生け贄は
セリエは魔法使いかもしれない執事のセバスチャンに叶わないと思っていた願いを呟く。
それに意図も容易く承諾したセバスチャン。
かくして、セリエは願い通り町に繰り出した。
「本当に出れたんだ」
私は町の周りを見て、嬉しさを隠しきれなかった。
「約束はきちんと守らないと」
隣でセバスチャンが微笑む。
私は今フードを深く被った、メイドの衣装を着ていた。
私の部屋には、私の代わりをしてくれる女性をセバスチャンがどこからともなく連れてきた。
その女性には申し訳ないと何度も言ったのだが、女性は快く私を送り出してくれた。
そして、私は今、セバスチャンのお手伝いとして町に出ているのだった。
「お嬢様の髪は特別にお綺麗ですので、フードで隠しておかないといけないですよ」
母譲りの金色の髪、この町では私以外にはいないと聞いたことがあるので、セバスチャンの言葉には納得できた。
「おや、今日はお供付きかい?」
「ええ、新人研修みたいなものですよ」
肉屋だろうか?優しそうなおばさんとセバスチャンが話している。
「ほら、今日はこれを持っていってくれるかい?お嬢様に美味しいものを食べさしてやっとくれ」
「え?」
おばさんの言葉にびっくりする。
「ん?どうかしたのかい?お嬢さん?」
「い、いえ、ありがとうございます」
「はは、おかしな子だ」
おばさんは笑いながら肉を袋に詰めてくれた。
「セバスチャン、あれって」
「お嬢様はご存知ないでしょうが、この町の皆さんは誰1人として、お嬢様を生け贄にしたくないのです。
しかし、この町の領主は今や奥様、逆らうことなど出来ないのも現状なのです」
「そうですか」
セバスチャンの言いたいことは分かる、領主に逆らうともう町には住めなくなってしまう。
それは、仕方のないこと。
「お嬢様、あそこにちょっとしたゲームコーナーがございますよ」
私が暗い表情になっていたのか、セバスチャンが明るく声をかけてくれる。
(そうね、せっかく死ぬ前に夢が叶ったんだ、今を楽しまないと)
「的当て?」
「お、セバスチャンじゃないか?今日はデートかい?」
「はは、こんな老人を捕まえてデートとは、新人研修みたいなものですよ」
「そうか、そうか、どうだい?お嬢ちゃん。
今なら的に当てるとこの白い熊のぬいぐるみをプレゼントだ」
私はセバスチャンの方を見る。
「そうですね、恩人には恩を返さなくては」
「ん?セバスチャンがするのかい?なら、サービスでナイフ5本にしとくよ」
「いえいえ、1本で構いませんよ、なんせ私は百発百中ですので」
そういうと、セバスチャンはナイフを持ち、的に向かって投げる、しかし、そのナイフはどうみても的外れなところへ。
「ほら、言わんことじゃない」
「セ、セバスチャン」
「はは、お嬢様信じるものは救われるですぞ」
耳元でそう言われた瞬間。
トスっと良い音と共にナイフは的の真ん中に当たっていた。
「え?」
的当てのおじさんも私もびっくりして何度も的を見る。
「ほら、言った通りでしたでしょう」
「くそ、何か魔法でも使ったな、ほら、お嬢さん」
おじさんは軽くセバスチャンを睨みながら笑顔でぬいぐるみを渡してくれた。
「そうそう、ご主人、私のあげたお守りきちんと持っていますか?」
セバスチャンは不思議な事を聞く。
「ああ、肌見離さず持ってるぜ」
「それはよかった必ず持っておいてくださいね」
そういうと、おじさんに別れを告げ、私達は歩き始めた。
「お守りって?」
私は気になりセバスチャンに聞いた。
「お嬢様に親切にしてくださった人に渡しているのですよ」
いつもの笑顔で答えてくれる。
「そうなんだ、なんか嬉しいね」
自然に私も笑顔になった。
お守りを持っている人みんなが私の事を気にかけてくれていると思うと、とても幸せな気分になった。
「お嬢様、少しお待ち下さいね」
そう言って野菜売りの露天に向かうセバスチャン。
私はそれを眺めていると、視界の端にうずくまっている1人のローブ姿の人を見つけた。
(大丈夫かな?少しの間だけ)
そう思って私はそのローブの人に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ、すぐに良くなります。
あなたが死ねばね」
「え?」
ローブの影から鋭いキバと大きく開かれた口、そして、紫色の手に持ったナイフが私を襲う。
「危ないお嬢様!」
セバスチャンの声が聞こえたが、震えて動けない。
「はは、死ね」
ガキ
しかし、ナイフは何か光の盾のようなものに当たって防がれていた。
「くそ」
そういうと、ローブ姿の魔物は姿を消し、
「大丈夫ですか、お嬢様」
急いでかけよってくるセバスチャンと、大騒ぎになってしまった町を見て、私は夢が覚めたのだと思ってしまった。
あれから、すぐにお義母様達が駆けつけて私はまたいつもの部屋に、セバスチャンは私を無断で連れ出し危険にさらしたということで、解雇されてしまった。
後で聞いた話だが、私が部屋からいなくなった後、部屋からは返事が聞こえたが、私が外に抜け出した事が分かってすぐに部屋を調べたが誰も居なかったということだった。
本当にあれは夢だったのだろうか?
今はそれに答えてくれる人はいない。
とうとう、この日が来たんだ。
私は白い服を着て、広場の中央にある火炙り台を見ていた。
お義母様は大きな声で何かを北に向かって喋っているが私にはどうでもよかった。
広場には、悲しい顔の人達がたくさん来てくれていた。
私の事でこれだけの人が悲しんでくれている、これだけで私は嬉しかった。
でも、最後にもう一度だけ会いたかった。
セバスチャンあなたにお礼が言いたかった。
「私の方こそ言わないといけないですよ」
「え?」
「振り向かないで、今周りは奥様の方を見たり、悲しんで下を向いている人ばかり、誰もこちらには気がつきません」
「セバスチャン」
私は小声でその声の主を呼んだ。
「本当に申し訳ございません、あんなミスをしてしまうとは、情けない」
「いいの、こうやって最後に会いに来てくれたことが嬉しい」
涙が出そうになる。
「お嬢様、私がしてあげる事はもうあまりありません、ですのでこれを」
そういって手になにかを渡される。
「あと、あなたに幸がありますように私からのギフトです」
トンと背中を叩かれる。
「では、お嬢様、お元気で」
今から死んでしまう人に元気でなんて。
でも、セバスチャン、ありがとう会いに来てくれて。
私はそっと手渡された物を見る、それは白い熊のぬいぐるみと一輪の花。
「この花」
「おい、進め」
お義母様の執事達によって私は火炙り台へと連れていかれ柱にくくりつけられた。
その手にはきちんと白い熊のぬいぐるみとお母様が大好きな花を持って。
最後にくれたセバスチャンのギフト。
ありがとう、これでお母様に会えるかもしれない。
ゆっくりと足元の下の木に火がつけられる。
私の周りで多くの人が悲しんでくれている。
大丈夫、もう大丈夫、私はあなた達の心に救われたから。
だから、みんな元気で。
そして、私はゆっくりと目を閉じる。
次、目を開けたときにどうかお母様がいますようにと。
セリエは悪魔との約束通りに生け贄にされてしまいました。
その後、悪魔は約束を守ったのでしょうか?
それでは、また次のお話で




