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仲間づくりも大切です

「さて。ついたの。楽しみじゃのう」


「え……いや、え……と……」


流されるままにーー国をとる、という言葉の意味もわからぬままにーーつれてこられたのは森の中にポツンと佇む酒場。


「ここで、なにを?」


「決まっておる。仲間探しじゃ!」


「え……」


「さあ!中に入るぞ!アルフレッド!」


「いやいや、待ってよ!僕まだ、国をとるって意味もわかってないし、それにアルフレッドって、誰さ、それ。僕の名前はアルフレドで……」


「なんじゃ。なにをおこっておるんじゃ?」


「いら、違うよ、おこってるんじゃなくて、話も聞いてもらえないから!」


「やはり、おこっておるではないか!」


「いや、だから……」


「なぁに?さっきから外が騒がしいと思ったらあなた方お客さん?」


急に酒場の扉が開いて男の人が顔を覗かせる。

しかし、男の人といっても全然男らしくなく、女物の服を着て、女の人のような口調で話している。

ど、どういうことだろう。

男の人に見えるけど実は女の人だったり?……


「そうじゃ!わしらは二人とも客じゃ!さっそくじゃがら入らせてもらうぞ」


「はぁ?あなた、まだ子供じゃなぁい。だめよ、子どもは。でもそっちのお兄さんはオールオッケーよん」


そんな言葉にむすくれた様子のカヤは

「ちと耳をかせ」

という。


「なによぉ」


めんどくさそうに屈んだ男の人の耳元に手を当てるとコソコソとなにかを呟くカヤ。

カヤが何を言ったのかは知らないけど、カヤがその何かを言ったことによって男の人の表情がガラリと変わった。

なにかに納得したような、そんな表情。


「したかないわねえ。特別よぉ。大体、私はここのしがないアルバイトなんだから。こんなこと決める権限ないから。自己責任ではいりなさぁい」


「ほぅ。お主、アルバイトなのか。それにしては大した貫禄じゃのう」


「はあ?」


「歴戦を経験してきたかのような雰囲気を醸し出しておると思うてなあ」


「……変な子。とっとと入んなさい」


そういうと店の中へ姿を消す男の人。


「ほれ。アルフレッドもおいで」


「え?だ、だから僕はアルフレッドじゃないしなんで」


「いいから来るのじゃ。ほれほれ、置いていくぞ」


「ちょっ、え〜〜っ」


そうはいいつつも結局、押しの弱い僕は当たり前のように彼女に続いて酒場の中へ足を踏みいれたのだった……









酒場の中に入ってすぐ、そのムッとするような臭いに顔をしかめる。

いくつものお酒の匂いと男の人の汗の匂いと女の人の香水の匂いと……

色々な臭いが混じり合ったそれは本当に嗅ぐに耐えないものだ。


店内の雰囲気は別に悪くは無かった。

灯りは天井からいくつか吊るされたあたたかな色合いの灯火だけで雰囲気があって、こういうのが僕は好きだった。


7つほどのテーブルが置かれていて、それを囲むようにして沢山の人がお酒を飲んだり食べ物を食べたりして楽しそうにしている。



店の奥の壁には沢山のお酒のボトルを入れるようの棚があって、そこにざっと見、100種ほどはありそうな、ほんとに様々なお酒が並べられている。



その手前にはカウンター席が付いており、何人かはそこでゆっくりとお酒を楽しんでいる。



「おお!これは楽しそうじゃなあ。酒場など幾年ぶりじゃろ」


「い……幾年ぶり?子供なんだからお酒は体に悪いよ。背が伸びなくなったりするかも」


「ん?ああ、そうじゃな。ありがとな」


そんな言葉に、なんだか軽く受け流された感を感じ取りながらも諦めてカヤについて店の奥へ歩いていく。



途中通りかかったそばのテーブルの筋肉質な男の人が高く掲げすぎたビールが溢れて顔にかかったけど、そのことを言うのも怖くて僕は黙って顔を拭い黙って歩き続けた……。




カヤに手を引かれるままにたどり着いたのはカウンター。

カウンターの中にいる女の人が


「ああ、さっきクーちゃんがいってた子かしら」

という。


クーちゃん……さっき会った女の人みたいな男の人のことかな。

怯えながらも周囲を見渡すとその人はテーブルを回ってお酒や食べ物を運んでいた。


「うむ!して、お主、ここの掲示板はどこじゃ」


掲示板……


「掲示板?それなら、あそこ。あっちのはじにあるわ。今はまあまああるわよ。大きいのもあるにはあるわね」


「おお!そりゃ、いい。よし、行くぞ、アルフレッド」


「だからアルフレッドじゃ……」


もういい加減訂正するのも疲れてきてしまって、もうアルフレッドでもいいかななんて思い出す。

そしてまた先ほどのようにカヤに手を引かれ、若干強制的に、その掲示板なるものの場所へつれていかれる僕。

途中また屈強な男の人たちにぶつかりかけたりビールや食べ物が飛んできたりしてすごくビビったけれどなんとか平静を保ちカヤの手の感覚にだけ集中する。


「ほれ、アルフレッド、着いたぞ」


「……わあ……」


カヤの声に顔を上げてみると、そこには掲示板ーーイメージ通りの掲示板ーーがあって、沢山の紙が貼り付けられていた。

その、一つ一つの紙に目を通していって、驚く。

これ……


「ほう。中々に面白そうなものが集まっているのではないか?」


カヤはひどく楽しそうにその紙を見て行く。


「これなんか最高ではないか」


そういってカヤがビシッと指差した紙には、

『黄昏の平野団: 募集→団長。軍師。

まずはご連絡を』

そんな、簡潔な言葉が記されている。


「えっ……と……これって、何をいいたいの?」


「もちろん。これに応募する」


「えっ?……あ、ああ、君が、ってこと?別に構わないと思うけど、子供が団長とか策士ってできる……のかな。あ、いや、別にバカにしてるわけじゃないんだけどさ」


どうしよう、なんて言えば傷つけずにカヤにこのことを思いとどまらせてあげられるだろう。

やっぱり、カヤみたいな小さな子がきたら絶対カヤにとって嫌なことが起きそうだし……


「?何をいっておる、アルフレッド。お主が、応募するんじゃぞ」


「え?……」


「ほれ、団長、と書いておるじゃろ?これに応募するんじゃ!」


「……」


「そしてわしが、軍師に応募する」


「……え……」


思わず言葉も出てこなくなる。

な、何をいってるんだろう。

いよいよ話についていけないんだけど……


「なぁに。あんた方、どっか入る気?」


不意に声をかけてきたその人は、クーちゃんと呼ばれていた男の人。


「うむ!ここに応募するかと思ってな」


「へぇ〜。なにに応募するわけ?」


今頃気づいたけど、この男の人の服、女物なだけじゃなくて、胸元があいてる……

どうしよう。話よりそっちが気になって仕方ない。


「わしが軍師で、こっちが団長じゃ」


「まるでもう決まったみたいな言い方ね」


そういってクスクスと妖艶に笑うと


「で、あなた方はそうしてなにがしたいの?あたしはここのしがないアルバイトだからね、今まで何度もそこの掲示板に載ってる紙に……団に応募する子たちを見てきたわ。けど、あなた方はその誰とも違う感じ。」


「ほう?……それはどういう意味じゃ」


「悪い意味で、よ」


そういうと男の人は、女の人がよくするような(うちの妹たちが僕によくしてきた)人をバカにした笑いを浮かべてみせた。


「なんの目的もなくただただ寝食を求めて応募する……なんてやつもざらにいる。けど、あんた方はそれよりタチが悪いわね」


男の人が少し屈んでカヤと同じ目線にくる。


「なんでじゃ。理由を申せ。でなきゃわからん」


「主たる目的がなにもない……。違う?」


そんな言葉にゾッとする。



……目的もなにも、僕はここに連れてこられた理由すら知れてないよ……



「いんや、あるぞ。それはお主の勝手な勘違いじゃろうて」


小さな体で一生懸命に胸を張ってそういうカヤは、さっきからやってる行為が行為であれど、とても可愛いらしい。



「わしと、アルフレッドは、世界を統べる」


「……」


「この戦だらけの世界に幕を閉じるため、わしらはここへきたのじゃ。それで良いか?黄昏の平野団のものよ」


黄昏の平野団のものよ……って、一体誰に……そう思ってあたりをキョロキョロと見回していたら、クーちゃんなる人がにいっと満足げに笑って指を鳴らす。

すると途端、その人の格好が様変わりしていく。

フリフリのスカートや胸元のあいたふくは消え去り、その人はただ、紺色のローブを身に纏たいとんがり帽子をかぶった……まるで魔法使いのような見た目になっていた。


「やるじゃない。まさか私の正体を見抜くなんてね。初めて会ったときからなんとなく感じてたけど、あんたこそただ者じゃないでしょ」


二人のやりとりに全くといっていいほどについていけない僕は右往左往してしまう。


「けど、あんたはなにも感じないわね……。ちょっと来なさい。あたしがあんたのこと見てあげる」


「え!?ぼ、僕のことですか?」


話が一向に読み込めないまま、今度はクーちゃんなる人に手を引かれ、僕は酒場の外に連れていかれた…….



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