恋愛景気後退
ぼろぼろ泣いている時の女性の顔って怖かわいいなと思って書きました。
『ごめん、陽子』
「……」
そういうことだと思った。
最近はわたしから浩介にメッセージを送るばかりだったし、メッセージの返信は遅くなる一方だった。
最後に顔を合わせたのは、1週間ほど前だったか。
マクロ経済学の臨時講義で会ったのが最後だ。
「…ううん、わたしも悪かったし、気にしないで」
『……』
PCでメッセージの返信が滞るようになった9日前からつけている表計算シートを開く。
たった1週間ほどで、浩平からのメッセージの返信間隔が数時間単位で伸びている。
行動は正直だ。
「由美さんと、幸せになってね」
『陽子…』
デスクチェアから腰をあげ、洗面所に向かう。
脚がゾンビ映画の登場人物みたいにガクガクして、笑ってしまいそうになる。
『あのな、俺がこんなこと言っていいのかわからないんだけど、陽子とは、これからも友達でいれないかな。これで、陽子ともう話せなくなるなんて、俺嫌なんだよ』
「……」
寒気がするほどのクズだこいつは。
そんなことは付き合い始めた当初からわかってたというのに、こいつとの恋愛関係が終わってしまうことに関して、心臓が包丁でぶっすり刺されたように痛む。
「……浩介の好きにしたら」
『…陽子、ごめんな』
大粒の涙がぼたぼたと洗面台に流れていく。
いけない、泣き喚いてはいけない。歯を食いしばる。
「じゃあね、浩介、元気で」
『…ああ、陽子も』
「はーー…」
電話が切れ、深く息をつく。
腕で涙をぐいと拭いて、正面の鏡を睨みつける。
電話で別れ話を切り出されたのが幸いだ。
今のわたしの顔を浩介が見たら、二度と復縁なんてできないだろう。
涙で濡れててらてらと光る睫毛に縁取られた、白目の青白い三白眼が、ヒクヒクと口角を上げながら、こちらを睨み返している。
大体浩介はわかってない。
なんでも手に入れてきたわたしが、そう簡単に諦めると思ったら大間違いだ。
もうちょっと続きます。