頃に戻ったよ」
「そうなのか?」
「そうなのだ」
不思議そうに聞く私に、ニスンは笑顔で答えていた。
「もう行くのか?」
「ああ、ここでの仕事は終ったみたいだから」
「そうか、では、達者でな」
「ああ、与一も」
そうして、私はニスンと別れた。
これから多くの敵の待つ戦場に出る。
果たして私の弓の腕は戻ったのか分からない。
しかし、昔見たあの無邪気な兄者の顔を思い出させてくれたニスンを信じようと思った。
ゆっくりと馬にまたがる。
どこからともなく戦の匂いがする。
戦いはもうすぐそこまできていた。
これにて、与一のお話は完結になります。
こういう話もあるかなと言う感じの物なので、実際とは大きく異なっております。
ifまたはパラレルワールドのお話、事実は誰にも分かりません。
このお話についてはその後のお話はありません。
キャラ紹介の後、次の章に映ります。
次は1人の子どものお話、長編予定です、では、また次回の章でお会いしましょう。




