①
ふわり、ふわりと宙に浮かんでいるかのようだった。周りは雲に覆われ、時折走る赤や黄色の直線が、状況に彩りを与えている。聴覚は碌な情報を運んでこない。ざわざわと胸の締め付けられるような音だけ。いや、これは単に俺の胸がざわついているだけなのか?
ここは、どこだろうか。空の上? 夢の中? どちらかと言われれば後者の方がそれらしい。意味のわからない空間を漂うなんて、あまりにも夢らしい状況だ。
俺が苦笑いを浮かべた、その瞬間だった。唐突に俺の体に重力が働き出した。猛烈な勢いで落下し始める。しかも、ただの落下ではない。落ちながら右に左にと全身が引っ張られ、俺の体は冬の落ち葉のように舞い踊った。
突き抜けた雲の先には、街が広がっていた。俺は直感した。これは、俺の街だ。普段から歩き、見渡し、聞き入り、生きている、俺の暮らす街だ。何の理由があったわけでもない。だが、俺はそれを確信していた。
相変わらず振り回され、ねじり切られそうな俺の体は、しかし明確にどこかを目指しているようだった。一体どこを? わからない。わかりたくもない。俺の意思とは裏腹に、俺の体は落下する。その先にあるのは、道路?
ぐんぐんとスピードは増してゆき、何の変哲も無い道路との距離も縮まっていく。必死に両手両足を伸ばしてみるが、スピードの落ちる気配はない。このままじゃ、ぶつかる!
道路と体が衝突するはずの一瞬、俺は何かを見て、聞いたような気がした。それは、目の前を走り抜ける巨大な何かの影。耳を劈くクラクション。そして、一人の少女。少女? 一体誰だ? ショートボブの髪型、華奢な体格。既視感のあるシルエットだ。俺は彼女を知っているはず。そう、あの子は……。
少女の方に、巨大な何かが向かっていく。俺は彼女に手を伸ばすが、ギリギリのところで届かない。彼女の名前を叫ぼうとするが、喉が詰まって声が出ない。ダメだ、間に合わない。あの子は俺の、大切な人なのに——。
突然、雷のような轟音が鳴り響き、俺の見ていた光景が大空に引っ張られ始めた。雲も、街も、少女も、虚空に吸い込まれていく。激突するはずだった道路すらも消え去り、そして俺は、そのまま闇に飲み込まれていった。